そこまで書くのか?日経新聞の「相場あおり運転」を憂う

証券業界紙的な体質の修正を

日本の株価が9日に33年ぶりの高値、終値は3万3763円をつけました。11日も3万5000円の高値でした。年内には1989年12月のバブル期の史上最高値3万8915円を更新すると、はやす声も聞かれます。

日経新聞本社 同社HPより

能登の大地震災害、羽田空港の航空機衝突事故、国会議員の相次ぐ逮捕と、暗いスタートを切った2024年にとって、株高は明るい話でしょう。一方、株高の背景は単純ではなく、手放しで喜べる話ではない。

株価の見通しは証券専門家に任せるとして、私は新聞報道のあり方、特に日経新聞の報道姿勢を論じてみたいのです。10日付の1面トップの記事を読んで、「まるで相場の煽り運転みたいな記事ではないか。経済専門紙というより、業界紙のような体質だ」だと、感じました。

しかも筆者には『本社コメンテーター』という肩書がついています。恐らく日経では、高いランクの記者なのでしょう。なおさら残念です。

日経は英フィナンシャル・タイムズ紙を買収し、大型の解説コラムはレベルの高さを感じさせます。英エコノミスト誌のコラムも載り、日経記者の解説記事は刺激を受けている印象を受けます。

一般紙の政治記事が親権力、反権力に二分されてしまったような日本の政治ジャーナリズムの中で、日経の党派色が少ない政治記事はいいほうです。ビッグデータや衛星写真を読み解く。データジャーナリズムでも、日経は先行し、他紙が慌てて手法を模倣している。

「紙」読者重視からの脱皮も目指し、デジタル有料媒体の購読者が100万を超えたそうです。有料でも購読してくれる専門筋、企業筋の開拓が進んでいるのでしょう。ネットを探せば読めるような記事を紙媒体で提供している一般紙は、読者の世代交代にどう対応するのでしょうか。

日経新聞に期待を寄せていたところ、10日付の5段見出しの「33年ぶり高値」を1面トップ、脇に「株価の煽り」同然の署名入り解説、11日付は11面の大きな解説雑報「脱日銀頼みが進む」を掲げたので失望しました。

中でも酷いのが「本社コメンテーター」氏の解説コラムです。読んでいるこちらまで赤面するような文言が並んでいます。まるで株式新聞、証券新聞ではないかと錯覚するコラムです。

記事の冒頭は「世界の投資家が抱く日本への期待は本物だ」です。経済、株価の見通しは断定は禁物です。まともな経済専門紙「そこまで言ってしまっていいのか」との印象を受けます。

「・・・次は日本企業の番だ。市場の期待に応えて改革し、成長するかが株高のカギを握る。高望みではない」と続きます。証券会社ならともかく、「高望みではない」とは、また持ち上げたものです。

PBR(株価純資産倍率)にも触れ「PBR1を割っている93銘柄でPBRを1倍にする、つまり株価を帳簿上の価値に戻すだけで、日経平均は3万6154円と試算できる。89年に市場最高値3万8915円が視野に入る」と。そうなるかならないかではなく、報道機関がそこまで煽るのは行き過ぎです。

「企業が輝けば、日本株が海外投資家の資金を引きつけて強い円が帰ってくる。強い円は企業の海外投資家を支え、企業をもっと魅力的にする。市場が教える日本巻き返しの処方箋」という、美文調の見取り図も示す。これではマネー市場の応援団の記事です。

11日付では「脱『日銀頼み』進む」の見出しで、「海外投資家と日本企業の変化が歴史的な株高を生んでいる」、「海外勢が2年ぶりに買い越しに転じた」と。この段階で「歴史的」とまでいいうのは早すぎる。

中国がデフレになりかけ、投資先として安全保障上の懸念もあり、マネーの中国回避が進んでいると、日経の別の記事を読んだことがある。マネーが中国の代わりに日本に向っている。それとの関係はどうなのか。

日銀がデフレ対策でETF(上場投信)を大量に買い込み、全体の7%に達します。竹馬に乗った株高です。「少しづつでも売却し、株式市場の正常化のチャンスにする」とか、せめて「株高が続けば、大規模金融緩和の出口で発生するであろうマネー市場の混乱回避になる」とか、そのくらいのことを指摘するのがジャーナリズムの仕事です。

円相場は1㌦=145円(11日)と、依然として円安水準です。輸出の多い大企業の利益が増えており、それが企業収益を好転させ、株高の一因となっている。大規模緩和の正常化の過程では、日米金利差が縮小し、円高要因となる。今の円安もまた、株高にとっての竹馬です。

日経は昨年4月、来日した国際的な投資家・バフェット氏とのインタビュー記事を1面トップで扱い、「日本株への投資を拡大する。金融不安は買いの好機だ」との発言を紹介しました。3面に関連記事、8面に発言要旨と、株高を期待した破格の大展開です。

まるで証券界のインサイダーのようでした。株高になると日経は売れる、バブルになると、日経はますます売れる。

機関投資家、ファンドの資金源は日本の超低金利のカネです。円建てで調達した資金を株式投資に回せば、儲けが大きい。そんなチャンスを外国投資家に与え、日本の消費者は円安による物価高に苦しむ。そのような構図に釈然とした思いを持つのは私ばかりではないでしょう。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2024年1月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。