ハマスの嘘と2国家共存

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やはり「ハマスの嘘」だった。

10月7日ハマスの虐殺を受けて、イスラエルへの同情がそれまではかなりあった。だが世界の世論を間違いなく変えた10月17日ガザのアル・アハリ病院の爆発。「イスラエルの空爆で500人近い死者が出た」というガザ保健当局の発表。当局とか言っても、ほぼ「ハマスと同じ」と言える組織なので、ハマス発表といえる。

事実はイスラエル・英・米・加・諜報の発表通りだ。イスラはすぐに証拠を公開した。「ハマス側のロケット弾の発射失敗」だった。死者数も5分の1の100人くらい。だが日本メデイアは最初からハマス・パレスチナ寄り。あまり報道しなかった。だが筆者は何度もその「事実」を書いた。

それだけではない。ハマス側は「嘘」を塗り固めるだけでなく、証明すると言いながら、なにもしなかった。さらに「ミサイルの残骸は消えて存在しない」と、その後、世界を舐めた発言もした。当初、騙された多くの日本メデイアは猛省するべきだろう。

日本人ジャーナリストの神保哲生氏は「イスラエルの発表ならまだしも、第三国(米国)が口を挟むようなものではないだろう」という要旨を言った。明らかなウソと思われた。だから米諜報が独自の調査をして、彼らなりの”事実”を公表するのが、否定されるべきだろうか?

彼のような、事実調査をしようとしないで、感情的にイスラエルを嘘つきと決め付け、ハマスの発表を信じる人に対して「事実を調査、提示する」ことがいかに大切か、重要な教訓になったはずだ。

そしてTBS須賀川記者。さすがに少し時間が経過してから、ハマスの嘘に気が付いた。そしてやったことは、双方が嘘を付くという主張であった。

イスラエル側は、「10月7日の蛮行で、ハマスが子供40人くらいの頭部を切断した」ローカル紙報道を引用して虚偽だとした。切断は事実だが、人数はどうも疑問符。その報道を多数のメデイアは後追いしたが、40人まで後追いしたメデイアは殆どなかった。影響力などなかったと言える。

そして逆の事例として、ハマス側の嘘であるこの病院爆破を、須賀川記者は挙げた。あたかも、同列に並べてどっちもどっち、というニュアンスだ。

そうなら全くレベルが違う。後述するように、国際世論を変え、2国家共存可能性を限りなくゼロにするくらい大きなマイナス影響力があったハマスの嘘と、そもそも殆ど報道されなかった人数の”間違い”報道と、同列の扱いは、どう考えてもおかしいだろう。そもそも2国家どころか、話合いも拒否するハマス。そのハマスの嘘に乗った部分の訂正、帳消しのつもりなら「受け入れられない」というのが、普通の神経だろう。

一方のNHKはハマスの主張と共に、真逆のイスラエル側の発表と、すぐに追っかけ、イスラエル側を支持した米国諜報の見方をほぼ同列で報道した。さすがだ。

今回、ハマスの嘘を正確な調査で暴いた人権組織はどのようなものか? イスラエル寄りと言われる米国。その米国人が中心にやっている国際人権団体HRW。90ケ国の人権を調査。世界的な権威だ。筆者はここのNY本部も何度も訪問取材した。中東問題では、ほぼ全て最初から最後まで「弱者」パレスチナ寄りのスタンスだ。

この組織は、イスラエル寄りの自分の国、米国政府に、当たり前だが、公然と盾突いてきた。特に途上国での民主主義、だが人権無視政権への米国による支援、イスラエルのような軍事力を行使する強権国家への批判を大展開、世界的に名を馳せた。過去をみれば分かる。中東ではパレスチナ寄りの調査結果と言動ばかりだった。

