不人気なカマラ・ハリスはバイデンの足を引っ張るのか?

能登半島地震、被災地の復旧は遅々として進まず、被災された皆さんの生活は困難を極めている。被災地の過酷な状況を知るにつけ、胸が締め付けられる。亡くなられた方々のご冥福と被災地の1日でも早い復興を心から祈り、これからも被災地の皆さまに心を寄せ続けたい。

さて、選挙イヤーのトップバッター、台湾総統戦は、民進党の頼清徳氏が勝利し、ひとまず安堵した。しかし、1月16日(現地)にアイオワで行われた米大統領選挙の共和党予備選ではドナルド・トランプが圧勝し、トランプの指名獲得が現実味を帯びてきた。有力候補と目されていたニッキー・ヘイリーは振るわず、3番手に終わった。

11月に行われる本選では、再びバイデンとトランプの争いになる公算が大きい。素人目にすぎないが、バイデンが勝利するためには無党派に加え、反トランプの穏健な共和党支持者の票をどのくらい獲得できるかにかかっている。

カラマハリス副大統領
The White Houseより

そこで注目されるのが、引き続きバイデンのランニング・メイトとなるカマラ・ハリスである。前回の投稿で述べたように、ハリスの支持率は低迷し、過去30年の副大統領の中でも最低ラインであるばかりか、その政治的能力に疑念を持たれてもいる。選挙戦では、おそらく共和党陣営の攻撃の矢面に立たされるだろう。

米国の大統領選において、大統領候補者の足を引っ張るような副大統領候補は必ずしも珍しいものではない。彼らは対立候補の攻撃の餌食になった。しかし、その目論見はいずれも成功していない(POLITICO, 05/15/2023)。

たとえば、1968年の大統領戦において共和党候補者リチャード・ニクソンが組んだスピロ・アグニューは失言が目立ち、民主党候補のヒューバート・ハンフリーのネガティブ・キャンペーンの格好のターゲットになった。実際、アグニューの失言癖は有名であった。だが、ハンフリー陣営の策は功を奏さず、ニクソン=アグニューが勝利した。また、1988年のジョージ・H・ブッシュ出馬時の副大統領候補ダン・クエールも軽率な発言や女性問題のためにその資質が疑われ、批判に晒されたが、ブッシュは当選した。

とはいえ、副大統領候補者の資質は大統領選の勝敗に影響しないと断言することもできない。2008年大統領選では、共和党候補者のジョン・マケインの敗北に対する副大統領候補のサラ・ペイリンについては評価が分かれている。2010年のスタンフォードの研究がマケインはペイリンのために200万票以上を失ったとした一方、カリフォルニア大学アーバイン校の調査はほとんど影響しなかったと結論づけた(POLITICO, 05/15/2023)。

しかし、2012年には再びマケインの敗北にペイリンが影響したことを示唆する研究が発表された(CBC NEWS, May 1, 2023)。当時、マケインは72歳、しかもベトナム戦争中の負傷による後遺症など健康問題も抱えていた。ペイリンの資質が問われたとしても不思議はない。

バイデンはさらに高齢の81歳、これまでの大統領選挙とは事情が異なる。重病や急死のために任期を全うできなくなる可能性はかなり高い。また、高齢の大統領の負担を軽くするため、副大統領の外国訪問や各種行事への出席の機会が増え、その役割が大きく、重要になるかもしれない。

無党派や反トランプ派共和党支持者の心を掴むためには、ハリスがバイデンを支え、もしもの折にはその任を確実に受け継ぐことのできる政治的能力があることを強く印象付けることは決して意味のないことではないだろう。

ハリスの政治的資質については擁護する声もある。ハリスが移民や中絶など社会を二分する論争的な問題を担わされているため、慎重にならざるを得ず、彼女本来の知性や能力を発揮できていないという指摘である(CNN, June 10, 2021)。事実、ハリスはサンフランシスコの地方検事を皮切りにカリフォルニア州の司法長官に選出され、有能な法曹家として活躍してきた。ただ、2016年に上院議員に初当選してわずか4年後に副大統領織に就いたため、政治的な経験不足は否めない。

もっとも、その高い資質を有権者に強く印象付けるには離れ業が必要かもしれない。一つ参考になりそうなのが、1952年選挙でドワイト・アイゼンハワーの相方を務めたニクソンである。

政治資金疑惑をかけられたニクソンは全米にテレビ中継された演説で身の潔白を訴え、見事に疑いを晴らした(POLITICO, 05/15/2023)。この名演説は彼が有権者から唯一譲り受けた娘の愛犬の名に因んで「チェッカーズ・スピーチ」と呼ばれている。

バイデンが本気で再選を目指すのであれば、ハリスに全米を唸らせるような見せ場を用意すべきではないだろうか。