石川県能登沖至近で震度7の大地震が発生した。元旦の夕方、誰もが正月気分の中、まさに青天の霹靂いや大地震である。現地で家屋倒壊、火災が起きたとの第一報はわずか2、3時間後には報道された。
まだ被害全容は明らかではないが、国・与党政権は野党と協力し、避難者を迅速にトリアージし、災害弱者でも優先度の特に高い人すなわち妊産婦授乳婦とその乳幼児、重い障害のある子供と親から、速やかにより整った環境へ避難、収容保護(二次避難)すべきだ。
未曽有の被害を出した東日本(東北)大震災から干支が一回り終えたところである。東北大震災も厳寒期の寒冷地であった。その避難所運営や救援で学び得たものを国は蓄積している「はず」である。
原発事故直後言われた節電などどこふく風、街はキラキラ、のど元過ぎればな市中だが、国と政権はそれではダメなのだ。避難所は体育館公民館等「だだっ広いスペース」が多く、プライバシー以前に寒暖が厳しい。まず無事な公共施設で暖房可能な施設を確保し、避難所とすべきだ。
自衛隊特に海上自衛隊は、近年の「空母型護衛艦」の広大な格納庫や船内スペースを災害支援に活用できるよう整備していると聞く。さらに有事に民間からチャーターできる大型船舶として、大型高速フェリー「はくおう」があるという。派遣可能な艦の速やかな現地派遣を考えるべきだ。これらが岸壁に横付け、できなくとも小型船やヘリコプターで輸送可能な場所に停泊すれば、最優先すべき人の収容や医療提供が可能になる。
石川県によれば能登半島内居住人口は、平成27年時点で34万人強である。令和5年1月時点の石川県内人口は112万人弱なので1/3程度、先の阪神や東北に比すれば人口が少ないことは救援上は幸いである。問題はその中の災害弱者である。災害弱者はいくつかの見地があるが、高齢者特に要介護者、障害者・障害児、妊産婦、乳幼児そして重症治療中の患者をここでは考える。
そこで問題は、災害弱者がどれくらい居て、どこでどのように救援、収容保護するかである。今回、県内隣県の大都市が無事あるいは復旧が速そうではあるが、阪神、東北の震災から考えるべきは、避難者のトリアージをまず行うべきである。ここでいうトリアージは災害時の負傷者の生死重症度判定ではなく、避難者のより整った救難施設への収容順位づけである。
そのトリアージ順位は、
- 妊産婦授乳婦とその乳幼児(自立不可能な児を含む)
- 重症治療中の患者(末期や超高齢者を除く)
- 知的障害を含む重度障害児特に医療的ケア児(とその親)
を最優先すべきと考える。これらの人は一刻も早く安全で整った場所に収容保護すべきだ。
大規模災害時においては、避難所のキャパシティや医療器材すら限られる。特に少子化のわが国では、未来世代とその育み手こそ最優先しなければ、未来社会が危うくなる。
妊産婦授乳婦は素早く動くことが難しい上に、乳幼児は低体温リスクが高い。先の震災ではミルク等食料のみならず授乳オムツ交換等のプライバシー(セクハラ行為)や感染症等の問題もあった。ゆえに妊産婦授乳婦とその児は最優先されるべきだ。
次に回復が見込める重症患者はもちろん治療継続のため移送が必要だ。末期患者や寝たきり高齢者などは未来社会に資するものではないが、倫理的にまた二次災害時に周囲の人の避難の妨げになる点では、次に移送対象になろう。そして障害児はそのケアや避難環境への適応が困難なため、世話する親とともに整った環境に収容すべきだ。これらが上記トリアージの根拠である。
上記最優先トリアージ対象者は、幸いにして全体からすると少ないはずである。本日1/2夕刻時点の報道では、石川県内避難者は3万人強程度のようである。
令和4年の石川県内出生数は7300人強、能登地域は石川県内人口の1/3なので、2000人強の妊産婦プラス授乳婦が居る可能性があり、過疎化超高齢化で若い世代が少ないと予想しその中で被災し避難が必要な人はさらに絞られる。他地域の縁者などを頼り避難できればその交通を支援すれば済むし、地域外に縁者が無い人はできれば地域内の無事な都市の公営住宅や宿泊施設に収容保護すべきだ。自治体は母子手帳交付者を把握しているから、各避難所に二次避難優先収容の告知をすれば良いし、するべきだ。
重症者は基本的に入院中で中断不可な治療中の人と、少数の在宅療養し在宅医療を受けている人になる。これらは医療機関が自施設内に把握しているから、県などが二次避難依頼の窓口を設置すれば良い。転院収容先医療機関をコーディネートし移送することになる。
