コスト削減とリスク上昇との相反関係

リスク管理は、必ずコストを発生させ、また、いかに努力を徹底したとしても、リスクは完全にはゼロにならないから、残余リスクは自己資本の充実によって吸収させるほかなく、そこに資本コストを発生させる。故に、リスク管理という機能は、リスク削減とコスト削減との相反関係について、最適な状態を維持し、また残余リスクに対して適切な資本配賦を行うものとして、経営上の重要な役割を演じているわけだ。

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保険は、不確実なリスクについて、確定したコストとしての保険料を対価にして、それをゼロにする仕組みであって、保険においては、将来に発生し得る不確実なコストとの等価交換として、現在の確実なコストとしての保険料が算定されているので、将来の不確実なコストの現在価値としてのリスクの意味が明瞭に示されているわけである。この将来の不確実なコストとしてのリスク認識こそ、経営におけるリスク管理の要諦である。

規模の大きな企業では、広い領域にわたって多様なリスクについて保険を利用しているわけだが、それらのリスクのなかには、相互に自然に打ち消しあって、同時にはコストとして顕在化しないものもあるはずであって、保険が過剰になる可能性がある。この可能性は事業規模が大きいほど高く、合理化による保険料削減の余地は小さくはない。

また、損害保険会社が提供する保険以外にも、保険の代替的な手法があり得る。例えば、ある自然の事象が生起するとき、ある企業には損失となり、別の企業には利益になるのならば、両社間でリスクの交換契約をすることで、保険よりも有利にリスク管理できる可能性がある。どの企業でも、リスクを徹底的に精査すれば、保険は使えないが保険以外の方法でなら付保できるリスク、保険よりも低い費用で付保できるリスクを発見できるであろう。

保険理論の要諦は、リスクは将来の不確実なコストなので、それを低下させる努力は、必ず何らかの形態において、現在の確実なコストの上昇となって現れるということである。当然に逆も真なりであって、表面的には効率化と称してコストの削減が図られている場合にも、その削減されたコストが一見して明らかな冗費でない限りは、必ずどこかで何らかの形で、リスクの上昇、即ち将来の不確実なコストの上昇を招いている。ただし、リスクは、不確実なものとして潜在化していて、コストとして顕在化していないだけなのである。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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