「悪口は自己紹介」である理由

黒坂岳央です。

仕事をすると悪口を言われる事がある。それ自体はもう仕方がないことだとすでに割り切っているのだが、最近は「実は悪口とは”自己紹介”をしているのではないだろうか?」という興味深い人間心理の探求するステージに至った。

その認識をするようになってから、相手から受ける悪口がとにかく自己紹介にしか見えなくなってしまった。その根拠を論理的に考察するとともに、もしも現在素性の知れない相手から悪口を言われて、戸惑っている人に勇気を与えられれば幸いだ。

CSA-Archive/iStock

悪口には2種類ある

実は悪口には2種類に大別できる。1つ目は、思考を介さない感情的反射だ。「キモイ!」「頭悪い!」「嫌い!」といったものだ。

こうした悪口が出てしまうのは理解できなくもない。発信内容が自分のコンプレックスを刺激して誤った敵視から、思考する前に先に原始的な「反応」として言葉を発していると推測が可能だ。

おそらく感情を抑制する前頭葉、もしくは言葉の真意を理解する領域の働きが弱いことで起きている現象であり、この感情は長くは続かない。悪口を投げて数時間経つと大抵の場合、本人も忘れていることが多い。

本稿で取り上げたいのはこちらではなく、もう1つ、すなわち思考を介した悪口の方だ。これが「知らず知らずのうちに自己紹介になってしまっている」という話なのである。

忌々しい相手にできるだけ大きな心理的ダメージを与えたい。何を言えば相手は傷つくか?思考を巡らせる過程でいつの間にか「自分が言われたら傷つく言葉はなにか?」という思考に至り、「自分は言われたくないが、相手にはズレて届くのでダメージを与えるという目的達成に失敗する」という現象が起きる。

ズレた悪口は総じて自己紹介である

では具体例を取り上げよう。

たとえば「モテなさそう」という悪口だ。この悪口は「モテたいのにモテない」という相手には深く刺さる言葉なのだろう。

しかし、筆者は既婚者で子供もいるので、「恋愛したい、モテたい」という欲求はない。厳密に言えば、人として、ビジネスマンとしてはできるだけ魅力的でありたいという欲求はあるものの、いわゆる恋愛的文脈における「モテ」を求める段階は過ぎている。そのため、このような悪口を言われても、正直、なぜそのワーディングチョイスをしたのか?「よくわからない感覚」になるのだ。

他には「集団行動出来なさそう」という悪口も似たような理由でズレていると感じる。自分はチーム戦でパフォーマンスを上げる才能がないので独立の道を選んだし、しっかりとそれを公言しているので「まあその通りだが…」という感覚になる。おそらく本人は集団行動が必要な立場で、この言葉を言われて傷ついた過去を持つのだろうと推測ができる。

つまり、このように相手にしっかりダメージを与えたいという目的の達成を失敗している件の悪口は「自分が言われたら傷つくので相手も傷つくだろう」という、主観的視点に基づいている。それ故に「自己紹介」になっているということなのだ。

しかし、相手に悪口でしっかりとダメージを与えたいなら、このような言葉では心理的揺さぶりをかけることはできない。すでに話した通り、完全に相手の的からズレているからだ。しっかり傷つけたいなら、相手が本当に大事に思っているものを正確に理解し、そこに攻撃をかける必要があるだろう。

ちなみに本当にダメージがしっかり入る言葉とは、「大事な人からの失望」で間違いない。誰しも、取引先、お客様、家族など大事にしたいと思っている相手から「あなたにはがっかりした」と言われることが何より一番辛い。逆に得体のしれない相手から何を言われても結局、大したダメージは入らないのだ。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。