私が岸田総理の経済対策に大賛成なワケ

イラストを用いて「好循環」型経済を説明する岸田総理
首相官邸HPより

岸田総理が令和5年11月2日に総合経済対策に関する記者会見を官邸でおこなった。筆者はこの会見で述べられた経済対策に大賛成である。なぜ、大賛成なのか。主に二つの理由がある。順を追って説明していこう。

まず何よりも、岸田総理が「好循環型経済を実現する」というビジョンを明確に示されたことである。ここでいうビジョンとは、全ての経済施策の軸となる構想のことであって、ただの数値目標や耳あたりのよい理想を指すものでは無い。

私は、このような明確なビジョンある経済政策を歴代総理の口から聞いた記憶はない。今までは、どちらかというと、抽象的でなんとなく先進的に感じる・・ある意味では官僚が好みそうなニュアンスや言葉の数々で飾られた、中身が不明瞭かつ軸が通っていないものだったように思う。

軸となる明確なビジョンが無ければ各施策の成果目標が曖昧となり、結果的に場当たり的な施策がそこら中に散乱しているという状況になる。それはつまり循環が不在であるから、過去30年の停滞状態を延長することに他ならない。しかしビジョンがあればこそ、各施策に一本の力強い軸を通すこととなり、好循環に向けて、全てが有機的に繋がる可能性が初めて出てくるのである。

少し遡ること9月25日。総理が「成長の成果(税収増)を国民に還元する」と発言されてから、論壇、メディア、そして政治家までもが「減税、減税」と言い出した。前回の寄稿でも指摘したことだが、国民負担増も税収増も、なにも今に始まったことではないので、もっと早く言い出すべきだったと思うが、いずれにしてもこういう議論がなされるようになったことは歓迎したい。そしてこの議論を巻き起こすきっかけとなった岸田総理の発言を大いに評価したい。

それにしても、総理の発言に対する「減税、減税」の大合唱はなんとも単純な反応であり、かつ、あまりにも短期的、あまりも目先思考だと言わざるを得ない。なぜなら、そこにビジョンが不在だからである。

企業経営にも同じことが言えると思うが、大事なことは本質的なビジョンをまず掲げることである。そのビジョンがあってこそ、逆算し、いま何をすべきかを明らかにすることができると思うのだが、果たして「減税、減税」ばかりを唱える人たちは、どんなビジョンを掲げているのだろうか。決して減税を否定する訳ではなく、むしろ過剰な国民負担を減らす手段として絶対に必要と思っているが、私の瞳にはその人たちのビジョンが全く見えず、場当たり的なパフォーマンスにしか映らない。

さて、大賛成の理由その2は、岸田総理が会見で打ち出した「好循環型経済」というビジョンが極めて本質的であるということだ。

このビジョンについては、会見で使用されたイラストと総理の説明を聞く限り、筆者が前回の寄稿で提唱した「国内循環型経済」とほぼ同質であり、ゆえに大いに共感するところである。細かい内容については、前回の寄稿で確認いただきたいが、「国内循環型経済」を端的に言うと、国富の海外流出や無駄な歳出を抑制した上で、国民の可処分所得、消費、企業の業績(GDP)、税収、官民投資・・これらが好循環する経済を実現することを指す。

「国内循環型経済のイメージ」筆者作成(前回の寄稿より抜粋)

総理の会見中の言葉を見れば、同じような考えをお持ちであることが窺い知れる。

まず、無駄な歳出削減については、「大規模な補正予算を講じてきたコロナ禍への対応が一段落した以上、歳出構造を平時に戻していく方針は堅持していきます。今回の経済対策策定に当たっても、合わせて5兆円となる予備費を半減し、財源として活用いたします。年末までの予算編成過程で、さらなる歳出構造の平時化を検討してまいります」と仰っている。

「今まさにデフレ脱却ができるかどうかの瀬戸際だからこそ、あらゆる政策を総動員し、国民の可処分所得を拡大する」と、可処分所得向上に関する意志は明確だ。

消費拡大、企業の業績向上、官民投資、税収増についても「家計の購買力が上がることで消費が増え、その結果、物の値段が適度に上がる。それが企業の売り上げ、業績に繋がり新たな投資を呼び込み、企業が次の成長段階に入る。その結果、また賃金が上がる」「経済が成長してこそ税収も増え、そして財政健全化にも繋がっていきます」と循環式に説明している。

全ての要素が論理的に「好循環型経済」に帰結する内容になっており、それはつまり掲げられたビジョンに軸が通っていることの証明であって、つまりは本質的なビジョンであると言えよう。先述したように、それぞれの経済施策が、成果目標も曖昧な中でバラバラに動いていては大きな成果が出るはずもない。全てが帰結する軸が必要であり、それがまさに好循環の軸になり得るのだ。

11月2日の会見の様子
首相官邸HPより

以上、筆者がなぜ岸田総理が示された総合経済対策に大賛成なのか、その理由を述べてきた。

しかし、皆さんもご承知のように、重要なのはここからだと言えよう。ビジョンは掲げられたが、それを達成するための施策は全てがこれからだ。まずは所得向上のきっかけとなる給付と所得減税が実行されなければならないし、それは効果が出る規模感でなくてはならない。

また、前回の寄稿でも述べたが、所得減税は一過性のものであってはならず、ある程度恒久的なものが続く必要がある。それを実現させるだけでも、これからいくつもの壁を突破していかねばならない。

国富の海外流出や無駄な歳出を抑制するためには、ビジョンに照らし合わせながら、有益な施策なのかそうでないのか、絶えずチェック機能を果たしていかねばらならない。好循環型経済に資する施策にのみ、資源を投下させていくことが肝要である。

そのためには、国家経済戦略を策定し、注力していく産業分野をある程度明確化していく必要もあるだろう。今回掲げられたビジョンと相容れない施策については、いま既に進行しているその類のものも含めて、強い決意を持って中止していきたいところだ。

長く続いたデフレからの完全脱却は、「明日は今日より良くなる日本」を実現していくための最大の課題です。政府、経済界、労働界をはじめ、国民全体でこれに取り組むことが必要です。政府は先頭に立って全力を尽くします。国民の皆さんのご協力を引き続きお願い申し上げます。

と、総理は会見の最後に述べられた。好循環型経済の実現に向けて、一人の国民として微力ながらも出来得ることを今後もやっていきたい。