ところが、その組織は今回、パレスチナにとって、厳しい調査結果を公表した。

事実は事実。事実が一番強いし、人類にとって重要。以下が報告内容のサイトだ。

https://news.yahoo.co.jp/…/ca3998cffc16295d8afd63cba2a0…

https://www.hrw.org/…/gaza-findings-october-17-al-ahli…

上述のように、当時日本だけでなく世界のメデイアの多くが、騙された形になった。そこで失ったものは世界の損失といえる。

ハマスの10月7日の蛮行を受けて、ネタニヤフはハマス殲滅、報復を誓った。テロをあまり知らない日本では想像できないレベル。米国にとっての9.11と並ぶくらいの衝撃がイスラエルに与えられた。極端に言えば、ホロコーストを経験したイスラエルが、犠牲者数は少ないが、似たような惨事を経験、今回民族の生き残りを賭けて開戦した。

残念ながら予想通り、数倍ではない。100倍返しになった。これはどうみてもやり過ぎといえる。そこは国際法違反で非難対象になる。その一方で「個別的自衛権」そのものは米国や世界が認めるように、正当なものだ。

米国が支持する大きな理由は民主主義、三権分立だが、10月7日以前も、ネタニヤフは独裁色を強め、そこの司法を軽視する動きを加速させていた。明らかな国際法違反の強制「入植」行為もやり過ぎ、バイデンも距離を置き、イスラエル国内の反発も強かった。

そして実際に予想通り、ハマス殲滅に伴うガザ市民の巻き添え虐殺。国際的な批判も予想できた。だからネタニヤフが最初にやったことはバイデンの招待だった。本人がユダヤ人と胸を張るブリンケン国務長官は、黙っていても来る。米国が登場すれば、国際的にはもちろん、国内的にも米国支援を誇示できる。

訪問に同意したが、バイデンは条件を付けた。その通りになったが、ガザ市民への人道的な配慮。そして、昔もいまも最終解決法であり得る「2国家共存」への可能性追求。

バイデンは1つの方法として自治政府のアッバスとの会談を条件として、中東訪問に同意した。アッバスは昔のアラファトほどのカリスマ性がない。高齢で影響力もなく、選挙で負けそうなので、やらない。汚職にまみれている。だが、他に誰がいるのか?ハマスはそもそも和平交渉を原則しないので、相手にならない。2国家共存実現可能性は本当に小さいが、やはりアッバスが重要だった。

だが、無知なアッバスは、上記の病院爆破に関するハマスの嘘を信じて怒り、自らバイデンとの多分最後の対談の機会をキャンセルした。ここが一番、ハマスの嘘が作り出した「大罪」だ。

情報戦だから、お互いに嘘をつくとかいう論点。

上述のアル・アハリ病院とは別の事例。ガザ最大と言われるシファ病院。ここにイスラエル軍が執拗に攻撃して多数の犠牲者が出ている。病院への攻撃により、国際世論の同情を、被害者=ガザ市民が容易に勝ち取れる。

イスラエル側の説明は、「病院の地下にトンネルなどの施設があり、ハマスが軍事用に使っている」というもの。これが攻撃の理由だ。

病院攻撃は国際法違反、だが同時に病院など医療施設を軍事的に利用するのも国際法違反。ハマスが本当に使っているなら、使い始めたとことが、「原因を作った」という意味で善悪論で悪い。

地下施設があるのかないのか?病院がハマスにより軍事的に使われているのか?という論争が、当然ながら、日本でも巻き起こった。

世界の安全保障のことを大して知らない少年探偵団のような人々が、ネットで調査、いろいろな意見を発信した。

イスラエル側の発表にも問題があった。大規模な司令部のようなものが、地下に隠されているとか、ご丁寧にCGまで作って説明した。

だが当初は入口だけが公開された。中には「あれは単なるケーブルTV配線口で、軍事施設ではない」という主張も出た。

さらにMRI近くで、銃などが発見されたと発表した。小生も知っているABC記者が、この「AK-47カラシニコフは、錆びている」と放送した。あたかも、古く使えない銃をイスラエルが他から持ってきて「置いた」と、言わんばかりだった。

