アルゼンチン大統領の決戦投票の行方やいかに?

マサ(左)とミレイ(右)ARGENTINA, BALLOTAGE MILEI Y MASSA.11-11-2023.

インフレ140%のマサ氏か? 米ドル化へのミレイ氏か?

11月19日に予定されているアルゼンチン大統領を決める決戦投票はインフレ140%を記録しているセルヒオ・マサ氏とアルゼンチンの慢性病インフレから脱却する為に法定通貨を米ドルにすることを公約しているハビエル・ミレイ氏の両氏の間で争われることになった。

マサ氏はこれまで20年近くアルゼンチン経済を後退させた正義党のキルチネール派による政治から離脱して本来のアルゼンチン経済を戦後立て直した正義党ペロン主義派の政治に戻すことを誓っている。一方のミレイ氏はアルゼンチンをより貧困化させたキルチネール派による政治を撲滅させて、インフレのない健全な経済に戻すことを公約している。

アルゼンチンのどのメディアも決戦投票で誰が勝利するかという予測が中心テーマになっている。同国には6つの世論調査があり、その中でもCBとProyecciónの予測が重要視されている。CBは決戦投票に臨む前の初回の投票日の翌日23日と24日に1715人を対象にアンケートを取った結果を10月25日付「イ・プロフェシオナル」が掲載した。

それによると、ミレイ氏(41.6%)、マサ氏(40.4%)、白紙を投じる(10.4%)、まだ誰に投票するか決めていない(7.5%)という結果が出された。ミレイ氏のこの41.4%という結果は1回目の投票で彼に投じた人に加え、3位についたブルリッチ氏に投じた有権者の内の47%と4位のシチアレティ氏に投じた中の37%に加え、さらに前回投票しなかった人と白紙を投じた人からの票がミレイ氏に向かうと予測して加算されたものである。

同調査はその数日後に再度アンケートを取った結果でもミレイ氏(50.7%)、マサ氏(49.3%)という非常に僅差となっている。

一方、10月25日付「ペルフィル」が掲載したProyección の予測を見ると、44.6%がマサ氏、34.2%がミレイ氏、8.3%がまだ誰に投じるが未定、7%が投票しないという結果となっている。これは10月23日と24日に1459人を対象にした調査結果である。

この調査によると、ブエノスアイレス州でマサ氏が断然優勢であるということ。それとブルリッチ氏に投じた有権者の60%がまだ誰に票を入れるか未定だとしている。しかし、投票が1週間後に迫った時点でコルドバ州でミレイ氏が70%以上の支持票を集めているという予測が出ている。ブエノスアイレス州が一番の票田で、そこは伝統的に正義党が有利である。ところが、2番目の票田であるコルドバ州でミレイ氏がマサ氏を大幅に引き離しているということは、ミレイ氏がトータル票数でマサ氏を上回る可能性が出ている。

ところが、51%の市民が政府からなんらかの補助金を受けている。マサ氏の戦術は、ミレイ氏が勝利すれば、この補助金が大幅に削減されると言ってミレイ氏の勝利に貧困層の市民が恐怖を抱くように誘っている。

正義党は資金のバラマキで票を稼いでいる

正義党アルベルト・フェルナンデス大統領のこの4年間の政権は610%のインフレを記録しており、インフレは留まるところを知らない状況にある。

40%の貧困者がいる同国でインフレがさらに上昇すると生活はより一段と厳しくなる。その上、生活補助金が削減されるようになると貧困者は窮乏に陥る。

上述したように、ミレイ氏が大統領になると貧困者はさらに窮乏するようになるとマサ氏は訴えて貧困層の間からも票を集めている。しかも、正義党は資金力がある。マサ氏に投票することを約束させてお金を配っているのである。そしてマサ氏は正義党本来のペロン主義派の政治を行うとして、キルチネール派とは一線を引く構えである姿勢を表明している。

ミレイ候補は3位が獲得した票を貰うことを期待している

3位だったブルリッチ氏を支えていたマクリ前大統領のグループは決定選に入ることができずグループが分裂した状態にある。というのも、このグループはもともとブルリッチ氏とブエノスアイレスの市長であったラレタ氏の間での争いがあり、予備選挙で勝った方が大統領選の候補者になるという合意があった。

しかし、今回の決定選から落ちたことで、このグループの団結は崩れている。しかもラレタ氏は当初マクリ前大統領の後継者とされていたが、マクリ氏はブルリッチ氏を強く支援するようになった。さらにこのグループには急進市民同盟も加わっていたが、マクリ氏とブルリッチ氏がミレイ氏を支持することを表明したことから急進市民同盟は逆にマサ氏の方に接近している。

マクリ氏はミレイ氏を支持するのに1500万ドルを選挙資金として用意した。その代りにブルリッチ氏を含め4つの閣僚ポストを要求しているという。それをミレイ氏は受け入れた意向だとされている。

これから11月19日まで選挙キャンペーンは激しさを増している。

この大統領決戦投票で注目されるのは正義党キルチネール派の20年余りの政権運営でアルゼンチンは最悪の経済状況に突入し、貧困層は急増。この正義党の政治にくさびを打ち込んで新しい政治を目指すミレイ氏が大統領に成る可能性を秘めた投票なのである。

残念ながら日本の場合は30年以上続いている進展のない自民党の政治にくさびを打ち込めるような政治家の登場するのはいつのことであろうか?

アルゼンチンの国会 Armando Oliveira/iStock