ハマス壊滅後、誰がガザ地区を統治?

イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザを包囲し、イスラム過激派テロ組織「ハマス」の壊滅を進めている時であり、少々時期尚早かもしれないが、「誰がハマス後のガザ地区を統治するか」という問題について関係国の間で協議が既に進められている。

上川陽子外相、リヤード・マーリキー・パレスチナ外務・移民庁長官と会見(2023年11月3日、日本外務省サイトから)

ネタニヤフ首相は6日、米ABCにュースとのインタビューで、ハマス壊滅後、イスラエルがガザ地区を無期限に統治する考えを述べた。一方、イスラエルの野党指導者ヤイル・ラピド元首相はヴェルトTV局との会見で、「自分の出口戦略は政府とは異なる。パレスチナ自治政府にガザの統治を任せるべきだ」と指摘し、イスラエルにとって同自治政府のマフムード・アッバス議長にガザ地区を統治させることが最も安全な対応となろうと述べている。

イスラエル軍は2005年にガザ地区から撤退した。イスラム過激派ハマスは翌年の議会選挙で勝利し、2007年にはガザ地区の単独支配権を奪取した。アッバス議長が率いるファタハ軍はガザ地区から追放された。ラピド氏は、「ガザには自治政府当局の代表者はほとんど残っていないが、インフラはまだ残っている」という。

ラピド氏はヨルダン川西岸での情勢について、「ジェニンやナブルスなどの都市では思ったより制御されていないが、他の場所では上手く進んでいる」と語り、「ガザ地区の統治を議長に委ねることは、悪い選択の中で最もひどいものではない」と強調し、アッバス議長のガザ統治を支持する意図を明らかにしている。なお、ラピド氏は「人道的理由」によるガザ紛争の停戦を拒否し、「まず第一に、戦争に勝たなければならない」と強調している。

ちなみに、パレスチナ自治政府のアッバス議長は現在、ガザ戦争後の国際社会の中心的窓口として、米国、トルコ、アラブ世界、ロシアの国家元首や政府首脳との会話や会談を重ねている。約18年間自治当局の長を務めてきたアッバス氏が紛争解決においてどのような役割を果たせるかは不明だ。

87歳の同議長に長い間欠けているのはパレスチナ国民の支持だ。ガザ地区だけでなく、ヨルダン川西岸でも、パレスチナ人の同議長への支持は低い。同議長はこれまで頻繁に選挙を中止し、14年間も信任なしで権力にしがみついている一方、汚職の疑惑が根強く残っているだけでなく、政府のスタイルも権威主義的として批判されてきた。スイス公共放送(SRF)は、「パレスチナ領土におけるアッバス氏の力はゼロに近づきつつある」と報じているほどだ。

同議長は、国内では指導者として“死に体”だが、国際の政治上では「他の選択肢がない」という理由もあって、パレスチナ問題の窓口となっているというのが実情だろう。トルコのエルドアン大統領とも連絡を取り合い、ロシアのプーチン大統領を訪問している。また、アッバス氏はバイデン米大統領と電話で会談したが、ガザ地区の病院へのロケット弾攻撃に関連して予定されていたバイデン氏との対面会談は中止されている。

ブリンケン米国務長官は5日、中東歴訪でヨルダン川西岸を訪問し、ラマラでアッバス議長と会談した。両者の会談内容は公表されていないが、ガザ戦争が始まって以来、イスラエル占領下のヨルダン川西岸地区で暴力が激化している問題の他、「ポスト・ハマス」のガザ地区の統治問題について話し合われたことは間違いないだろう。

パレスチナ通信社ワファの報道によると、アッバス議長は、ブリンケン米国務長官との会談で、ガザ地区での即時停戦を呼び掛けた。また、ガザ地区、ヨルダン川西岸、エルサレムからのパレスチナ人の追放に対して、「平和と安全はイスラエルの占領を終わらせることによってのみ達成できるが、何十年にもわたる外交交渉では、この点に対する解決策は見つかっていない」と警告を発している。

未確認情報だが、アッバス議長は、バイデン政府当局者に対し、「パレスチナ自治政府はイスラエルとの広範な和平構想の一環である場合にのみガザ地区の統治に戻ることを検討する」と語り、ヨルダン川西岸と東エルサレムに対する包括的な政治的解決策の「パッケージ」の一部として「ガザ地区に対する全責任を負う用意がある」と表明したという。パレスチナ人はこれらの地域を自国の領土と主張している。アッバス氏はバイデン当局者に対し、「イスラエルの戦車の上に乗って」ガザに戻るつもりはないと語ったいう。

ブリンケン国務長官がパレスチナ自治政府にガザ地区の統治を要請したとしても、ユダヤ国家に対する脅威として、イスラエルのネタニヤフ政権はその提案を拒否することが予想される。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年11月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。