ここには2つの論点がある。1つ目はこの記者は知らないだろうが、AK-47はかなり錆びていても、弾倉と弾が新しければ使える。筆者は昔、カラシニコフ氏自身とも対談もしたが、南アフリカの地元警察の全面協力を得て、AK47の現地取材をした。20数年間、地中に埋められて錆びだらけ、それでも簡単に発射できた。

さらに、反イスラエルといえる日本人の探偵団は、MRIに金属など置いてあるはずはない。イスラエルの捏造だと騒いだ。そのMRIが、長期間機能していなことにも気が付かない批判だった。

そもそもAK-47が万が一使えても使えなくとも、MRIは当時機能していなかったことも知らない批判にも、意味などない。そこの部分は大きな意味での状況判断に影響などない。地下の施設がどんなものか?どのように使用されていたか?が最優先だからだ。

作戦継続中のイスラエル側は当然ながら、見つけたものを、調査を終えてから、問題ないことだけ、小出しにしていった。SNSを中心に、日本人の多くが騒いだ。やはり地下施設などない。イスラエルは嘘をついて爆撃を正当化していると非難の大合唱。

ハマスは当然、イスラエル側の発表を否定。あたかも、ハマスが正しく、嘘をついて爆撃を継続、多数の入院患者など、無実の民間人を虐殺しているイスラエルが全面的に悪いといわんばかりの論調が、日本のSNS・TVには多かった。

その2週間くらい前に、筆者は雑談している米諜報とモサドの友人から聞いた。

地下施設は大昔イスラ自身が建造したもの。現在最優先でどのように使われているか?極秘作戦が失敗した人質救出作戦を成功させるための情報を収集している。世界世論への対処も重要だが、諜報収集と比べて、優先度は低い。

つまり日本などで議論された「あるか?」「ないか?」など関係なく、イスラエル・米諜報は人質救出に役立つ情報収集に躍起になっていた。(後日、詳細が公表できるかもしれない。まだ未確認の部分もあるが、米・イスラによる救出作戦が失敗した)

そして、それから約1週間後、CNNが報じた。クリステイン(アマンポール)は、筆者の友人で何度も雑談したことがある。声がでかく太い。声量がある。吠える。話し出すと止まらない。飛沫ががんがん飛んで来る。マスクなど殆どしないので、コロナ感染の心配が常にある。

彼女は素晴らしいインタビューをした。相手はバラク元首相。イスラエル軍の責任者を務めたこともある。彼は質問に答えて「昔、イスラが地下施設を作った」と明言した。

中東問題が大得意で剛腕のアマンポールが、心底驚いた。「言い間違いではないの?」でかい声で再度聞いた。

バラクは平然と「間違いない。イスラエルが作った」と繰り返した。その映像が残っているので、確認ができる。

これが事実であることは、米諜報界では当然の常識。関係者の多くが知っていることだ。

筆者がSNSなどに何度も書いたのは、アマンポールの驚きの「3日前」だった。

イスラエル側の発表時の言葉は各種ある。司令部、結節点、指揮所、弾薬庫などなど。確かにCGで公表したような、立派な司令部らしきものはないようだ。だが詳細は不明。重要なことは反イスラエル勢力、ハマスの味方が大合唱したように、なにもなかったのではない。地下トンネルにつながっていた。エアコン、水洗トイレなどもあったが、それらはどうでもよいこと。そこからガザ各地につながっており、ハマスの軍事利用に役立っていたことが重要だ。

確かに病院への攻撃は国際人道法違反。非難されるべきだ。だが、その前にやはり国際法で禁じている病院の軍事利用。因果論で理解できる。最初に軍事的に利用、原因を作り出したハマス側に殆どの責任がある。

当然ながら、イスラエル側は作戦を優先にしており、詳細公開もせず、これもハマスが原因を作り出した人質救出作戦を優先にしていまに至る。情報を得て、2度と使われないようにするため、爆破した。

