カマラ・ハリスはなぜ不人気なのか?

ハリス副大統領とバイデン大統領 ホワイトハウスHPより

元日に起きた能登半島地震、甚大な被害に言葉もない。被災された皆様には心からお見舞い申し上げます。

ところで、今年は米国大統領選挙の年である。翳りが見えるとはいえ、世界情勢にいまだ強い影響力を及ぼすこの選挙見過ごせない関心事である。トランプが大統領に返り咲くなんて悪夢だ。

再選を目指すジョー・バイデンの最大の障害が、現在81歳という年齢である。ご本人はやる気満々、外見や振る舞いに若々しさを演出しているが、よろけたり躓いたり、また言葉のど忘れ、言い間違いも多く、年齢による衰えは隠しようがない。そこで、高齢の大統領を支え、もしもの折にはその職を引き継ぐことになる副大統領候補カマラ・ハリスに俄然注目が集まる。

トランプ政権下で国連大使を務め、2024年の大統領選に共和党からの立候補を表明しているニッキー・ヘイリーは、バイデンは再選されても4年の任期を全う出来ず、ハリスに引き継がれると公言する。

そのうえで、ハリスには職を担う能力がなく、彼女が大統領になるなど考えるだけで米国の有権者は背筋が寒くなるに違いないと、攻撃の矛先をバイデンではなくハリスに向けている。他の共和党の候補者たちもヘイリーのハリス攻撃に追随し始めており、ハリスは大統領選のちょっとした台風の目になりつつある(The Washington Post, September 19, 2023)。

2020年11月8日、バイデンの大統領選勝利宣言に颯爽と登壇したハリスに米国政治の変化を感じ、私も少なからず期待を抱いた。しかし、ハリスの活躍を目にする機会は稀で、大統領の背後に佇む姿しか目にしなくなった。日本で配信されるニュースの限界かもと思うが、米国でも話題になるのはその不人気ぶりばかりのようである。

ハリス支持/不支持に関する様ざまな全米世論調査を追跡し、平均値を分析したロサンゼルス・タイムズによると、就任時の20年1月20日の調査では支持が5ポイント余り上回っていたが、同年6月を機に逆転し、以後不支持が大きく上回るようになり、23年12月18日時点の分析では支持39%に対し、不支持は55%であった(Los Angeles Times, December 18, 2023)。

副大統領は立ち位置が微妙かつ曖昧な仕事だと言われている。大きな手柄を立てて大統領よりも目立つのはタブーだ。大統領が有能であるほど、副大統領は影のようにならざるを得ない。

初代大統領ジョージ・ワシントンの下で副大統領を務めたジョン・アダムズは、この職は人類が考え出した中で、あるいは自分が想像する限りにおいて最もつまらない仕事だとぼやいたらしい(THE HILL, 07/19/23)。大統領に代わって汚れ仕事を引き受けることもあり、不人気はこの職の宿命と言える。

事実、過去30年の副大統領、アル・ゴア、ディック・チェイニー、ジョー・バイデン、マイク・ペンスの支持率をみると、いずれも就任時から右下がりをたどり、ハリスと同様の傾向を示す。とはいえ、ハリスの不支持率は彼らよりもさらに低く、また就任時からの低下の度合いも大きい(Los Angeles Times, December 18, 2023)。

何故ハリスはかくも不人気なのか。大きく3つの理由が考えられる。

第一に、2021年6月の初外遊における失策である。ハリスは移民問題を根本的な原因(たとえば貧困、犯罪、失業などの問題)から解決すべく、メキシコとグアテマラを訪問した。ところが、決死の覚悟で米国行きを求めるグアテマラの人に「来ないで」「来ても追い返されるだけ」と無愛想に言い放ち、NBCニュースのインタビューでは何故移民希望者で溢れかえるメキシコ国境を視察しないのかという質問に「ヨーロッパもまだ訪問していない」と的外れな応答をして批判を浴び、政治的に無能とのレッテルを貼られた(NBC News, June 11, 2011)。

この一件を契機に不支持が支持を上回るようになった。初の大舞台での失策が今でも尾を引いていると思われる。

次に、ハリスがバイデンの指示により党派的対立が大きく、有権者の間でも意見が二分する難しい政策課題に取り組んでいる点である。先の移民問題が然り。加えて、昨年最高裁が下した妊娠人工中絶合法性を覆す決定に対し、彼女は政権を代表して女性の自己決定と中絶の権利を強く訴え続けているが、これも政治的には貧乏くじである(NC NEWSLINE, July 16, 2023)。

最後に、彼女が大統領に次ぐ地位に登り詰めた初めての女性、しかもインドとジャマイカの移民家庭出身という点である。女性や民族的少数派に対する差別や偏見が根強く残る米国において、彼女のバックグラウンドを苦々しく感じる有権者も少なくないだろう。しかも、人は見慣れた景色が大きく変わることにしばしば戸惑う。有権者がこれまでとは全く異なるタイプの副大統領に違和感を覚えても不思議ではなかろう(CBS NEWS, June 27, 2023)。

さて、不人気なランニングメイト、バイデン再選の足を引っ張る凶となるのか、それとも案外吉か。次回考えてみたい。