「無礼講」は超危険!上司の言葉を真に受けたエリート部長

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無礼講の建前と本音

ようやく11月も中旬を過ぎ暑さも落ち着いてきました。そろそろ、忘年会を計画している方も多いのではないでしょうか。

日常的に会社の上司と飲みに行く機会も増えますが、酒席で上司が口にする「無礼講」に要注意なことをご存じでしょうか?品格のあるビジネスパーソンを自認するならば、ルールを正しく理解しておきたいものです。

社内のイベントで上司が口にする言葉に「無礼講」というものがあります。役職や年齢など、堅苦しい礼儀を抜きにして行う酒盛りのことを指しますが、部下は常識の範囲で気遣いをしなければなりません。

もしも、無礼講の“本当の意味”を知らなければ、それは貴方にとって大きなリスクになることを意味します。

無礼講を社員を慰労する場と考えてはいけません。上司が自らの威厳や存在を示し、再確認する場だからです。上司は部下の様子を見ながら、「こいつは忠誠心がないから異動」「こいつは降格。給料も下げてやる」「こいつは見どころがあるから昇進させよう」など、さまざまな思惑を巡らせているものです。

シンクタンクでの無礼講事件

私がシンクタンクに勤務している頃のエピソードです。このシンクタンクはF総研という国内大手のバンク系シンクタンクです。ある日、顧客の旅行会社から慰安旅行のオファーがありました。役職者を中心にメンバーが決められ、幹部クラスは自家用車での合流が許されました。

井上役員(仮名)の年齢は50歳半ば。首都圏の中堅大学を卒業し新卒で入社、これまで営業畑を歩んできました。営業実績が評価されて昨年、取締役に就任しました。趣味はドライブです。トヨタのクラウンが愛車で、スマホの待ち受け画像はもちろん愛車のクラウンでした。

待ち合わせ場所に最後に登場したのが、磯部部長(仮名)。年齢は40歳、英国の名門大学を卒業し、政府系金融機関に就職しました。今年、ヘッドハンティングでF総研に入社、社内でも次期取締役候補として将来を嘱望されています。ところが、磯部部長の登場を境に井上役員の表情が険しくなったのです。

井上役員 :何時だと思っているんだ! 君は既に取締役になったつもりかね?

磯部部長 :集合時間には間に合っていますが。何がご不満でしょうか?

井上役員 :部長の分際で最後に合流するとは何事だ! けしからんヤツだ!

磯部部長 :そう言われても…困ります

磯部部長は、井上役員の怒っている理由が分かりません。

私はピンときました。磯部部長のクラウンは「ロイヤルサルーンG」という最高級クラスでした。当時はまだ珍しいナビシステムまで装備しています。一方、井上役員のクラウンは「スーパーセレクト」という廉価モデルでした。部下がグレードの高い車を乗っていたので、面白くなかったのでしょう。

その場は収まったものの、宴会で修羅場が待っていました。井上役員の「無礼講」のあいさつも終わり、宴もたけなわで、カラオケ大会も終盤に差し掛かっています。井上役員の十八番は、GLAYの「HOWEVER」でした。部内には、井上役員が「HOWEVER」で〆るという暗黙の了解がありました。

井上役員は磯部部長に、「今日は飲みすぎて声が出ない。君が歌ったらどうかね。今日は無礼講だ!」と言いました。「それでは」と磯部部長、おもむろにマイクをつかみ「HOWEVER」を歌い始めたのです。ファルセットの裏声が響くまさに熱唱でした。周囲は“マイナス10度”に凍り付いていましたが、酔った磯部部長は満足そうでした。

翌月、磯部部長はデータセンターに異動になりました。過去の資料や新聞記事を整理する資料室のようなもので、花形とは言えません。その後、磯部部長にスポットライトが当たることはありませんでした。

「無礼講」の場ではお酒を飲まない

優秀な社員は型を崩しません。つまり、部下としての一線を越すことはないのです。「今日は無礼講だ!」と言われて、「ありがとうございます。それでは~」と型を崩すことはないのです。

無礼講と言われたら、普段より慎重な対応が求められます。社交辞令をまともに受けると大変なことになると覚えておくべきでしょう。

お酒は上手に付き合えば「百薬の長」と言われます。適度な飲酒は、血液の循環を良くし、体の疲れを癒すと言われています。しかし、上司と飲みに行き、お酒が原因で評価を下げる人は少なくありません。社内でお酒を飲むことは基本的にお勧めしません。飲むのは会社以外にした方が無難だと申し上げておきましょう。