ここに書いた2つの「ハマスの嘘」。ガザ病院の爆破と病院地下施設に関して、ハマスがいかに事実と違うことを発表。それに踊らされたといえる多くのメデイアや視聴者の問題を説明した。

最近の日本での報道をみると、日本人の多くはどちらかというと、反イスラエル、パレスチナ住民への同情、その延長線上にある「ハマス寄り」が多い。

パレスチナ住民への同情は当然だ。圧倒的な軍事力を行使するイスラへの反感、伝統的な判官ビイキなのか、理解できる。

しかしハマスの擁護。住民とハマスの一線はなかなか引けないが、これは問題だろう。

最近、SNSで、なにか日本の伝統的な講談のような形で、形相を変え、声色のようなものを駆使、日本の著名な大御所先生を批判しているイスラム研究家の飯山陽氏をみた。

彼女は池上彰氏を公然と「嘘つき」「ウソがみ」と批判した。

池上氏の「もともとハマスはボランテイア団体だった」「それがイスラエルの圧力で変わっていき蛮行を働くようになった」という概要の発言。つまり、最初は善人だったが、イスラエルの圧制や圧力で、悪人=テロリストに、ハマスが変わった。悪いのは、イスラエルで善人だったハマスではないと解釈できる内容だ。

飯山博士は、「それは嘘、ハマスは最初からテロリスト。イスラエルが変えたのではない。イスラエルの責任にしてハマスを擁護するな」という内容を言った。証拠として、ハマスの綱領を示して、そこに書かれている内容。パレスチナと彼らの土地所有権などが正しく、イスラエルの主張は間違い。武力行使でも、絶対に認めないとう内容を、アマンポール女史並みに吠えた。

そこで一歩引いて考える。飯山氏も言ったが、ハマスの母体はエジプトの「ムスリム同胞団」。そこのガザ支部という形で発足したのがハマスだったというのが世界の常識。

このアゴラの別稿でも書いた。証拠の2ショット写真付きだ。筆者は「ムスリム同胞団」の最高責任者2人と対談。他にも有名なイスラム過激派数人、活動を探る米諜報員とも直接会って話を聞いた。間違いなく、「ムスリム同胞団」はボランテイアもいて、地元民の福祉・医療などのお手伝いをしていた。ただ体制転覆を言うので、例えばエジプト政府にはテロ組織扱いになっている。筆者も、見つかれば逮捕・拘束・裁判になるので、命がけでインタビュー・テープを国外に極秘裏に持ち出した。

池上氏の「もともとは」というのは「ムスリム同胞団」を意味する。この意味なら正しい。飯山氏の「嘘つき」呼ばわりは、名誉棄損になってもおかしくない。

だがここでの論点は、そんな些細なことではない。

現在のハマスは間違いなくテロリスト組織だ。イラク戦争のことで、詳細を知らないため、鬼の首でも取ったように騒ぐ。反米の日本人が多いので、疑う人も多いのは分かる。だが米国政府も数々の根拠をもって「テロ集団」としている。

前述したように、解決方法は最終的に「2国家共存」しかないだろう。お互いに言い分がある。数百年、いや2000年も昔に辿れば、議論百出どころか、議論千出になる。お互いが完全に納得することは、永遠にないだろう。

だが内容は詰め切れなく、もう効力などないという専門家も多いが、一応の「オスロ合意」。当時といまは違う要素が多いので、修正が多々必要だろうが、あれが1つの答えといえる。

しかし、そもそもボランテイアだったかどうか、テロ組織だったかなど、ある意味どうでもよい。重要なことは、いまのハマスはイスラエルを交渉相手として認めていない。話し合いを拒否している。オスロ合意に近い解決案も拒否する。そして、10月7日に極悪ISにも似た非人道的な蛮行をやった。

よく、イスラエル空爆・砲撃で比較できないほどの民間人が虐殺された。ハマスの蛮行よりもイスラエルが悪い。支持できないという日本人が多い。だが、当然議論百出だが、故意(ハマス)と、巻き添えである未必の故意(イスラエル)の違いを、考慮するべきだ。

