デンマークで14日、マルグレーテ2世女王(83)が退位し、息子のフレデリック皇太子(55)に王位を譲る式典がコペンハーゲンで挙行された。デンマーク国民はフレデリック新国王・メアリー王妃(51)の国王夫妻の即位を祝った。マルグレーテ女王は健康を理由に退位を表明していた。
欧州の王室では近年、女王が退位、ないしは死去して新しい国王が誕生するケースが増えてきた。マルグレーテ女王が退位したことで、欧州の11カ国の王室から女王はいなくなり、全て男性国王となる。
例えば、オランダで33年間王室のトップを担ってきたベアトリックス女王(85)が2013年4月、長男のアレクサンダー皇太子(56)に王位を譲った。オランダ王室では123年ぶりの男性国王が誕生した。
そして、在位70年間という王室歴代最長在位記録を残した英国のエリザベス女王は2022年9月に死去し、長男のチャールズ皇太子(75)が昨年5月、新国王に戴冠した。そして今回のマルグレーテ女王は在位52年後、王冠をフレデリック皇太子に譲ったことで、オランダ、英国、デンマークの3カ国の王室で「女王」から新しい「国王」が誕生したわけだ。
欧州最古の歴史を誇るデンマークの王室でも過去、いろいろ噂や批判の声も聞かれた。フレデリック皇太子はシドニー五輪大会で知り合ったオーストラリア出身のメアリー妃と婚姻した。同妃の“モード狂”が国民の間で一時期批判されたが、今は国民の人気は高い。
また、女王マルグレーテ2世のご主人、ヘンリック殿下(フランス出身)はデンマーク語が流暢に話せなかったことから、国民の間では人気がもうひとつだといわれてきた。一方、気さくな性格のマルグレーテ女王の場合、「デンマークの母」と呼ばれるほど国民的人気があった。
デンマークでは男性国王が通常だったが、1953年、国民投票を通じて女王の道が開かれた。なお、マルグレーテ女王はヘビースモーカーとして知られてきた。同国のメディアによると、デンマーク国民の約80%が王室を支持している。
日本の皇室と関係が深いオランダのベアトリックス女王は2013年1月、退位を表明し、同年4月に長男のアレクサンダー皇太子に王冠を譲ったばかりだ。オランダ王室の場合、1980年から33年間、オランダ王国に君臨してきたべアトリックス女王は息子(次男)王子をスキー事故で失うなど、心労が重なっていた。その意味で、ベアトリックス女王の退位表明は賢明な判断だったといわれた。
新しい記憶としては昨年5月、チャールズ新国王の戴冠式だろう。母王エリザベス女王は2022年9月8日、96歳で亡くなった。バッキンガム宮殿から戴冠式が行われたロンドン中心部のウェストミンスター寺院までの道路沿いには多くの国民が旗をもち、戴冠式の様子を共有しようと前日から待っていた様子が映されていた。戴冠式の日は快晴ではなく朝から小雨が降っていたが大雨にもならず、世界から数千人のゲストが集まった。
戴冠式は1000年の伝統に基づくもので、70年ぶりだった。そのため王室問題専門家は、「戴冠式では全ての関係者が神経質になっていた。経験した者が誰もいないからだ」と評していたのが印象的だった。
BBCは80歳を過ぎた女性にインタビューしていた。彼女は、「10歳の時、エリザベス女王の戴冠式が行われたことは聞いていたが、何も憶えていない。チャールズ国王の戴冠式が自分にとって初体験だ」と答えていたから国民の大半にとって戴冠式の様子を見るのは初めてだったわけだ(「チャールズ国王は“聖霊”を受けたか」2023年5月8日参考)。
参考までに、欧州の王室では世代交代が進んでいる。スペインの国王フアン・カルロス1世(86)は2014年6月2日、退位を表明し、フェリペ皇太子(55)に国王を譲位した。スウェーデンでは2010年6月に平民出身のダニエル・ウェストリング氏(50)と結婚したヴィクトリア王女(46)の国民的人気が高い一方、女性問題でスキャンダルが発覚し、人気を落としたカール16世グスタフ国王(77)の退位を要求する声が高まっている。「ヴィクトリア王女が女王に就任すべきだ」という世論調査結果が公表されるなど、王室は揺れている(「欧州王室」で世代交代の風が吹く」2014年6月8日参考)。
欧州王室では世代交代が進む一方、王室のあり方にも変化がみられる。オランダのアレクサンダー国王は3代続いた女王時代とは違った王室の在り方をみせてきている。
デンマークのフレデリック新国王は皇太子時代、マラソン大会に自ら参加するなどスポーツ好きで知られている。欧州の伝統的な王室のデンマークでどのような新しい王室を生み出すか注目される。
ちなみに、英国では昔から女王時代のほうが国は栄えた、といわれてきた。それだけに、男性国王の奮闘が願われる。女王がいなくなった欧州の王室は寂しくなった。近い将来、新しい女王の誕生が期待できる王室はスウェ―デンだろう。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年1月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。