リーダーであり続けなくてはいけないアメリカ:振り落とされる多くのアメリカ人

メディアが一斉に報じたのが「大統領選まであと1年」。そしてその主役はまさかの「老老対決」となるバイデンVSトランプの可能性であります。あと1年あります。両者とも抱えている問題は大きく余談を許しません。

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バイデン氏は11月20日に81歳になります。メディアに映る氏の様子はこの1-2年だけ見ても明らかに身体的衰えを感じます。トークにもシャープさが陰り、「バイデン牧師」が天からの声を伝えているようなそんな感じすらあります。一方、トランプ氏の人気は圧倒的ですが、抱えている4つの訴訟プロセスが選挙戦の頃に展開されます。そのプロセスでは様々な醜聞も出てくるのでしょう。

当然ながら国は二分されます。その争いは外から見ていると馬鹿々々しいのですが、アメリカ人は妙に政治に関しては熱いのです。アメリカでは昔から食事の席で政治の話をするな、と言われますが、個人の信条はどんなビジネスディールにも勝るとも言えるのです。

では二分された国の片方の指導者がアメリカを代表し、世界でリーダーシップを取れるのか、といえば私には疑問符しかつかないのです。なぜなら半分近い人にギブアップを強いるからです。しかもアメリカ二大政党ではそれぞれの党で原理的思想(極右、極左)を持つ人たちの声が大きく、時として中道寄りの政策を弱腰扱いします。それが政治的に大統領の判断をも揺るがすのです。

仮にトランプ氏が勝利したとすればバイデン氏が作り上げてきた様々な施策の中にはひっくり返すものも出てくるでしょう。それが正しい政治の在り方でしょうか?例えば会社の社長が変わり、新社長が前任をことごとく否定するということは時々起こりますが、会社の場合は新社長の方針が嫌なら会社を辞めるという選択肢があります。あるいは地方自治体や州レベルでも政策が気に入らなければ他の街に引っ越すということが可能です。しかし、嫌な大統領だからといってアメリカ人をやめるという選択肢はないのです。

そして極論を唱える人たちの声は大きく、自己都合の論理を振り回します。一般人は醒めた目でそれらを見過ごします。ブルームバーグの調べでは50歳未満の有権者の過半数がどちらでもないと考えていると報じています。政治不信になり興味が失せていく人も当然ながら出てきます。私が二大政党では機能しないと再三申し上げているのはそのような理由もあるのです。

さて、私が気になるのは大統領という指導者選びだけではありません。現代のアメリカ人気質そのものが世界のリーダーにふさわしいのか、という点も気になり始めています。

アメリカの黄金時代は1920年代-80年代だったのでしょうか?第一次世界大戦前後に英国の衰退と共にアメリカの時代となり、20年代の自動車産業の勃興、栄華、繁栄そして地位の確立、第二次世界大戦を経て冷戦時代を乗り越えたきた自負はあるのでしょう。ですが、決してアメリカが圧倒的に優秀だったとは思っていません。ロケット開発はソ連が上だったしベトナム戦争やアフガンではアメリカは悲劇であり、私がアメリカは武器は作れるけど戦争が出来ない国だと明白な確信を持つようになったのはその頃なのです。

アメリカ人は自由で開拓者的精神を持つがゆえに考え方も10人いれば10通りできるほどばらけています。よって戦争が起きて攻めるとしても空中戦ならともかく、大規模な地上戦は経験値も少ないし、アメリカ人の気質的に難しいのです。今地上戦をやらせたらそれこそ北朝鮮が一番強いのかもしれません。イスラエルが強いのも祖国防衛という国民共通の意思があるからです。アメリカにはそれがないのです。

アメリカは一枚岩になるのは本来不得手なのにメルトポットのアメリカと称して移民すればどんな国の人もアメリカンとして歓迎すると称します。しかし実際にはWASPなどがいまだ存在し、よそ者扱いする気風はまだ強いのです。ある部分における閉鎖性は日本人よりも酷いところもあるのです。その背景は地方に住むアメリカ人には自分の住む州から一歩も出ない人も多く、その保守性は考えられます。

今のアメリカ人を外から見るとコロナという未経験ゾーンからの離脱の際の影響は大きかったと考えています。それは経済的側面だけではなく、人間の行動と価値観へのインパクトがそれ以上にあったと思います。リモート勤務、政府からの補助金、溜まるストレスとその発散、物事への熱意、自己中心、やる気や熱意の喪失感…。

コロナ前からアメリカ上層部の競争社会では日本人より長く働き、激しいストレスに悩み、オピオイドの過剰摂取で命を落としたり、社会復帰できなくなった人がどれだけいるでしょうか?我々が知っているのは成功したごく一部のアメリカ人だけなのです。多くのアメリカ人は振り落とされているのです。

この状況の中でアメリカが十分な活力を回復できなければ世界リーダーシップへの期待も下がらざるを得ないともいえるのです。

アメリカは世界の警官を止める、とはオバマ政権の時でしたが、トランプ氏もその点についてはフォローしました。バイデン氏は世界を飛び回りたいけれど体力がなくなっています。しかしアメリカは残念ながら警官を辞められないということに気がついていないのです。

国土、バランスよい国内産業と埋蔵する資源、ドル基軸、流入するマネー、築いてきた国家の地位などを考え合わせるとリーダーを他の国にバトンを渡す状況にならないし、アメリカから誰かにバトンが渡ることも考えにくいのです。オバマもトランプも警官を辞めるというスタンスは自己都合であり、無責任だったのです。にもかかわらず、自分たちの主導権だけは諦めないという点がいかにもアメリカらしいのであります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年11月8日の記事より転載させていただきました。