重要だが、やはり表面的なこと。人質とか医療支援だけでなく、出口戦略。どのようにしたらこの悲劇を無くすことができるか?ハマスが交渉しないなら、自治政府か?上述のようなハマスの嘘に簡単に騙されて、折角のバイデンの対談申し込みを潰したアッバスか?汚職に塗れ、パレスチナ人の人気もいまはあまりない。一体どこの誰がパレスチナ人を代表する組織・人物なのか?それさえも流動的。

昔からいままで、バイデンは「2国家共存」を目指している。ネタニヤフが狙っていると思えるパレスチナ人のガザからの追放や、イスラによる全面占領には反対する。

欧米では無名だが、日本では有名な高橋和夫教授。やはり書いたものでは分からない部分がある。バイデンが「2国家共存など求めてない」と先週の「朝生」で、怒りを込めて言った。ここ20年くらいの「イスラの入植=侵略=国際法違反」を、バイデンが黙認したようにみえることを、根拠にするようだ。そうなら違う。

実際に米国側と議論したのだろうか?「バイデンや米国のパレスチナ問題への政策は?」というなら、筆者のように、デニス(・ロス)や、リチャード(・ハース)レベルの識者、キャンプ・デイヴィッド合意の仕掛人など、何人も話しただろうか?バイデンがいかにネタ二ヤフが「やり過ぎ」と、いまも昔も怒っていることを知らないのだろうか。

ネタ二ヤフが違法入植を継続、バイデンの言うことを聞かない=2国家共存否定ではない。基本の基本だ。

伝聞も重要なことだが、人が書いたものばかり。書いたことに本音が出ていないことも多々ある。この場合は米国が「2国家」を求めているかどうかだが、当事者かそれに近い人々と議論しないで、米国は「2国家共存を求めていない」などと決めつけるべきではないだろう。

特にオバマが世界の警察官ではないと言う前から、民主化は進めてきたが、国益から遠いことは、米国はあまり介入したくなかった。ネタニヤフの入植を強く止めることを期待するなら、それは高望みともいえる。中国によるイラン・サウジ仲介をみれば分かる。いつまで、米国にそれらを望むのか?中東から足抜けを進めているのだ。

さらに過去の歴史をみたらよい。米国はイスラエル寄りであるのは間違いない。それは、いま独裁色を強めるネタニヤフと司法危機で揺らぐが、イスラエルが中東で唯一の民主主義国家だからだ。だからと言って、高橋教授が言った「2国家共存を求めていない」、これは事実でない。多分唯一の解決策であるという考えは「不変」といえる。

これも例えば無知な吉永みち子氏が「ガザ南部にハマスが移動する」とかいう。TVコメンテーターとして失格。飛んでもない無知だ。一部は例の地下トンネルを利用。ハマスはとっくに南部に移動、拠点を作っている。北部攻撃のあとは当然南部で、一説では数年以上、準備している。

人質解放が一息ついたら、イスラエル軍はガザ南部攻撃を始める。米国が止めるという楽観論があるが、ほぼ間違いなく、ガザ全てを攻撃対象にする。目標は「テロ集団」ハマスの殲滅だからだ。「思想・感情・憎悪」としてのハマスは永遠に生き残る。だが、組織としてのハマス、特に軍事部門は殲滅される。

行き場がないといえる市民の巻き添え被害が最小限になることを祈る。同時にイスラエルの存在を認めず、和平への話を拒否するハマスの代わりの「自治政府」などが、停戦と2国家共存に向けて話をし始めることを祈るばかりだ。

本当に口惜しいが、そろそろ「卒業になる」ウクライナがあり、中国でほぼ手一杯、中東からの足抜けを計画していた米国。国力が堕ちて、国内問題で、ますます内向き、3正面は間違いなく無理。だが露中を除き、世界の多くが米国に期待する。しかし全うできるか、疑問の声も各所から挙がっている。