重度障害児・者は障害者手帳を交付されているから、自治体等が所在を把握している。避難所で済めばそれでよいが、自宅倒壊等で避難所生活が厳しいなら二次避難が必要になる。
いずれにせよ、二次避難の申し出と移送収容先・転院先施設のコーディネートが必要になるので、県がその窓口を設置し、地域内あるいは広域ネットワークを持つ病院チェーン(例えば筆者の古巣である徳洲会のような)と連携し収容先を決めるシステムを迅速に立ち上げるべきだ。民間宿泊施設等で協力できる施設も、ここに連絡し手を上げるようにすればワンストップになる。
さて要介護者や特に認知症患者を優先対象に挙げないには、理由がある。高齢者は生活環境変化への対応が困難であり、東北大震災でも避難先での体力低下(フレイル、要介護化)や認知症発症・悪化そして災害関連死が報告されている。住み慣れた地域から離れると認知症が発症・悪化するリロケーション・ダメージも知られているから、二次避難が適切とは言えない。
自宅が一部でも居住可能ならその復旧が望ましいし、それが無理でも地方なら避難所は近隣地域住民で「なじみの関係」の人が多いだろうから、その方が安心できる可能性が高い。しかしトイレ自立できない(オムツ)や寝たきり高齢者は、第二次段階で二次避難が必要になるだろう。
いやむしろ、自宅や元の介護施設に戻れない(全壊)の場合は、地域内に小規模な老人ホーム、認知症グループホームを安普請ででも素早く建設してしまう方が、その後の介護問題解決にすらなり得る。
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災害時の「重傷者手当順位のトリアージ」は言われて久しいが、「避難特に二次避難順位のトリアージ」は寡聞にして筆者は知らない、よって書かせて頂いた。
我が国は超高齢化し遠からず国民の半分が高齢者、数千万人の要介護者認知症者が溢れる。南海大地震や富士山噴火等の大災害が発生したら、全ての人を公平平等に援けましょう、などただの平和ボケでしかない不可能になる。東北大震災では寝たきり老人を避難させようとした看護師たちが津波に呑まれたと聞く。筆者が「新型コロナが開けたパンドラの箱あるいはトロッコ問題」で触れたタイタニック号(その他当時の船舶の)沈没時の救助順位トリアージは、平時だからこそ考え訓練する必要がある。
なお東北大震災では、避難所の若い女性、に限らず女性へのセクハラや性犯罪行為が少なからずあったと言われている。仕切れば良いという問題ではなく、仕切られていることが逆に密室リスクにもなる。他県の応援を得てでも避難所に警察官の監視も考えるべきだ。
今年は全国的に雪が少ない印象ではあるが、これから寒さはさらに厳しくなる。災害弱者特に未来世代の保護を国と政権は最優先で措置すべきだ。
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元旦の夜空を染める能登の紅蓮の炎は禍々しく、天や神の怒りに思えた。そして明けた1/2の報道では焼け野原、あの阪神大震災の神戸長田そのままだ。
では安倍氏が叫んでいた国土強靭化とは一体何だったのか!? このようなことが起きないように対策する、ということでは無かったのか? 三陸被災地で最後まで「逃げてください!!」と防災無線に若い女性職員が叫び続けた志津川地区は、復興工事の定点観測をしばらくアップしていたがずーっと土むき出しのドカチャン工事のまま、更新もしなくなった、それが「国土強靭化」だったのか!?
そして石川、富山、福井にはコロナで134億円の「空床補助金」を「ぼったくり」したという例の尾身氏のJCHO(地域医療推進機構)施設が4拠点ある。こんな時こそぜひとも要医療者受け入れに死力を尽くしてみて欲しいものである。
【参考文献】
- 災害時妊産婦 情報共有マニュアル 厚労省
- 災害時要援護者支援と 脆弱性・性別の視点 – 内閣府防災情報
- 会津若松市 復興公営住宅城北団地
- 同、福島県 内外観あり
- 「“若いから仕方ないね”と助けてくれなかった」メディアが取り上げてこなかった『避難所での性暴力』
- 【独自】コロナ病床30~50%に空き、尾身茂氏が理事長の公的病院 132億円の補助金「ぼったくり」