ラーム選手がLIVに移籍する動機となったもの
世界のゴルフ界で注目されているジョン・ラーム(Jon Rahm)選手が先月8日、LIVゴルフに移籍することが明らかにされた。彼の出身国スペインでも各紙がそれを取り上げた。彼はバスク出身であるが、彼の苗字ラームはスイスが発祥地。彼の先祖はスイスからスペインに移民して来た。
ラーム選手がLIVへの移籍を考えるようになった動機は、昨年6月PGAツアーとLIVゴルフが和解したことに端を発する。それまでラーム選手はPGAツアーの伝統と数々の名選手を生み出したこの組織に強い敬意を払っていた。それ故に、LIVのお金で選手を魅了させるゴルフに対し、これからもPGAツアーはゴルフの殿堂を守って金銭面でも左右されずLIVの存在を無視するかのように不動の姿勢を貫いて行くものと思っていた。
ところが、昨年6月6日にPGAツアーとLIVゴルフとが和解して双方で世界のゴルフに和平をもたらす為の交渉を開始したという発表があった。それもPGAツアーの方ではラーム選手を始め重要な選手には内緒でこの接触を始めていたのだった。それが明らかにされた時点で、ラーム選手はそれまでPGAツアーに忠誠を尽くして来たことに意味がなくなったと感じたようである。それは彼だけではない。他の多くの選手も同様にショックを受けたという。
LIVゴルフが出す賞金額には如何なる選手でも魅力を感じる。にも拘らず、ラーム選手はPGAの伝統あるゴルフを守る姿勢を尊重する気持ちでいた。ところが、主人公であるPGAが重要な選手には事前の知らせもなく、内緒でLIVゴルフと交渉していた。それをラーム選手は裏切り行為だと受け止めたようだ。だから、あの時点からラーム選手はLIVゴルフにより関心をもつようになったのである。
その前に、PGAツアーに忠誠心を示す発言としてラーム選手は2022年6月に「私はお金の為に決してプレーしない。このスポーツへの愛情からだ。私の人生は仮に4億ドルを積まれても微動だしない」と語ったのである。(2023年12月8日付「エル・コンフィデンシアル」から引用)。
同様にLIVゴルフを批判して、
「私はお金に魅了されてプレーしたことは全くない。スポーツへの愛情から競って来た。予選カットなしで3回ラウンドというのはゴルフではない。私は世界で最も優秀な選手を相手に昔から適用されてきたプラットフォームの中でプレーしたい。(LIVの)賞金額は素晴らしいが、もし私が4億ドルを稼ぐとしても私の生きるスタイルが変化するとは全く思えない」
「多くの選手が移籍したことには驚かない。数百億ドル稼げるという大きな理由からだ。しかし、私にはセべ(バリェステロス)、ニクラウス…といったお金ではなく、彼らのように歴史を背後に背負ったチャンピオンになりたい。だから私の心はPGAツアーの中にあるのだ。LIVでは選手は3-4年プレーしてリタイヤーする価値あるだけ稼げる。忌々しいことではある」
とも語っていた。(2023年12月7日付「エル・パイス」から引用)。
彼のこれらの発言は数名のライバル選手がPGAツアーでは稼ぐことができない賞金額に魅了されてLIVに移籍したことをへの批判でもあった。
何しろ、彼が2016年にプロに転向してからこれまで稼いだ賞金額は5100万ドルだ。(2023年12月7日付「エル・パイス」から引用)。LIVゴルフでプレーすればこの金額は僅か数年で稼げる。
ラーム選手がLIVに移籍したいと思う機会を待っていたLIVゴルフ
LIVゴルフのCEOグレッグ・ノーマン氏はラーム選手がプロ選手になった頃から注目していたという。そして、彼を説得できる機会を狙っていたのである。その前に、ノーマン氏は2022年にタイガー・ウッズ選手を7億から8億ドルで契約しようとしていたことを明らかにした。が、ラーム選手を手中に納めるには、それよりもかなり低い金額では無理だと考えていたという。
というわけで、ラーム選手とは5億5000万ドルの契約をすることになったのだ。そして移籍が公になった時点で、ラーム選手はこれまで指摘していたこととは180度方向転換したことについて、
「批判はあると思う。それに立ち向かっていかねばならない。私がこの決定を下した理由の一つはお金だ。それが重要であることは否定しない。でもそれが最も重要な理由ではなかった。スペインのファンは私がLIVに移籍することを決めたもっとも主要なモチベーションを理解してくれると思う。それは一つのチームのメンバーになってファンを作っていくことだ。それを考えると意欲が湧いてくる。ゴルフは個人プレーのスポーツである。しかしチームで勝利すればより一層の喜びを味わえることになる。チームのキャプテンまたはチームのオーナーになることだ」
と語ったのである。(2023年12月8日付「エル・パイス」から引用)。
LIVは現在12チームが参加している。その中でファイヤーホールズGCには彼と仲の良いセルヒオ・ガルシア選手がリーダーとしてプレーしている。このチームにはスペイン人が2人とメキシコ人が2人の構成になっている。仮にラーム選手がこのチームに加わるとなると、一人選手が外されることになる。
今年のライダーカップは欧州チームが勝利したが、それに経験豊富なセルヒオ・ガルシア選手が参加できなかったとにラーム選手は非常に残念がった。同選手の参加が拒否されたのはLIVに移籍したのが理由だった。
ラーム選手のマスターズ優勝の陰にあったもの
ラーム選手は昨年のマスターズで勝利したが、彼は必ず優勝できると確信していたという。なぜなら、丁度40年前の一つの区切りのマスターズで優勝したのがセべ・バリェステロスで、彼が天からラーム選手を必ず優勝させると確信していたそうだ。
また、スペインゴルフ界にはセべ・バリェステロスとチェマ・オラザバルの両雄がいるが、今回の大会には臨時で後者が彼にアドバイスしていた。ラーム選手は同じバスク出身ということでチェマ・オラザバル氏とは深く親交を結んでいる。一方のセべ・バリェステロスは彼が12歳の時に初めて対面したそうで、それ以後は直接の接触はなかった。しかし、セべから多くを学んだとラーム選手は回顧している。
今年のラーム選手のLIVゴルフでの活躍を期待したい。