ポスト・フランシスコは既に始まった

2022年12月31日、ローマ・カトリック教会の名誉教皇ベネディクト16世が95歳で死去した。世界のカトリック教会はサンピエトロ広場で挙行されたベネディクト16世の葬儀式典(1月5日)で新年2023年をスタートした。

そして2024年はローマ教皇フランシスコが開始した世界的シナドス(世界代表司教会議)のフィナーレを迎える年だ。教皇は21世紀の最初の四半世紀の節目、2025年に「聖年」開催を布告し、聖年の前年、2024年を大きな「祈りのシンフォニー」として、神の愛の多くの恵みに感謝し、その創造の業を賛美する年にしたいと述べてきた。

一般謁見で演説するフランシスコ教皇(2024年01月03日、バチカンニュースから)

ちなみに、教皇は25年の聖年が「人々が切望する新たな再生のしるしとして、希望と信頼の環境を再び醸成すること」を希望し、その実現のためには「人々が普遍的な兄弟愛の精神を取り戻すことが必要」と指摘している。

それに先立ち、今年10月にはシノダリティ(教会の在り方)に関する世界シノドス総会の第2回会合がバチカンで開催される。信徒だけでなく司教も含めた世界中からのシノドス会員が再び参加し、最終文書について討議を重ね、採択する予定だ。

フランシスコ教皇は2019年に教会刷新のための「シノドスの道」を提唱し、各教会で積極的に協議してきた。各国の教会の意向を重視し、平信徒の意向を最大限に尊重、LGBTQ(性的少数派)を擁護し、同性愛者を受け入れ、女性信者を教会運営の指導部に参画させ、聖職者の独身制の見直しや既婚者の聖職者の道を開く、等々の改革案が話し合われてきた。例えば、バチカン教皇庁のフェルナンデス教理省長官は昨年12月18日、「同性カップルもカトリック教会で祝福を受けることができる」と表明したばかりだ

ただし、バチカンの2024年の日程は高齢87歳のフランシスコ教皇の健康状況に大きく左右されることが予想される。フランシスコ教皇は昨年8月31日から9月4日までの日程でモンゴルを司牧訪問した。ローマ教皇がユーラシア大陸に位置する内陸国モンゴルを訪問するのは初めてだった。

2024年は南米訪問が囁かれているが、現在の教皇の健康状況で遠出の訪問はやはりきつい。訪問計画が土壇場でキャンセルされる事態も十分に予想される。フランシスコ教皇は変形性膝関節症に悩まされている。膝の関節の軟骨の質が低下し、少しずつ擦り減り、歩行時に膝の痛みがある。最近は一般謁見でも車いすで対応してきた。

教皇は3月13日に教皇在位12年目を迎える。フランシスコ教皇はベルギーへの旅行を発表したが、日程はまだ決まっていない。計画されているポリネシア訪問、教皇の故郷アルゼンチンへの訪問が実現するかどうかはまだ不明だ。南米旅行については、9月にエクアドルのキトで開催される世界聖体会議への参加に関連しているのではないかとの憶測が流れている。

また、フランスのマクロン大統領はフランシスコ教皇をパリに招待したいと考えている。2019年の大火災で焼失した世界的に有名な礼拝堂、ノートルダム大聖堂は12月8日に礼拝を再開する予定だ。同時に、パリでは夏季五輪大会(7月26日開幕)が控えていることもあって、フランシスコ教皇を迎えて2024年を盛り上げたい意向が強いという。

87歳と言えば、普通でも高齢者に入るが、世界13億人以上の信者の最高指導者の立場のローマ教皇には大きな責任と負担がのしかかっている。だから、フランシスコ教皇の後継者問題は2024年に入り、これまで以上に現実的な課題となることは避けられないだろう。

参考までに、教皇選出権を持つ80歳未満の枢機卿は現在、137人だ。そのうち、フランシスコ教皇が任命した枢機卿は102人であり、残りの35人はベネディクト16世(在任2005~2013年)、ないしはヨハネ・パウロ2世(同1978~2005年)によって任命された枢機卿だ。コンクラーベでの選挙で当選するには選挙権を有する枢機卿の3分の2の支持が必要だ。2005年のコンクラーベではベネディクト16世は4回目の投票で、フランシスコ教皇の場合は2013年、5回目の投票でそれぞれ当選している。

聖職者の未成年者への性的虐待問題、不正財政問題などに直面するローマ・カトリック教会は信者たちの信頼を失い、教会から脱会する信者が増えている。教会の頂点にたつフランシスコ教皇は教会の刷新に乗り出しているが、87歳の教皇にはもはや多くの時間は残されていない。バチカンでは保守派と改革派の間で既にポスト・フランシスコへの主導権争いが始まっている(「宗教は『世俗化』に打ち勝てるか」2023年5月1日参考)。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年1月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。