ワクチンと有害事象との因果関係を評価するマニュアルがWHOより公開されています。このマニュアルは厚労省も参考にしています。
今回は、このマニュアルを用いてコロナワクチンと接種後に発症した脳・心血管疾患との関連性について考えてみます。今回の論考は 一つの論文として公開 しました。詳細についてはその論文をご覧ください。この論考は簡易版です。
接種後に発症した脳・心血管疾患(脳梗塞、心筋梗塞など)は、ほとんどγ評価でありα評価は1件もありません。γ評価は、「情報不足等によりワクチンとの因果関係が評価できないもの」と定義されています。問題は、情報不足等とは具体的には何を意味しているのか明らかにされていない点です。どのような情報が追加されると評価が可能となるのか、WHOのマニュアルを用いて考察してみました。
このマニュアルのⅢ章では、因果関係評価は3つのレベルで実施するべきとしています。第1は集団レベルの評価(疫学的評価)、第2は個別の症例報告レベルの評価、第3はシグナル評価です。
個別の症例報告レベルの評価基準は次の6項目となっています。
A2.ワクチンが当該事象を引き起こしたという確実な証明
A3.因果関係の集団ベースのエビデンス(疫学的エビデンス)
A4.生物学的妥当性
A5.ワクチン以外で合理的に当該事象を説明できる原因の考慮
A6.再投与などにより同様の有害事象を引き起こした可能性を示すエビデンス
ここで重要な点は、個別の症例報告レベルの評価基準にも拘わらず疫学的エビデンスが含まれている点です。奇妙に感じる人が多いかもしれませんが、この基準は合理的です。何故ならば、個々の発症例では偶発的発症を否定することは多くの場合困難であるためです。
個々の症例の情報不足であるならば、病理解剖や司法解剖をもっと増やすべきだと主張する人がいます。基本的には賛成ですが、脳・心血管疾患に限った場合、解剖が増えればα評価が増加するとは私には思えません。何故ならば、高齢者の場合それらの疾患が偶発的に発症することはまれではありませんので、因果関係のある発症との鑑別が極めて困難であるからです。
A2については、心筋炎の場合は、血中遊離スパイク蛋白質の存在がマーカーとなる可能性がありますが、脳・心血管疾患の場合にはそのようなマーカーは現時点では発見されておりません。他には免疫組織化学的研究が期待できます。障害された臓器においてS抗原陽性・N抗原陰性であれば、コロナワクチンにより臓器が障害されたことのエビデンスとなります。あとは病理解剖などを地道に積み上げていけば、将来には何らかのマーカーが発見される可能性がありますので、それに期待したいと思います。
脳・心血管疾患においては、現時点で一番期待できるのはA3の疫学的エビデンスだと、私は考えます。コホート研究やSCCS法では有意差は示されていませんが、SCRIデザイン(self-controlled risk interval design)の統計解析は十分に実施されているとは言えません。
厚労省が公開しているデータより作成したグラフです。
発症は接種後1週間以内に集中しています。これは報告バイアスによるものなのか、本当にそのような分布なのか、はっきりさせる必要があります。報告バイアスが極力生じないようにデータを収集し、リスク期間を接種後0~7日に設定して、SCRIデザインにより統計解析することが望まれます。
疫学的エビデンスが示されると直ちにα評価に変わるとは言えませんが、α評価される蓋然性は高くなるとは言えます。逆の言い方をすれば、脳・心血管疾患の場合には、疫学的エビデンスが示されない限り、何時までたっても1件もα評価されないと予想されます。