政策作りを成功させるには?:自治体でつくる「モデルケース」の威力

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「うまくいきそう」なことを誰もが納得できる形で示せ

現場で日々活動する中で、深刻な社会課題を改善できる革新的な方法を見つけたとします。こんなに有効なのだから、もう一刻も早く「政策」にして全国に広げるべきだと思いますよね。でも一つ、注意しなければいけないことがあります。その方法が有効だということを「誰もが納得できる」形で示せなければ、政策になることはほとんどないということです。

なぜか。

まず押さえるべきは、政策というものは「始めるのも難しいが、やめるのも難しい」ものだということです。むしろやめるほうが難しい、と言ってもいいかもしれません。

ひとたび始めてしまえば、その「利害関係者」が生まれます。例えば、政策に付随する予算を獲得するために投資を行い、実際に予算を得て事業を行う企業などです。その政策を実現するために多数の人を雇ったり、設備投資を行ったりした企業がたくさんあったとすると、その政策を「やっぱりいらなかったね」と簡単にやめるわけにもいきません。

そして、政策は国民から集めた税金などを原資として行われます。それが失敗した場合、すべての国民から批判が集まります。株主や投資家、もしくは自己資金によって事業を行う企業などより、説明責任を求められる対象が非常に広いわけです。

以上のような原因から、政策は、その解決策が「ちゃんと実現する(実現性)」ことや、「実施した場合に、コストに見合う効果が挙がる(有効性)」ことを、誰もが納得できる形で示せなければいけません。それが分からなければ、税金を使うことへの国民への責任説明を求められる政治家や行政官僚などのステークホルダーを巻き込むことができないからです。

なぜ「モデルケース」の威力は抜群なのか

でも、ここで疑問が生まれますよね。そもそも政策となっていないものの実現性や有効性を、どうやって証明すればいいのでしょうか?

ひとつ、良い方法があります。まず小さい規模でもいいので「実際にやってみる」ことです。実際にやってみることで、この解決策は「実際に機能する」ことを示せます。また、その結果を分析することで、「有効性」についても証明することが出来ます。それらは実際にやってみたがゆえに「動かぬ証拠」として多くの人を納得させることが出来ます。

これが、「モデルケース」の考え方です。

私たちも、「国で政策を実現したい」とご相談を受けた時に「まず自治体で、小さな規模で『モデルケース』を作るところから始めてみませんか」とご提案することがあります。

モデルケースの良さは、規模が小さいので、実施にかかる予算や説得しなければいけないステークホルダーが少ないということです。こうした事業で小さくても実績を作れば、それを足掛かりにより大きな規模の自治体の事業としたり、場合によっては国の政策として成立したりすることを目指せるかもしれません。

ここでは、実際に自治体の取り組みがモデルケースになり、全国的な政策となった例として「データヘルス」について紹介します。

呉市の取り組みが全国へ   「データヘルス」とは

まずは概略から。

データヘルスとは、一言で言えば「データを使って、病気を予防したり、もっと医療サービスを効率的にしたりしよう」という取り組みです。

例えば、血糖値が高くなる糖尿病が悪化すると、腎臓の機能が弱ります(糖尿病性腎症)。腎臓の機能が弱まると、体内の毒素を体の外に排出することが難しくなるので、定期的に血液を浄化する「人工透析(とうせき)」という治療を受けなければならなくなります。

この人工透析には非常に多額の医療費がかかりますし、もちろん当事者にとっても、定期的に透析に通う手間や時間、そして体調の悪化などにより生活の質が下がってしまいます。ですので、糖尿病の予防や、腎症になるのを防ぐことには意義があります。

広島県の呉市では、まず市民が医療を使った際のレセプト(請求書のようなもの)のデータを分析し、実際に、糖尿病の患者さんが悪化して人工透析になると、年間の1人当たり医療費が3.4万円から600万円まで増加していることを示しました。そして悪化を防ぐことが大事だとして、市民の特定健診(いわゆるメタボ健診)のデータを活用。糖尿病になっている人、それが悪化している人、腎臓の機能が低下しつつある人、それぞれを割り出し、状態に応じて保健師による指導などのプログラムを重点的に行うことにしたのです。

この結果、プログラムの参加者に検査結果の改善が見られたり、市内において新規に人工透析が必要になる人が低下傾向になったりする成果が得られたとされています。

その後、この呉市の取り組みはモデルケースとして国からも注目され、「医療保険者によるデータヘルス/予防・健康づくり」として政策化されました。現在では全国で、継続的に類似のデータヘルスの取り組みが実施され、国からも継続的に予算が組まれています(※)。

※保険者努力支援制度という制度の中で、データヘルス計画の実施状況や糖尿病の重症化予防事業の実施状況に応じて、予算を自治体に配分する取組が行われています

こうした「実際にやってみた」事例が強いのは、実現可能性や有効性が示せるのももちろんですが、失敗経験や成功経験も含む「ストーリー」として語ることが出来るので、国の政策を考える行政官僚や政治家が理解しやすいことです。実際に官僚や政治家の方に相談しに行くと、「で、事例は?まず事例を教えて」と言われることも少なくありません。

じゃあ、この効果抜群な「モデルケース」、そもそもどうやったらうまく始めることが出来るのでしょうか?

以下ではこのモデルケースを作りたいと思ったときに組むべき自治体の選び方から、モデルケースを政策として全国展開する際のポイントまで解説します。

(この続きはこちらのnoteから)

(執筆:西川貴清、監修:千正康裕)

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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2023年12月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。