コロナワクチンによる重大な懸念と軽微な懸念

FrankyDeMeyer/iStock

厚労省のWebサイトには、コロナワクチンのリスクについて次のように記述されています。

これまでの死亡に係る副反応疑い報告の状況、国内外のmRNAワクチン接種後のリスク分析のエビデンスも踏まえると、現時点では、引き続きワクチンの接種体制に影響を与える程の重大な懸念は認められないとされました。

厚労省のWebサイトにおいては、「コロナワクチンと接種後死亡や重篤な副反応との間には因果関係はない、あるいは関連性はない」といったことは記述されていません。単に「重大な懸念は認められない」と書いてあるだけです。今回は、この表現の意味について考察してみます。

注目するべきことは、「重大な懸念は認められない」としていますが、軽微な懸念については否定していない点です。

この軽微な懸念というのは、重篤ではない副反応に対する懸念ではなく、接種後死亡や重篤な副反応が少数発生する場合に対する懸念を意味していると考えられます。つまり、接種後死亡などの発生率が非常に低ければ、重大な懸念ではなく、関連性があったとしてもワクチン接種を中止する必要はないという考え方を示しています。

この考え方は、トロッコ問題の観点から考えると、「多数を救うためには、少数を犠牲にすることはやむを得ない」という考え方に通じます。コホート研究で有意差が認められなかった場合、ワクチンは安全とされ、ワクチン接種が中止されることはありません。これは政治的判断でもあります。

この考え方が正しいか否かを今回は論じませんが、「重大な懸念がなければワクチン接種を中止しない」という考え方の背景には、このような思想があることを理解しておく必要があります。

コホート研究の場合、死亡発生率が非常に低い場合には、関連性がある場合においても、接種群の発生率と未接種群のそれとには有意差が認められません。ワクチンは健常者を含めたすべての人が接種対象となるため、治療に使用する医薬品より高い安全性が求められ、死亡発生率は非常に低いことが求められます。したがって、コホート研究のみでワクチンの安全性を評価することに、私は疑問を感じます。

接種後死亡者は現時点で2122人が報告されていますが、コミナティ筋注(ファイザー)の場合、死亡発生率は6.3件/100万回接種であり、非常低い死亡発生率です。この程度の発生率ではコホート研究では有意差は認められません。

以前の私の試算では、41件/100万人接種以上の発生率でないと有意差が認められないという結論でした。つまり、報告漏れがあり本当の接種後死亡者が6倍存在していたとしても有意差は認められないのです。

発生率が低い場合にも使用可能な統計手法にはSCRIデザインと性差比較の手法があります。複数の手法を用いて安全性を検証することがASA声明で推奨されています。SCRIデザインでは極力報告バイアスを排除してデータを収集する必要があります。日本ではそのような手法で収集ができていません。米国VSDに相当するシステムを創設することが望まれます。

最後に、もう一つ重要なことを指摘しておきます。コホート研究により重大な懸念がないことが判明した場合、個々の事例においては「因果関係が否定されたわけではない」ということです。

「重大な懸念が認められない」というのは国全体に対してです。一方、国全体に対しては軽微な懸念であっても、個人に対しては重大な懸念となる場合があり、発生率は低くても重大な副反応が生じることが有り得るのです。したがって、重大な懸念が認められない場合においても、 死亡や重篤な副反応が発生した個人に対しては救済が必要です。SCRIデザインによる解析は救済認定の根拠としても重要な意味があります。

【補足】
2021年12月までは、厚労省のWebサイトにおいて、「接種と疾患による死亡との因果関係が、今回までに統計的に認められた疾患もありませんでした」と記述されていました。それ以降は、このような記述はほとんど認められません。