海自のミサイル潜水艦のリアリティとクルー制

Bill Chizek/iStock

先日防衛装備庁の展示会に行ってきて、あれこれ見てきたのですが、その中にミサイル潜水艦用のミサイルのキャニスターに関する研究もありました。まだ基礎研究の段階とのことですが、具体的な話が何も決まっておらず、それに違和感を感じました。

以前からぼくは通常動力のミサイル潜水艦の導入を提唱してきました。現在のリチウム電池搭載艦であれば、以前の通常動力潜水艦よりも潜航期間が延長できます。

それは抗堪性が高く、敵の策源地攻撃に使えるからです。更に申せば、仮想敵国が将来我が国が、核武装をするのではないか、と疑心暗鬼になってくれる可能性もあります。

ですが考えないといけないことも多々あります。ですが、漠然とミサイル潜水艦が欲しいだけで話が進んでいるように思えます。

現在海自の潜水艦隊は22隻です。以前の16隻から大幅に増やされています。ミサイル潜水艦をこの隻数に含めるか、それとその分潜水艦の隻数を増やすのか。

問題は予算もさることながら、問題は人員です。サブマリーナは適正を持った人間が少なく、最も人材の確保が難しい。かのジミー・カーター氏もサブマリーナになったもの向かずに、政治家に転向しました。ある意味合衆国大統領になるより難しいとも言えます。

現在海自の水上艦艇、それも護衛艦含んで充足率は相当低い。その解決策として一隻のフネに複数の乗組員のチームを持つクルー制も導入される予定でした。既に音響艦では導入されて、FFMでも3隻に対して4チームのクルーが組まれるはずでした。ところが、それが出来ていない。

そして本来定員に入っているはずの医官も乗っていません。乗るのは海外任務など特別なときです。護衛艦も同じですが、より適性の難しい潜水艦の医官の確保をどうするのでしょうか。

艦艇の中でも勤務が特にキツい潜水艦ではクルー制を導入すべきです。クルー制にすれば艦の稼働率は上がります。ですから、隻数は減らしてもいいはずです。幹部のポストが減るわけでもない。同時に艦上勤務期間も減るので、陸上で勉強したり、他の任務に就くことも可能です。

ですが、海自は隻数を減らすのは嫌だ、人数少ないから哨戒艦も導入するのだと駄々をこねています。無人機の導入も消極的で海保にも遅れを取っています。

そして途中退職者は減らず、リクルートにも苦戦しています。

本来隻数を減らしてもクルー制を導入すべきですが、それは嫌だとダダを捏ねている。まるで糖尿病患者が、甘いもの食いたい、酒を飲みたい、インシュリンの注射も運動も嫌だと駄々を捏ねているのと同じです。

危機感がないんですよ。果たしてこんな状況でミサイル潜水艦を導入できるのか。

いつもの通り、更にいつまでに何隻、導入するのという計画すら発表されていない。例えば3隻なのか、8隻なのかでまったく、潜水艦隊の運用も変わっていくでしょう。

そんなに多くの乗組員は確保でないでしょう。個人的には現在の22隻でもまともにクルーを充足するのは不可能だと思っています。クルー制を導入すると、乗組員の負担は減りますが、2倍の数の乗組員が必要です。その手当をどうするのか。

他の艦艇や航空機の数を減らすというのも視野に入れる必要があります。果たして海幕にそのような覚悟があるのか。

おそらくはどんなに頑張っても現状の22隻体制の中で導入するしか無い。となれば潜水艦隊の運用全体を見直す必要がある。それが海自にできるのか。

また隻数、導入までのリードタイムによっては発射機やシステムを独自で開発するのか、輸入にするのかという選択も考えるべきでしょう。例えばわずか3隻のために国産開発して装備化するか。

単にキャニスターだけではなく、その他のサブコンポーネントやシステム、ソフトも開発、実証する必要がありますが、それが可能なのか。それも視野に入れるべきです。

当然ミサイルの開発も同様です。僅かなミサイルしか生産しないならば、1発あたりの開発費用も莫大になります。これまた輸入あるいは共同開発を検討すべきだと思います。

現状見る限りではイージスアショア同様に、単に新しいおもちゃが欲しいというNSCあたりのおっさんたちの願望だけで進んでいる気がします。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2023年11月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。