「大学無償化」はFラン大学を延命する社会的浪費

池田 信夫

政府は3人以上の子どもがいる世帯について、2025年度から大学の学費などを無償化する方針だ。年内に閣議決定する「こども未来戦略」に盛り込み、所得制限は設けない。少子化対策の予算3.5兆円は、医療保険からの「支援金」でまかなう予定だ。

このため後期高齢者の窓口負担を2割にするなどで1.1兆円の医療費削減、既存予算の活用で1.5兆円、そして残る1兆円が健康保険料で、月500円程度の増税になる。

大学に拡大した「学校ポピュリズム」

学費無償化の動きは、大阪府や東京都が高校無償化を決めたことから全国に波及すると予想されていたが、政府が大学を無償化するというのは予想を上回る。これによって全国に学校ポピュリズムが拡大するだろう。

それによって何が起こるかは明らかだ。1973年に老人医療無料化が行われたあと、日本の病床数は激増し、アメリカを抜いて世界一の200万床となった。窓口負担がゼロなのだから、老人ホームに行くより安く、病院は老人を寝かせておくだけで保険点数が稼げるので、どんどん病床が増え、入院日数も世界一になった。

厚生労働省の資料

同じことが大学にも起こるだろう。いま私立大学の半数以上が定員割れになっているが、学費が無料になれば、高卒で就職できなかった若者が、大学に行って時間をつぶすようになる。これで底辺のFラン大学は延命できるが、労働生産性は下がる。

人手不足の大きな原因は、私立大学が定員割れで誰でも入れるようになったため、昔だったら高卒で就職していた若者が、Fラン大学に入るようになったからだ。企業はFランなんて大卒にカウントしていないが、学生は大企業のホワイトカラーになろうとする。

このミスマッチは、これからますますひどくなる。Fランにできるような単純事務作業は機械学習でできるので、専門技能のない大卒には職がなくなる。最近は大学を出てから専門学校に行く学生が増えているが、これでは大学の4年間はまるまる無駄である。

Fラン大学は私的にも社会的にも浪費

大学の私的収益率は高いが、社会的には浪費だというのは実証的に確立された事実だが、そのメリットは大学のランクで大きく違う。次の図のように大卒男子平均の生涯賃金は2億8600万円で、高卒より4600万円高いが、慶応卒より1億5000万円低い。大卒と高卒の差より大学のランクの差のほうが大きいのだ。


男性の生涯賃金(2016年賃金構造基本統計調査)

Fラン大学が大卒と高卒の中間とすると、2億6000万円ぐらいだろう。これは高卒より2000万円多いが、年収500万円とすると、学費と4年間の賃金の合計より少ない。大学の私的収益が機会費用(学費と賃金)を上回るには、少なくとも大卒平均のランクでないと元はとれないのだ。

だから偏差値50以下の大学に入るメリットはない。それより専門学校でスキルを身につけたほうがいい。Fラン大学は私的にも社会的にも浪費なので、政府がこれを無償化すると、勉強する気もない学生が大学に入り、老人医療無料化と同じく膨大な無駄を生み出す。

老人医療無料化が30年間も続いたために、増設されたベッドに合わせて延命治療が行われ、長期入院の患者が増えて医療機器が大量に導入され、医療費が膨張した。そしてこれが既得権になり、医師会が窓口負担の引き上げに抵抗する。

それを押しきってやっと2割負担になると思ったら、その給付削減分を政府がピンハネして大学無償化に流用する。こんな「少子化対策」は、現役世代をますます貧困化し、子供は減るだろう。