開始1ヶ月、インボイス制度は「誰得」なのか?

黒坂岳央です。

波乱万丈の中でインボイス制度が開始して1ヶ月、この制度について多くの問題が明らかになってきた。

インボイス制度について、実は海外から見て日本はかなり導入が遅い。今年10月1日を持って、アメリカ以外の全OECD加盟国はすべてインボイス制度導入となり、アメリカを除けば日本は一番遅かったのだ。

そういう意味で導入すること自体に大きな問題があるとは思わないものの、日本経済全体で見たコストと手間は本当にペイできるのか?はかなり怪しく、導入すること自体はよくても「方法」や「仕組み」は改善の余地があるのではと感じてしまう。

この制度の導入でまったく影響を受けない人は投資家と専業主婦くらいなもので、サラリーマン、経営者、フリーランスまで様々な人に手間とコストを強いている。一体、誰得な制度なのだろうか。

cyano66/iStock

インボイス制度は農家に大打撃

農業新聞の調査によると、農業関係の回答者の44%が「影響があった」と回答している。気になるその内容は「取引先から値下げを要求された」「登録の手間が増えた」「資料整理の煩雑さが増加した」といったものだ。このあたりは当然想定されていたものであり、過去記事インボイスで打撃受ける農業…国産野菜と果物のピンチでも書かせてもらったとおりだ。

筆者の経営する法人ではフルーツの仕入れがあるのだが、仕入元は大規模経営をする事業者もあり、そちらは問題なくインボイス制度に対応したようだが、問題は細々とやっている生産者や事業者だ。こちらは「インボイス制度ってなに?」と知識はゼロに近く、制度を説明して対応をお願いしても手も足も出ない。

70代、80代まで人生のすべてを果物づくりをしてきた人たちには非常にハードルが高い制度だ。だが事業の規模は小さくても彼らは極上の味のメロンや桃、柿を生産する腕前を持つので、こちらも契約を切るわけにはいかない。結局、こちらがインボイス登録を手伝ってあげたり、インボイス対応の請求書、領収書のテンプレートを作成の代行して契約している税理士にチェックを頼みなんとかスタートを切る、という具合である。

無駄な作業ばかりが増え続けるものの、この苦労で利益が増えることは一切ない。

課税事業者も手間が増大

筆者は自社で使っている販売管理システムもアップデートをする中で、苦心惨憺させられた上、現場でも適格請求書を出力する手間は以前より増大した。社内で必要な備品を購入する際にイチイチ、適格請求書の発行を依頼しなければいけない。販売元によっては買ったあとで「いやうちは対応していないので」となってしまうこともあった。

おそらく、これは弊社だけではないはずだ。どこの事業者でも特に経理部門では取引先からの請求書を適格請求書かを毎回チェックしなければならない。筆者自身、元々経理財務で働いていたのでその苦労は目に浮かぶようだ。

また、システム部門も大変な騒ぎになっているところもあるだろう。筆者の経営する小さな中小零細ですらシステムアップデートは一筋縄ではいかなかったので、さらに規模の大きな会社だと想像もできない苦労があるだろう。コストもばかにならない。1円にもならない法対応のために本業が疎かになり、無駄な残業代も企業が負担することになる。

影響を受けるのはシステムや経理部門だけではない。一般部署でも「経費はインボイス対応しているところで」とお達しがあれば、飲み会などで「そちらは対応していますか?」、領収書を受け取った時に「これ適格請求書ではないので作り直して」といったやり取りがあるはずだ。これまでなかった無駄なプロセスが新たに追加されただけである。

さらに取引先とカフェで打ち合わせをする際に、「この店はインボイス対応しているか?ちゃんと領収書は適格請求書か?」とイチイチ考えなければならないのではないか。

インボイスがスムーズに受け入れられるには、一律10%にしてしまうとかAIで自動判定する仕組みがインフラとして整うことだ。せめてスムーズな受け入れ態勢の促進や提案、プロセスの改善があった上で導入があれば違った印象だったかもしれない。

自分は普段から物事は一方向からだけではなく、できるだけ多面的に考えて良い面も悪い面もフェアに考察したいと意識して記事を書いてきた。だがこの制度については、どうひっくり返して見ても悪い点以外に見当たらない。インボイス導入で財務省の税収増は約2500億円という試算があるようなので、強いて言うなら「財務省は得する制度」だろう。

仮に日本経済全体が追うコストや人件費、手間の総額が2500億円を上回らなければ、メリットはあるのかもしれない。しかし、その計算はあまりにも気が進まないのは無理からぬことだろう。

 

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