民進党政権は続く
13日(土)台湾の総統選が行われた。与党民進党と国民党の支持率は拮抗していると報じられていたが、大方の予想通り、与党民進党候補の頼清徳氏が勝利した。
台湾総統選、与党・頼氏が当選 対中強硬路線継続へ―史上初の「3期連続政権」
今回の総統選の注目点は、蔡英文政権の中国本土政策の継続と、台湾経済の見通しを秤に掛け、台湾の今後4年間を誰に託すのか?中国共産党が仕掛けてくる今回の選挙に絡めた宣伝工作と今の台湾の若者の意識がどのように変化してきたのか?と言う点だったろう。
また、今回の選挙結果は中国共産党や習近平にどのような影響が出るだろうか?また、台湾国民、日本国民にどのような変化を齎すだろうか?について、現時点での私見を書かせていただいた。
アメリカは対中戦略を進める上で、台湾が独立した民主主義国家であり続ける重要性を言い、日本では安倍元総理のレガシーとも言える東アジアの平和と安定の為、日台関係が不可欠であると考えてきた。
その意味で、今回の総統選は重要な意味を持つ。
今年5月で任期を終える蔡英文氏は任期中に台湾の国際的な地位を高めたことが評価され、アメリカも蔡英文政権を支持してきた。同様に日本も、安倍元総理と蔡英文総統の間で水面化で強い信頼関係を維持しつつ、東アジアにおける外交戦略の要と位置付けてきた。
「台湾有事は日本有事である」という安倍元総理の言葉は、国境線を接する日本の立場をよく表しており、今も毎日のように行われている中国海警局の日本領海侵入事案は、中国による日本と台湾への揺さぶりであり、日本のEEZ近くで繰り返し行われている中国船の違法操業にしても、違法な地質調査にしても、それはあくまで日本と台湾の出方を探る意味を持つ。
巷間、言われているような既成事実の積み上げと言う意味もあるだろうが、中国は日本の憲法や関連法律のアレやこれやを熟知しているので、仮に法改正等が行われるとすれば、日本国内の親中議員を使ったり、民間団体等を活用して、世論誘導を行いながら、法改正、憲法改正を阻む動きをしてくるだろう。
日本の中小企業が問題なのは、中国への投資をもったいないと感じて、損切りが出来ない、所謂、ヘタレ企業が多いことだろう。しかもそれらの企業には、地方議員や国会議員がウジムシのように集っている。中国市場は大事だと表向きは言うだろうが、議員が大事なのはそれら企業でも、日本の国益でもなく、自分の議席だ。多少の企業献金もあるだろうが、それよりも議員で居続けることが大事なので、中国市場の重要性を言うのだ。
習近平が抱えるジレンマ
中国が民主主義国家で自由主義経済を重視する国なら、市場に「自由」が存在しているのだから、何ら問題は無い。中国が共産党一党独裁で専制主義国家だから問題なのだ。
確かに中国が専制主義を捨てきれない事情も、分からないではない。巨大な国家で数多くの国民を擁していて、長い歴史の中で、人殺しを繰り返すことで国家の安定を図ってきた以上、絶対的な権力が存在しなければ、国の統治が出来ない。
中国は表向きは法治国家だと自称しているが、実際は、中国共産党が全ての判断基準を持ち最終的な意思決定を行なっているのは、誰の目にも明らかであり、人権重視や共産主義以外の政治思想は国家の形を壊すきっかけになりかねないと考えている。
また、中国は経済についても、習近平氏が打ち出したように、国家資本主義を柱に置いている。
東洋経済オンラインで行われた橋爪大三郎氏と大澤真幸氏の対談を読めば、現在の習近平が進めようとしている国家資本主義の根幹の部分を容易に理解できる。
この対談は2021年11月の記事だが、それはまさに世界がコロナ禍を経て世界がどこに向かうか?の岐路にあった時期であり、世界が中国のこれからに注目している時期に行われたものだ。
この対談で取り上げられているような中国の歴史的背景も含め、私たち日本人は、これから中国はどこに向かおうとしているのかを考察する必要がある。
仮にこの対談の中で取り上げられている習近平が憧憬を抱く毛沢東が示した、全体主義による国家統治の有り様と、鄧小平が示した広大な国家と膨大な民衆を動員した国家資本主義の有り様を融合したものを理想とした習近平の向かう先にあるものが、自由主義で民主主義を規範とした資本主義社会への抵抗であるならば、そこには一つのゴールが見えていなければならない。
確かに今回の台湾総統選について、習近平は一つの中国論をあくまでも堅持して、台湾統一に向かうことを明言した。
中国外務省「台湾が中国の一部という事実変わらない」 台湾・総統選で談話発表
しかし、現実に目を向けると、鄧小平が国家資本主義を構築する為に利用した共産主義による一党独裁と、経済発展の資源としての国土は、もはや広大な中国の国土の中には存在していない。
国民の三倍はあると言われる住宅は、地方に廃墟を産んだだけだし、少子高齢化の波は止めることが出来ない。外貨をアテにした中国の世界支配の一つの具体化であった製造業についても、いかに中国共産党が人民元を固定相場にとどめようと思っても、経済の資本主義化の波は中国国民の「富」への憧れを留め置くことは出来ていない。
中国共産党の思惑は、経済格差を無くし、中国全土にインフラを整備して、急速に近代化を進めると同時に、そんな中国を理想郷として、世界の中国化を進めることが狙いだった。つまり、アメリカに取って代わる国を生み出したかったのだろう。
その中国において、共産主義思想と具体化した社会主義国家の理想郷は、あのちっぽけな台湾によって、実現を阻まれている。
ご存知のように中国が台湾を欲する最大の要因は、地政学的な東アジアにおける海洋の覇権を獲得するためだ。それが、巷間、言われている第一列島線と言うものだ。しかもそこには尖閣諸島も含まれ、また沖縄までも自国の領土にしようという奸計がある。
私が以前から指摘している通り、毛沢東が中華統一を目指す上で利用したのが、漢民族が持つ中華思想と共産主義との融合だ。中国共産党は冗談を抜きにして本気で漢民族が世界で最も優秀な民族だと考えている。中国を共産主義国家だと考えるのは大きな誤りで、前述の対談の中でも指摘しているように、中国は漢民族が世界支配を「すべき」だと、本気で考えているのだ。大陸国家ではない日本に生まれ育った日本人は、世界とは「孤立」したものの集合だという観念が強い。それは日本が海洋国家であることに起因する。
日本の国境線は全て海の上にあり、外界からの影響は常に「海」と言う膨大な障壁を越えて伝わってきた。であるが故に、日本は独特の文化と文明が発達してきたのだが、日本「国」が優れていたのは、宗教的な影響を大きくは受けていないことにある。
確かに外来の宗教で仏教が根付いたと考えているかもしれないが、では日本の学校で仏教教育を行なっているか?と言われれば、むしろ道教や儒教に近い道徳教育がせいぜいであって、大陸から渡来した仏教が宗教観念として影響を受けたとは言えない。正月になれば神社に家内安全を祈願し、お彼岸とお盆には墓参りをする。それが同じ人が行う国など、そうそう、無い。
橋爪大三郎氏が指摘しているように、中国が宗教「的」な観念論として中華思想と共産主義を融合させたと言っても、たかだか100年に満たない歴史なのだ。
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以後、
・これからの中国と日本
続きはnoteにて(倉沢良弦の「ニュースの裏側」)。