海自「空母」、何をもって「空母」というのか?

護衛艦「いずも」
海上自衛隊HPより

着実に進む空母化、山積する課題 「連続運用できるレベルにない」

着実に進む空母化、山積する課題 「連続運用できるレベルにない」:朝日新聞デジタル
 いずも型護衛艦の「空母化」をめぐっては、憲法9条との関係で国会でも大きな議論になった。 「空母は持たないと言ってきた。その根本的な国の在り方を変える検討をしている」 2018年3月、参院予算委員会で…

新聞でこのような取材に基づいた具体的な話が出てくるのは大変結構なことです。議論がでれば、更にこの件はどうなのだと、メディアや国会でも取り上げられるでしょう。情報開示は進むことになります。それが本来のあり方です。

戦争ボケと平和ボケの不毛な言い合いが最も不要なものです。

いずもは「空母」なのか?
一方、政府は1978年の国会答弁で、対地・対艦の攻撃力のある航空機を主力として搭載している「攻撃型空母」は保有できないが、「(哨戒ヘリなど)対潜水艦用の(航空機を運用する)機能も併せ持った『対潜空母のようなもの』は保有は認められる」との見解も示していた。

政府は「いずもは現在でも多機能な護衛艦だが、STOVL機の運用をできるようにした後も、多機能な、多目的な護衛艦だ」(19年6月、当時の岩屋毅防衛相)と説明している。

 

事実上の「空母化」が進む海上自衛隊最大の護衛艦いずも。今夏、インド太平洋の海域を3カ月半にわたって航行しました。この航海に同乗して見えた、いずもの現状や、海洋進出を強める中国とせめぎ合う安全保障の「最前線」を報告します。

防衛白書の内容を小学校高学年~中高生向けに解説した23年の「まるわかり! 日本の防衛」の中で、「いずもは空母なのか」という設問がある。

その答えは、「空母に国際的な定義があるわけではなく、主に航空機の運用機能に特化した艦艇を指す。いずも型護衛艦は、航空機を運用する能力もあるが、輸送、医療などの機能を備えた『多機能な護衛艦』で空母ではない」と記述。現在に至るまで、公式に「空母化」という言葉を使っていない。

とはいえ、実態として「空母化」は着実に進んでいる。20年度から予算の計上が始まった空自のF35Bも24年度以降、配備が始まる。

予算をかけて進める「空母化」だが、実際の運用に向けては数多くの課題がある。

まず、海自と空自が、「空母化」された「いずも」型護衛艦とF35Bをどのように組み合わせて運用していくのか。その構想は現在も確定していない。

空自の元戦闘機パイロット(空将)は、「『いずも型』に10機程度のF35Bを載せたところで、早期警戒機を飛行させなければ艦隊防空なんておぼつかない。艦と戦闘機をどうやって守るのか」と指摘する。

次に、戦闘機の運用を誰が指揮するのか、という部隊運用の根幹に関わる問題にも結論が出ていない。

「いずも」型護衛艦では、搭載しているヘリを毎朝、格納庫から甲板に上げて、その日の運用が終われば格納庫に戻す。

空自側は12機程度のF35Bを搭載したい意向だ。海自側は「今まで載せていたヘリを載せるスペースはなくなるだろう」とみる。

空自側はF35Bを「いずも」型護衛艦に搭載している間、機体を毎日格納庫に戻す必要はなく、常時甲板上に置いておく「露天駐機で構わない」との意向だ。ただ、海上を航行する艦艇の甲板に駐機し続けた場合、機体の腐食や塩害も想定される。

さらに、スペースの問題は、本来の能力にも影響を及ぼす恐れがある。

F35Bを搭載するために、もともと搭載していた哨戒ヘリの数を減らしたり、搭載をやめたりした場合、海自が創設以来、最も重視してきた対潜水艦戦への能力が落ちるリスクがあるからだ。

哨戒ヘリを積めない場合を想定し、防衛省は「いずも」型護衛艦が出港する際には、対潜水艦戦を含めた哨戒用のヘリと救難用のヘリを搭載した別の護衛艦も一緒に出港させ、「いずも」型に随伴させる方向で検討を進めている。

海自内からは「ただでさえ任務が多くて船ぐりがきつい。いずも型が出港するときに必ず随伴の艦艇をつけるようにすれば、艦の回しがさらにきつくなるのは明らかだ」という声もある。

現在、予算化された「いずも」型護衛艦の改修は、飛行甲板の耐熱強化や艦首周辺の形状の変更など、甲板上でF35Bを発着艦させるための「最低限の内容」(海自幹部)とされる。

