パレスチナ紛争の遠因:ユダヤ教タルムードについて

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ハマスのテロ行為を切っ掛けにし、その後のイスラエルの地上作戦に進んだガザ戦闘が依然続いている。(参考拙稿:イスラエル・ガザ衝突:第三次世界大戦化を避けよ

その背景には所謂パレスチナ問題があり、その原因や帰趨を考えるに当たっては歴史を遡ると同時に、そもそもユダヤとは何かというか、ユダヤの全体像を掴む必要があるように思う。

と言っても例えば以下のような事項を追っても、その姿は掌握しがたい。

ユダヤ民族が経てきた歴史:始祖アブラハム、モーゼの出エジプト、バビロン捕囚、ディアスポラ・・・
ユダヤ人の系統:西欧に移り住んだスファラディ系、東欧・ロシアの白人種アシュケナージ系、アジア地域に移り住んだミズラヒム系
近代の迫害やシオニズム運動の結果の人口分布:イスラエル:約7百万人、米国約6百万人、その他:約2百万人等

Wikipedia:ユダヤ人等より)

やはりユダヤを知るには、核心たるユダヤ教そのものについて知る必要があるが、宗派だけでも超正統派、正統派、保守派、伝統派、シャブタイ派、改革派、再建派、カライ派、フランク派等に分かれており、元より専門家以外が詳細網羅的に掌握する事は時間的、労力的に難しい。

ユダヤ教の聖典としては、トーラー(モーセ五書)を中心としタナハ(キリスト教で言う旧約聖書)と、口伝律法とこれに対する注釈を5世紀末頃までに集大成したタルムードがある。

ユダヤ教に対してしばしば問題となる選民思想は、前者にも含まれている。しかし例えば中国にも中華思想があり、神との契約に基づく民族宗教であったユダヤ教に選民思想があるのは褒められたものではないにせよ、ある意味自然な事とも言える。

後者のタルムードは、世俗知、処世術の部分も多く、現在でも十分に通用し、多くのビジネス書仕立ての解説書が人気となっていたりする。しかし、特にユダヤ人のエルサレム追放後は、キリストを殺した民族のレッテルもあり迫害を受け続けたためか、かなり拗らせた感の記述もある。例えばユダヤ人以外(ゴイム)に対しては、ユダヤ人に対する道徳律を用いる必要はない旨等が仔細具体的に述べられていたりもする。

そして、その内容をヘブライ語等以外に翻訳したり、ユダヤ教徒以外に伝える事は正式には禁じられているため、その部分は現在広く知れ渡ってはいない。そしてこの拗らせた記述が所謂「ユダヤの陰謀論」を生むことにも繋がっている。

さて現在ガザ戦闘は、直接的にはハマスによるテロ攻撃が引き金になっているが、遠因としてはイスラエル建国とそれに続く何度かの中東戦争、入植の拡大がある。そしてその運動原理となっているのが、ユダヤ人国家建設を目指したシオニズムである。

このため、シオニズムはパレスチナ側から見れば怨嗟の対象ともされる。ただ、英国の三枚舌外交の結果であるにせよ、ポグロムやホロコースト等の排斥・迫害・虐殺を踏まえて国連が承認した以上、シオニストも当地での生存はある程度許されるべきであり、即「シオニズム=悪」とする主張もまた行き過ぎだろう。ただし、度重なる領土の拡大と入植は明らかに度を越してはいる。

パレスチナ問題について、パレスチナ、イスラエル双方に言える事は、「互いに妥協せよ」という事に尽きる。江戸時代の水争い、土地争いも妥協によって収まった。宗教と長い歴史が絡まっており、スケールも格段に違うものの、筆者は基本的にはそれと変わらないと考える。

だが、それには前提がある。パレスチナ側はテロリズムを自ら内部より排する事。そしてイスラエル側には、選民思想はともかくもタルムードの一部記述のような非寛容の行動規範とそれに沿った実行を捨て去るべきという事だ。先ずこれらの必要条件をクリアする事無しには決して紛争が終わる事は無いと思われる。