グローバル化は日本会計基準の見直しから

日本以外の国にも上場している企業の決算をよく見てみると、日本では黒字で報告されているのに、アメリカでは赤字で報告されているといった不思議な状況に遭遇することがある。もちろんどちらも正しい数字であるわけだが、どうしてこのようなことが起こってしまうのか?実は「会計基準の違い」がその原因である。われわれ投資家は、どちらの数字を信じればいいのか?

損益への影響において特に大きいのは、株式や債券のような、市場価値が日々刻々と変わる資産に対する考え方の違いである。米国会計基準や国際会計基準ではそれらを「時価」で評価し、損益を決算ごとに記録していく。つまり、ある株式が昨年と比べて値段が上がっているのであればその上昇分を利益として計算し、逆に値段が下がっているのであれば損失として認識するのである。一方、日本基準では時価で評価しない。どちらの考え方にもメリット・デメリットがあるわけだが、「今」の実態的な価値をよりよく表しているのは「時価評価」を行う米国会計基準や国際会計基準だろう。また、グローバルな視点で主要国の企業を見ると、資産や負債を時価評価する会計基準を採用する企業がほとんどであるということも無視できない。つまり、企業間の国際比較をする場合に日本基準を採用していてはApple-to-Appleの比較はできないのである。

このグローバルな時代、投資家は国際比較をした上で投資先を決めているのであり、その意味で日本基準は既に時代遅れの規格と言わざるを得ない。もう一つの問題は、米国会計基準や国際会計基準ベースの決算が日本基準から遅れて出てくる企業が存在することだ。これは投資家にとってミスリーディングである。私共SBIグループはこういった問題意識を持っていたからこそ、日本で最初に金融機関として国際会計基準を採用した。

これは会計基準の問題だけにとどまらない。日本の金融機関のPBRは米国と比べて非常に低い水準にとどまっており、世界の投資家から見放されてしまっている状況だ。いわば日本会計基準が隠れ蓑のようになってしまっているが、見る人はきちんと見ており、それが株価に反映されてしまっているということではないか。たとえば2022年3月の銀行セクターにおけるPBRは日本の0.44倍に対し、米国は1.58倍と約3倍もの開きがある。さらに驚くべきは、TOPIX500の43%がPBR1倍未満の会社であることだ。なおS&P500企業でPBR1倍を下回っている企業はわずか3%のみである。PBRが1倍未満とはつまり「事業を続けるより解散した方がいい状態」であり、これは株主価値を毀損していることに他ならない。

日本の金融機関が世界に伍していくには国際比較の出来る会計基準を採用し、それを適時に提出することが必要不可欠である。特に金融業界は旧態依然とした業界構造が強く、時代に合わせて体制を変えていくべきだろう。国をあげてグローバル化を推進するのであれば、こういったところから始めるべきだ。


編集部より:この記事は、「北尾吉孝日記」2023年11月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。