戦闘機用の燃料や弾薬の保管スペース、機体の整備や搭乗員が使う設備に関しては、一部が予算化されているに過ぎない状況だ。

海自幹部は「『空母化』という言葉のイメージと現段階の改修内容にギャップがある。実際の運用では、甲板で戦闘機の発着艦を続けながら、機体に燃料、弾薬を補給し、必要があれば部分的に解体して修理できるだけの設備や整備員が必要だ。そうした設備や担当の隊員を収容するだけの区画、部屋も準備する必要がある。現在の改修内容では、そのような『連続運用』できるレベルになっていない」と話す。

防衛省によると、いずもについては24年度、かがは26年度から、艦内区画の整備などさらに改修が予定されている。具体的な改修内容は、設計も含めて現在も検討が続けられている。(編集委員・土居貴輝)

そもそも、いずも級の開発コンセプトは「守るフネから守られるフネへ」ですから。それがすべてを物語っているでしょう。これを護衛艦=駆逐艦だと主張するのは無理があります。

それでいいなら補給艦を護衛艦と呼んでもいいし、護衛艦を補給艦と呼んでもいいでしょう。いい加減に言葉遊びはやめるべきです。防衛省や海自はこのような御為ごかしはやめて、空母に相当する艦種を定義すべきです。

この記事でも触れていますが、問題は早期警戒機です。当面空自の早期警戒の行動半径で活動するしかない。以前の記事で書きましたが、固定翼の早期警戒型UAVを導入すべきです。英海軍同様にMCH-101に早期警戒システム搭載しての運用だと滞空時間が少なく、ハンガーの制限もあるので無人機の方が有利でしょう。

ハンガーの規模からいえば戦闘機12機と哨戒ヘリ2~4機と早期警戒無人機は搭載できるのではないでしょうか。よしんばそれが無理でも随伴する護衛艦に二機づつ哨戒ヘリを搭載すればいい。

ぼくの知る限り、いずも級は1個飛行隊のVTOL戦闘機の運用が可能なように、余裕を持って容積を設定されています。

平時から飛行甲板に搭載するのは塩害ももとより、特にステルス機の場合困難でしょう。整備には通常機よりも手間がかかる機体です。ただ有事になれば一時的に行うことになるでしょう。

無人機に関しては米国だけでなくトルコも艦載型UAVを開発中ですから、これに早期警戒レーダーを搭載すればいい。既に申し上げているように世界では空母機能をもった汎用揚陸艦が多数就役、あるいは計画されており、これらに搭載する早期警戒無人機はニッチとはいえ、一定規模の市場になるでしょう。もしかして米空母もこれを導入するかも知れません。

記事には単艦で出るような話がありますが、ナンセンスです。「守るフネから守られるフネへ」ですから、当然「護衛艦」をつけることになります。ただ空母化するのであれば他の艦への給油能力は不要でした。これは航空燃料を搭載するように改良すべきだと思います。

それと空母化に関して言えば、今後導入されるであろう、おおすみ級の後継がどうなるかが影響するでしょう。常識的に考えればこれは多目的揚陸艦となるでしょう。当然VTOL機の運用も考えられるでしょう。いずも級と新揚陸艦の「半空母」でも4~6隻あれば相応の戦闘機を運用できます。

今後の運用検討にもよりますが、いずも級、それから新型揚陸艦は以前から申し上げているように「半空母」になるのではないでしょうか。艦載機のすべてを全部運用するのではなく、通常は4~8機程度の戦闘機を搭載し、必要とあらば、地上基地から増派する。

あるいは整備は限定的に行って、燃料や弾薬の補給を主に行う。つまりは完全に自律した空母ではなく、空母の機能をある程度もった艦として運用するのではないでしょうか。

いずも級2隻に、揚陸艦3隻程度で、実質空母1から隻分の機能をもたせる。

また陸上基地の敵の間の中継基地として補給を主として行う、なども考えられるでしょう。陸上基地から出撃して、「半空母」で着艦して燃料や弾薬を補充して再出撃するのであれば、陸上基地からの往復に比べれば搭乗員の疲労も少なく、時間も節約できます。

空母(この場合軽空母)はかくあるべきという定義も運用もありません。要は何のために洋上で運用できる戦闘機を使うのか、ということでしょう。例えばエアカバーは陸上機にまかせて、少数のVTOL機を対地支援で攻撃ヘリのように半空母から反復して出撃させるなどの使い方もあるでしょう。

要は海空自の空中給油機や、電子戦機、早期警戒機、無人機などの装備体系と、運用によって空母の運用も変わってくるでしょう。他国と同じようにする必要はありません。もっとも自衛隊にそのような統合運用構想がつくれるか、というのは大変疑問ではありますが。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2023年12月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。