自衛隊の個人装備が劣悪だが、予算を増やしても解決はしない

陸上自衛隊 第1師団【公式】Xより

今回の震災で陸自個人装備が問題となっています。

以下は競合メディアを元ネタにしたコタツ記事ですが。事実ではあるが反面情緒的な記事です。

被災地の自衛隊員「装備品ボロボロ」報道で「こういうところにお金使って」の声…元隊員も「意外に自腹は多い」と指摘

被災地の自衛隊員「装備品ボロボロ」報道で「こういうところにお金使って」の声…元隊員も「意外に自腹は多い」と指摘 - ライブドアニュース
孤立集落へ物資を届けに雪道を行く自衛隊員1月1日に発生した能登半島地震から2週間。懸命な安否確認作業や物資輸送が続けられるなか、いまネットで話題となっているのが、被災地に赴く自衛隊員の装備だ。「1月14日

自衛隊員の靴は、戦闘靴2型という官給品が標準装備として使用されています。この靴は長時間歩く場合には疲れにくい仕様となっていますが、強度は劣り、踏み抜き事故を起こすこともあるそう。また、靴の中に冷たい水や雪が入り、最終的には指が壊死してしまうリスクも指摘されました。

自衛隊員はコンバットブーツなどを持ち込んで使用しますが、官給品でなければ自腹を切るしかないのです。(週刊誌記者)

この記事を報じたニュースサイトのコメント欄には、災害派遣の自衛隊員には充実した装備品を支給すべきとの声が寄せられている。

1995年、阪神・淡路大震災で被災地に派遣された経験を持つ自衛隊員がこう語る。

当時も、安全かつ効率的に作業するには、派遣の前に自腹でライト・皮手袋・ゴーグルなどの道具を用意する必要がありました。上司にそれとなく官給品として支給してもらえないのかと聞いてみたのですが、「国民が納得してくれなければ無理だな」と。

国民を守るために働く自衛隊員の装備品には、お金をかけてしかるべきではないのか――。

装備というか需品が劣悪だというのは事実です。総報道されると予算を増やせという人が必ず多数出てきます。

ですが、予算を増やしても解決しません。この三年間防衛省の予算は拡大の一途を辿りましたが、個人装備がそれで改善しましたか?

予算を増やしても別なところで使われるのがオチです。例えば、本年度は既に旧式化しつつある、カール・グスタフM3を260門も大人買いしましたが、そんなカネがあれば、被覆をどれだけ更新できたでしょうか。

こういってはなんですが、ギャンブル狂のサラリーマンが競馬に注ぎ込んで子どもの給食費も払えない状態で、給料を二倍に上げても更に競馬につぎ込むだけと同じです。

防衛省も自衛隊も問題が存在しているとは知っていても、それを解決するつもりはまったくない。『国民が納得してくれなければ無理だな』というのも嘘で、単なるいいわけです。

軍隊であれば当然問題とすることを問題と意識していない。現状維持ができればいいや、という組織文化と、実質的に調達計画が存在せずに、クズな装備に5倍10倍のカネを払う体質が問題です。

ブーツでいえば特殊作戦群まで含めてミドリ安全の独占が問題です。本来国内外の複数のメーカーに競わせるべきです。モンベルやワークマンなど参加させるべきです。

欧米メーカーでもアジア人の足に合うタイプを提供しているところも少なくない。白人などと比べて日本人含めて黄色人種は足幅が広いわけですが、そういうのにも対応しているメーカーはあります。また英軍では足幅がSMLの三種類から選べます。こういう選択ができる方がいいでしょう。

開発と生産の契約を分けて行うべきでしょう。

被服にしても東洋紡などいつも同じ会社が独占的あるいは寡占的に契約を取っているのは大変問題です。閉鎖的であり、はじめから契約が取れるならばどこも意欲的な開発を使用とは思いません。新規参入を促すべきです。

製造は外国でもいいです。むしろ安価に調達できるならば海外で調達すべきです。

そもそも陸自の装備、需品は定数しか入れません。つまり予備が殆ど存在しない。これでは災害時もそうですが戦時には戦えません。海外で安価に量産して、予備の装備含めた調達計画をつくるべきです。

現状調達計画自体が事実上ありません。何年間で調達するという契約も企業と結びません。これではまともな会社は事業計画が立たないので受けようとは思いません。

調達自体が目的化しています。18式防弾ベストにしても何年で調達するという計画がありません。そして防弾ベストは経年劣化しますが、それを踏まえて調達しません。ですから、被服にしても個人装備にしてもボロボロになったものがそのまま使用されています。

無論多くの軍隊では私物使用を許可しています。官品が開発から調達までに少なくとも数年係るし、所詮役所仕事なので将兵が満足するものにはなりづらい。対して各メーカーが出している製品は1年程度で新型がでます。

ですから自衛隊でも私物使用を全面的に認めるべきです。一部部隊では指揮官が禁止しているようですがこれはやめさせるべきです。一体どんな装備が支給しても殆ど使用されなかったのかを調査すれば、装備の問題も具体的に把握できるかと思います。

それから開発実験団や精鋭部隊の下級幹部や下士官を積極的に海外の見本市や外国の軍隊に演習などの視察に出すべきです。できれば最低5年は同じ人間を年に1回以上いかせるべきです。そうしないと定位置観測ができません。

【本日の市ヶ谷の噂】
陸自が採用したカール・グスタフM3は軽量になった分、二脚の強度が落ちており、水陸機動団の荒い使い方で故障が続出するも予算不足で補修部品が調達されず。今後メーカーが生産ラインを閉じるので更に修理が困難になる、との噂。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2024年1月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。