イスラエルよ、公平より平和を選べ

長谷川 良

1回の延期を含め計6日間の戦闘休止の期限終了直前、イスラエル側とパレスチア自治区ガザを実効支配しているイスラム過激テロ組織ハマスは戦闘休止を再度延期し、人質の交換を継続していくことで合意したという。イスラエルとハマス間を調停してきた米国、カタール、エジプトなどの仲介が実ったわけだが、2度目の戦闘休止がいつまで続くのかは現時点では不明だ。カタール側によると、11月1日まで1日延期という。

ネタニヤフ首相、取り壊されたスデロット警察署と新警察署を訪問(2023年11月29日、イスラエル首相府公式サイトから)

ハマスが10月7日、イスラエル領に侵入し、1300人あまりのイスラエル人らを虐殺した後、イスラエル側はハマスに対し報復攻撃を宣言、ネタニヤフ首相は、「人質解放とハマス壊滅」の2つの目標を掲げてガザ地区を包囲し、空爆を行い、地上軍を派遣してきた。

その間、ガザ地区の住民の人道的危機が深刻化する一方、パレスチナ側の犠牲者の数が1万人を超えた頃から、アラブ・イスラム諸国だけではなく、米国、国連からも戦闘の休止を求める声が高まった。イスラエル側は当初、戦闘休戦には難色を示していたが、最終的には米国からの政治的圧力、240人余りの人質解放を求める家族や国民の声の高まりを受け、戦闘休止に合意し、30日まで戦闘休止を実施してきた経緯がある。

当方はイスラエルの自衛権を全面的に支持し、テロ組織ハマスの壊滅を掲げるネタニヤフ首相を支持してきた。なぜならば、この戦闘はイスラエル側が開始したものではないこと、ハマスを壊滅しなければハマスのテロは今後も起こることが予想されるからだ。

ただし、ここにきてイスラエル軍の自衛権の行使はいつまで容認されるか、といった法的な問題が浮上してきた。当方は国際法の専門家ではないから、法的観点からは何も言えないが、ガザ紛争ではイスラエル軍がハマスより軍事的にも圧倒的に強く、戦闘が続けば、パレスチナ側に更なる犠牲者が出ることは明らかだ。それ故に、どこまで報復攻撃が出来るか、「自衛権にも法的制限がある」といった論争が出てきたわけだ。

イスラエルの著名な歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏は10月27日の英国の著名なジャーナリスト、ピアス・モルゲン氏のショー(Uncensored)の中で、「歴史問題で最悪の対応は過去の出来事を修正したり、救済しようとすることだ。歴史的出来事は過去に起きたことで、それを修正したり、その時代の人々を救済することはできない。私たちは未来に目を向ける必要がある」と強調。「歴史で傷ついた者がそれゆえに他者を傷つけることは正当化できない。そして『平和』(peace)と『公平』(justice)のどちらかを選ぶとすれば、『平和』を選ぶべきだ。世界の歴史で『平和協定』といわれるものは紛争当事者の妥協を土台として成立されたものが多い。『平和』ではなく、『公平』を選び、完全な公平を主張し出したならば、戦いは続く」と説明していた(「『平和』と『公平』のどちらを選ぶか」2023年10月29日参考)。

イスラエルの歴史学者ユバル・ノア・ハラリ氏(同氏の公式サイトから)

紛争当事国が「公平」を掲げて、戦いを続けるならば、終わりのない戦いを余儀なくされるケースが出てくるが、「平和」を前面に掲げて紛争の解決を目指すならば、長い交渉となるかもしれないが、紛争双方が何らかの譲歩や妥協をすることで戦闘の停戦、和平協定の締結の道が開かれるというわけだ。

ハマスのテロ奇襲後のイスラエルの自衛権行使は「公平」(「正義」)の原理に一致するが、ハマス側がイスラエルの建国時まで歴史を遡って「公平」を主張するならば、喧々諤々の公平論争となり、終りが見えなくなる。イスラエルとパレスチナ間の過去の紛争は文字通り、双方が信じる「公平」を前面に出した戦いだった。その結果、中東の和平は掛け声に終始し、紛争を繰り返してきたわけだ。そこでイスラエルもパレスチナ側も歴史の「公平」を前面に出すのではなく、未来に向けての「平和」の実現。共存の道を模索していくべきだという論理が出てくるわけだ。

以上、ハラリ氏の「公平より平和を」を当方なりに解釈してみた。「公平」は重要だ。「公平」を勝ち取るために人類は多くの犠牲を払ってきたことは事実だ。しかし、ハラリ氏が主張していたように、「どの国の歴史でも、ある時は加害者、ある時は被害者であった。一方だけの歴史という国はない」。「公平」を独占できる国は残念ながら存在していないのだ。

イスラエルは自衛権を行使した。今、その「公平」から「平和」にその重点をシフトする時ではないか。戦闘休止の延期がその機会となることを期待したい。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年12月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。