山場を迎えたハマス殲滅作戦

野口 修司

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CNNに追いかけられたのは、ここ約1ヶ月で2回目だ。

現在イスラエルのネタニヤフ首相は、仇敵の「ハマス」と戦っている。組織としての存在とは別に「思想」「考え」「熱情」「イデオロギー」が中心の反イスラエル勢力なので、完全な殲滅はそもそも「不可能」が、世界の常識。

だがハマス指導者暗殺、軍事部門の「殲滅」を宣言。本当に可哀そうなガザのパレスチナ人を、大量に巻き添えにして、ネタニヤフらは無差別殺人を継続している。国際世論を受けて当初と比べてさらに及び腰になっている米国は、また高官を送り込むなどして、さらに圧力をかける。だがなかなかイスラエルは言うことを聞かない。

筆者は複数回マクナマラ国防長官と対談した。60年代にイスラエル軍が米軍20数人を殺したことを嘆いた。米とイスラが一体とかの「思い込み」は止めた方がよい。

非致死性の神経ガスと共に禁じ手ともいえ、複数回浮かんでは消えたが、地下トンネルに潜むハマス戦闘員をいぶり出すため、人質の巻き添え犠牲も厭わず、「海水注入」も開始した。効果に疑問視が付き、政治的なメッセージ性が強いという見方もある。しかし、最長で2ヶ月といわれるイスラエルのハマスによる10/7テロ への報復作戦は、さらに1つの山場を迎えた。

その組織としてのハマスの一部は「ネタニヤフが作り出した部分がある」と、筆者は大分前に書いた。ガザ病院の地下に地下トンネルがあるかないか。そんな議論百出が日本を含め、世界中で観察された。その前の別の病院の爆撃。明らかなハマスの嘘に乗せられた世界知らずの日本人が多かった。イスラエル側が明らかにした証拠はもちろん、英米加諜報の確証も無視。感情的な反イスラエルが多い日本だった。

その時、筆者は深い取材で「地下トンネルはイスラエルが昔作った、組織ハマスもネタニヤフが、その一部作ったとも言える」と、米諜報などからの情報で書いた。

イスラエルによる地下トンネル建造は、友人のCNNアマンプール女史がすっぱ抜いた。小生が書いた3日後のことだった。

そして今回のCNN報道。小生の約2週間後だ。

カタールからガザへの援助、背後にイスラエル首相の思惑か
イスラム組織ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザ地区に多額の援助を続けてきたとして中東カタールに非難が集中するなか、援助の背後にはネタニヤフ・イスラエル首相の思惑があったことが、CNNなどの取材で明らかになった。

ネタニヤフがカタールからのハマスへの資金援助を「黙認」していた。理由は、ハマスは究極の解決策「2国家共存」を認めない。ネタ二ヤフも同じように、共存を認めない。

だが、2国家共存を目指す米国や国際社会に対して、公然と「パレスチナ国家を作らせない」などと、ネタニヤフは言えない。強硬派ハマスの存在を理由に、2国家共存に向けての交渉は不能、やはりイスラエルは「独立独歩でやる」という自分の強硬な意見を正当化する。ハマスら強硬派を殲滅、ガザなどを自分の自由にする言い訳にするために、組織として育つように、環境作りをしているという論だ。

10/7のテロ攻撃受けて、当初は全面支援を言った米国だが、予想以上のイスラエルの「100倍返し」で、国際的な批判を受けるようになった。

最初から米国はイスラエルには釘を刺していたが、いうことを聞いてくれなかった。だが努力に努力を重ねて1つが実現した。ある程度評価された最近の「人質交換」。日本人の多くはカタールが仲介したと思っている。だが数少ない信頼できる日本人識者の小谷先生も指摘したように、カタールはほぼ完全にハマス寄り。場所を貸した程度。実際にやったのは、米国、特にバーンズ大使(CIA長官)とブリンケンだ。これも10日くらい前に書いたことだ。

そして現在、最近ますます増えていることは、パレスチナ住民とハマスとの軋轢だ。なかには本気の銃撃戦もある。支援物資をハマスに取られ、これまで味方だったと思っていたのにやはり「人間の盾」として使われていることが分かり、怒りを爆発する。日本人であまり知らない人々は、イスラエルの無差別にみえる攻撃で死傷者が多数出ているパレスチナ住民への同情ばかりが多い。

しかし、イスラエル側もあと最長で2ヶ月、それ以上の戦闘はほぼ無理。ハマス指導者らの多くは海外でぬくぬくとしている者が多い。完全に一掃などできないことは、最初から分かっていた。

だがハマス指導者層は無理でも、殆どの戦闘員が排除できれば、イスラエルは次のステップに進める。

飢餓問題もかなり深刻だ。停戦後の地図を描くことは簡単ではないが、もう少しの辛抱だ。

しかしなにがどう転んでも、可哀そうなのはパレスチナ難民だ。エジプトなどではなく、欧州に行きたいが、ドアは閉ざされつつある。行く場所が本当にないかも知れない。

ついでにいえば、もう10年近くこの種のネタを追いかけているイスラエルの調査報道NPO「ショムリム」。今回のハマスの一部はネタニヤフが作ったともいえる説の公開。これらをみても、彼らの愛国心は凄い。

外交・安全保障に関してはだが、自国の不利につながる調査報道、日本は殆ど機能していない。だから想像もできないことだろう。

だが、米国を筆頭にイスラエルなどもその調査報道機関のパワーは凄い。短期的には自国の不利になるが、長期的には自国のプラスになる。そう考えて、事実である限り、世界に公表する。

「報道・言論の自由」がなく、嘘ばかりのハマス、イランなど、イスラム専制組織・国家ではなく、(今回は特にやり過ぎの問題は間違いなくあるが、米には止める力が足りない。一定限度のことしか、できない)、歴代の米国指導者が、イスラエルを支持する大きな理由だ。

現在、かなりの数の1トン爆弾が使われている。精密誘導ではなく、全てを破壊尽くすといえる大型爆弾だ。当然、国際法違反の無差別殺人といえる。他方、日本人が納得しないだろうが、ハマス軍事部門「殲滅」の必要性は動かない。しかしもう少しピンポイントでの攻撃に切り替える必要がある。

そして、当然、特に批判対象になるが、ネタニヤフのやり方。これが国際政治の現実なのだ。