中野区の場当たり的な区有施設計画を改めよ

中野区役所
Wikipediaより

今、自治体が所有する小中学校等の更新時期が差し迫り、多くの施設が建替えラッシュとなっております。

私が区議会議員を務める中野区を例に今後の自治体が所有する建物の財政的な計画に関して注意すべき点について認めます。

中野区では今後10年間の財政運営の収支計画を財政フレームとして、適時更新をしています。

中野区の最上位計画である「中野区基本計画(2021-2025年)」は5年に一度、更新する予定で、その5年間を前期2年間・後期3年間に分け、また次期・基本計画の5年間、それぞれの合計値を示しております(表1)。

表1 一般財源ベースの財政フレーム(中野区基本計画(2021年度策定 pp.24))

ここで表のタイトルに「一般財源ベース」とありますが、中野区のような基礎自治体の自前の予算を意味しており、一般財源以外には特別財源があり、国と東京都からの補助金などのことを示しております。

例えば生活保護の費用は1/4は基礎自治体、3/4は国が分担することになっております。

基礎自治体は生活保護から社会復帰していただけるよう施策を講じ、一般財源の支出の抑制を図ります。逆にまちづくりにおいては、国・都からの補助金などを当てにします。

そして中野区はコロナや物価高騰等の社会情勢の変化により、この基本計画の一部変更をしたいということで中野区基本計画の後半3年間を「中野区実施計画(今は素案)」を現在、策定中です。

中野区実施計画を推進する期間の2023-2025年と次期・基本計画における財政フレームが示されております(表2)。

表2 一般財源ベースの財政フレーム(中野区実施計画(素案、2023年度内に策定予定)本編 pp.218

表1と表2を比較するとここ数年、堅調な歳入と、物価高騰する歳出が反映され、全体的に金額が上昇しております。

歳出において、特に顕著に増額としているのが、表1・2の赤枠で示す次期・基本計画(2026-2030年)の「施設関連経費」で、区有施設の建替え、更新に使われる費用です。

表1の中野区基本計画(2021年度策定)における施設関連経費407億円という金額は、2021年10月に策定された中野区区有施設整備計画における試算結果です。

図1に示す施設更新経費の試算結果は、同計画において積算されたものであり、407億円の根拠となるものです。「地方公共団体の財政分析などに関する調査研究会報告書」(一般財団法人自治総合センター)を参考に各施設の建替え・更新経費を試算しております。

前提として、古い施設は建築後60年で建替(建替期間3年間)として、現在と同じ延床面積で更新、新しい施設は80年で建て替えするものと仮定しております。

今後20年平均は97億円/年という試算結果となりました。

図1 施設更新経費の試算結果(中野区区有施設整備計画、2021年度策定)

しかし2021年時点で407億円だった施設関連経費が、表2の中野区実施計画(2023年度策定予定)では641億円となっております。

中野区はこの2年の間に建設コストが641億円/407億円の1.57倍へ跳ね上がったと試算しています。

区にこの上昇理由を確認したところ、物価高騰による建設コスト増に20%上昇、ZEB(ゼブ、Net Zero Energy Building、環境に配慮したビル)化に10%上昇し、合計1.3倍になると見込んでいます。

では、1.57倍と1.3倍の差、27%は何かというと、施設改修の遅れや、区民ニーズにより廃止予定施設の残存し、施設改修の必要性が生じたため増加したとのことです。

また、近年の実績として、学校などの建替えにおいて延べ床面積がおおよそ1.3倍になっております。

現在進行中の例として、中野区内にある鍋横区民活動センターの建替え計画においては、表3に示すように延べ床面積が530㎡から1.79倍の949㎡へと増加しています。

財政当局が示す更新の前提条件は、「現在と同じ延床面積で更新」としているにもかかわらず、担当所管では区民ニーズを反映するために面積が激増します。

10年間の財政フレームを構築し、財政計画を立案するも、区民の声にほだされて、箱モノを何でもかんでも作り続ければ、持続可能な財政運営は不可能となります。

表3 現在基本計画策定中の鍋横区民活動センターの各室面積の比較

一方で中野区において、そもそも延べ床面積が足りているのかという観点も必要ではあります。

図2は区民一人当たりの公有財産(建物)面積ですが、ご覧の通り中野区は23区内でワースト2位となっております。

区民一人当たりに必要な面積がいくつであるかは精査が必要であります。

図2 区民一人当たりの公有財産(建物)面積(中野区区有施設整備計画,pp.6)

先日、中野区議会の総務委員会の地方行政視察で名古屋市のアセットマネジメントについて伺いに行きました。

2020年から2050年までの30年間に人口が6%減少、生産年齢人口の割合低下も踏まえた財政の観点から、一般施設を同30年間で人口減少よりも多めの延べ床面積8%削減の方向性を示しております(表4)。

施設の維持・管理は人口当たりの延べ床面積ではなく、あくまで財政状況で考える必要もあるわけです。

表4 名古屋市の保有資産量の見込み(名古屋市公共施設等総合管理計画)

様々と書き連ねしましたが、今後、自治体が所有・管理すべき施設は更新時期が迫っているものが多くあります。

住民の要望を聞けば、更新する施設の延べ床面積は増加しますが、財政運営として持続可能な自治体運営から遠ざかります。せっかく建て替えるにもかかわらず、面積が増加しなければ、住民感情として納得いかないこともあるでしょう。

しかし財政的に数十年安定できるだけの施設の規模を試算し、施設整備計画に反映していかなくては、財政は破綻していきます。試算の上で、ボリューム増加が許容できなければ、子ども達の世代に新たなる負の遺産となるだけです。

首長は住民にそのことをしっかりと説明できる能力と覚悟が必要です。