グレタさんと「反ユダヤ主義」の関係

スウー―デンの環境保護活動家グレタ・トゥーンベリさん(20)が11月12日、アムステルダムの集会で環境保護を訴えるのではなく、イスラエル批判、ユダヤ憎悪をアピールし、集まった環境保護グループの仲間や参加者を驚かせた。集会に参加していた男性が舞台に上がり、グレタさんからマイクを取り、「私たちは環境保護のためにここに集まっているのであって、(あなたから)イスラエル批判、ユダヤ憎悪を聞くためではない」と訴えると、グレタさんは「占領地(パレスチナ)に気候の正義は存在しない」と反論する、といったシーンが展開されたのだ。

独週刊誌シュピーゲル最新号の表紙を飾ったグレタさん(2023年11月18日号のシュピーゲルの表紙)

グレタさんとその男性の間でマイク争いがあったが、集会関係者によって男性は舞台から降ろされてハプニングは収まったが、その余震は続いている。グレタさんのイスラエル批判に衝撃を受けた「フライデー・フォー・フューチャー」のドイツ支部のリーダー、ルイーザ・ノイバウアーさんは独週刊誌シュピーゲル最新号(11月18日号)とのインタビューの中で、「グレタさんは我々の運動のシンボルだが、われわれは環境保護を訴えているグループであって、中東問題などの政治問題ではない」と指摘、グレタさんが今後も政治運動にのめり込むようだと、グレタさんが創設した環境保護グループから出ていかなければならなくなるかもしれないと示唆している。ちなみに、シュピーゲルは最新号の表紙にグレタさんを登場させ、「Irrweg eines Idols=アイドルの誤った道」というタイトルを付けている。

グレタさんはパレスチナのスカーフを首に巻き、アムステルダムで8万5000人の観衆の前で反イスラエルを訴えた。彼女は群衆に向けて、気候変動運動には「抑圧されている人々の声に耳を傾ける義務がある」と叫んだ。グレタさんの演説後、サラ・ラクダン氏がマイクを握り、同じように、「イスラエルが我が国で大量虐殺を行っている」と主張した。ラクダン氏はハマスのイスラエル民間人攻撃を称賛し、テロリストを賞賛し、ホロコーストを矮小化することで知られている人物だ。

パレスチナ自治区ガザを2007年以降実効支配しているイスラム過激テロ組織「ハマス」が10月7日、イスラエルに侵攻して1300人余りのイスラエルの民間人らを虐殺したが、グレタさんは殺害されたイスラエル人への同情や連帯は一言も語らず、パレスチナ人への連帯を表明し、「パレスチナの自由」を要求、イスラエル軍のガザ報復攻撃を「大量虐殺」と呼ぶなど、アムステルダムの集会前から徹底した反イスラエル言動を繰り返している。

それに対し、ドイツ・イスラエル協会会長で緑の党の政治家フォルカー・ベック氏は、「気候変動活動家としてのグレタ・トゥーンベリさんの終わりだ。彼女は今後、イスラエル憎悪がその使命となるだろう」と指摘、「緑の党」議員マレーネ・シェーンベルガー氏は「グレタさんはもはや模範ではない」と失望している(ドイツ民間ニュース専門局ntv11月14日から)。

グレタさんは15歳の時、ストックホルムの議会前で気候環境保護と大きく書かれた紙の前で気候変動に対して抗議する写真で有名になった。彼女が引き起こした運動に多くの若者が賛同し、若い世代のアイドルとなっていった。グレタさんのイメージに亀裂が入り始めたのは、グレタさんが父親とあらゆる種類の儲かるPR取引を行っていたことが知られるようになってからだ。

ノイバウアー女史は、「多くのことが崩壊しつつあるのは明らかだ。私たちは今、誰と共通の価値観に基づいた協力基盤を見つけられるか、そしてそれがどこにあるのかを見極めなければならない」と述べている。

グレタさんの変身は、文字通り気候変動運動を二分している。なぜなら、アムステルダムでのデモも含め、左翼のエコロジーグループのかなりの部分で彼女は拍手喝采を受けているからだ。

左翼の反ユダヤ主義は無反省なポスト植民地主義、グローバリゼーション批判、反資本主義によって煽られており、イスラエルは米国の「帝国主義と植民地主義」の手先とみなされている。パレスチナ人とアラブ人、イスラム教徒は被害者、イスラエルと米国は加害者だ、という構図が出来上がっているのだ。グレタさんがその影響を受け、思想が過激化してきたわけだ。

「グレタさんと左派の根深いユダヤ憎悪」というタイトルの記事(11月14日付)を書いたヴォルフ・ヴァイマー記者は、「グレタさんはイスラエル批判のリーダーになりつつある。グレタさんのインスタグラムのフォロワーは1500万人で、彼女の「自由なパレスチナ」写真はX(旧ツイッター)で2500万回閲覧されており、おそらく主に若い視聴者に閲覧されている。それを通じて、彼女は左派のイスラエル憎悪と根深い反ユダヤ主義を全く新しい若いターゲットグループに拡散してきているからだ」と述べている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年11月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。