{追記}

ガザ情勢、ここ1週間くらい兆候が見え隠れしていたが、明らかに流れが変わって来た。これまでイスラエルを止めるのは国連はもちろん「米国でも無理」と書いてきた。

だが自らユダヤ人というブリンケン国務長官の3度目のイスラエル訪問。
そして通常は国務長官の動きが「表」とすれば「裏」の諜報活動。米諜報CIAの水面下の活動で、米国の本当の動きが分析できる。ウクライナ情勢でもそうだった。(だから筆者は米英諜報の拠点、ドイツを訪問した)
今回も1人の諜報のスーパースターが水面下どころか、表舞台で派手に動いている。
ウイリアム・バーンズ大使。
○○大使、CIA長官など、ここの「大使」と「長官」はなんらかの理由で、職を辞した場合、肩書が変わる。だが一回でも大使の経験者は通常「卒業」「お役ごめん」になっても、死ぬまで敬意をもって「大使」と、米国では呼ばれる。
バーンズの現在の肩書は「CIA長官」。さらに、権限は他より少し落ちるが、バイデン政権の「閣僚」だ。副大統領、国務長官、財務長官などの閣僚の一員としてワシントンでは扱われている。
バーンズは英国オックスフォード大を出て、国際関係論における本当の同盟国、英国のことを深く知る。アラビア語、ロシア語、フランス語も上級レベル。ロシア、ヨルダン大使を歴任、昔、アフガン情勢でタリバン代表とも対談した。プーチンのウクライナ侵略でもすぐに陰に陽に動いた。
あまり知られていないが、旭日大綬章にも輝く。
映画「ジャック・ライアン」のモデルの1人とも、真剣な顔した米諜報から聞いたことがある。
このバーンズ長官が、ハマス寄りだが一定の役割を果たすカタールにもまた乗り込み、人質解放など、人道的な部分、より長期間の戦争一次停止、に関して交渉している。
ハマス側の合意を得られれば、その剛腕で、これまで誰の言うことも聞かなかったネタニヤフを説得する構えだ。当然、バイデンがその後ろにいる。
表のブリンケンも同じ方向性で、人質解放と少し長い戦争停止をネタニヤフに、さらに強く求めている。
最初から「個別的自衛権」を重視、基本的にイスラエル支援を公表したバイデン。同時に人道的な部分と2国家共存可能性ネタニヤフに強調していた。
米が史上初めて(負けないが)勝てないかもと感じた。プーチンより格上。対中国で大変なエネルギーを使う。もともとは、永遠に支援できないウクライナも頭痛、中東問題から「足抜け」できればと、楽観的に考えていたはずが、予想外の10/7ハマス「蛮行テロ」を受けて、動いた。
ハマスは綱領でも、客観的に妥協を許さぬテロ組織といわれることを明記する。実績でも本物のテロ組織。各種の根拠と証拠をもって、米国が公認のテロ団体とした。
そしてテロ戦争。911以前から、米国の専門家は「永遠に終わらない戦い。だが自国防衛で徹底的にやるしかない」と言った。
1つの展開として、卑怯にも人質を取るテロリストをどう扱うか?が争点になる。基本的に米もロシアも同じ。人質を取るテロリストと原則的に交渉はしない。どんな譲歩でも認めない。交渉、譲歩があれば、近い将来、再度人質を取られ、さらに多くの犠牲者が出る可能性が出て来るからだ。再発防止が最重要だ。
しかし、今回は例外的に、イスラとハマスの人質を巡る交渉を認めた。断腸の思いで進めている。米国内の若者、多くの世界世論を受けた結果ともいえる。
いまや、かなり本気度をもって、ガザにおける悲劇を見つつ、もう十分だろうと言わんばかりの動きを露骨に始めた。
さすがのネタニヤフも、バーンズとブリンケンからの情報と説得力をもって、バイデンが強く言えば、ある程度言うことを聞く。
失われる人命が最小限に済むことを祈りつつ、どうなるか、見ものだ。