日経に「『日本住みはリスク』増える海外永住57万人 米欧豪へ」という記事があり、この手の記事にしては珍しく識者のコメント欄「THINK!」に6つも意見が入っていました。記事の趣旨は海外に永住権を取得して長期間の海外移住をする人が23年に57万人になり、この20年増え続けているというものです。移住先は北米が概ね半分、あとはオーストラリアや欧州が主流となっています。
この理由について記事では日本の経済的不安、社会保障制度の持続可能性を上げていますが、「THINK!」には女性比率が62%と高い点を捉え女性の活躍機会、専門性と能力の正当評価、低賃金、思った以上に楽しい海外生活…といった理由が上げられています。
日本人の海外移住の歴史は基本的には経済的事情が背景にあったと考えます。戦前、特に地方では子だくさんの家庭に於いて次男以下を食わせれらないので子は自活の一環として海外移住を選びました。それがブラジルなど南米、ハワイ、北米本土への本格的移民第一期でした。男が現地に先に移住し、落ち着いたところで日本人花嫁をもらうために日本から送ってもらった写真だけで自分の嫁を決め、港でその写真を手にして運命の人を待つ「写真花嫁」はドラマにもなりました。1910年代から20年代初頭の話です。
戦後、海外で一旗揚げるという血気盛んな人が現在の海外日系社会を大いに支えました。60年代-70年代頃でしょうか?その頃に移住した人は様々な理由があったと思いますが、日本よりも海外にチャンスを見出した方もいるし、国際結婚などが引き金になったケースは多かったと理解しています。
80年代から90年代前半は我々を含めた男性が比較的多く移住した最後の世代になります。ワーキングホリディ制度が各国で生まれ、若者が海外で活躍する道筋が出来たからです。当時はワーキングホリディから移民権を取るのは今ほど難しくなかった時代です。それこそ移民審査官に「カナダが好きなんでーす!」を押し通して移民権を貰ったケースも複数知っています。
その次が民主党政権時代。あの時の日本に吹く若者の厭世観は酷かったと思います。カナダには降って湧いた様に優秀な若者が職を求めやってきたのです。私も当時、ワーホリの方をかなり雇っておりその人たちが日本帰国後も繋がっている人は何人かいますが、あれほど下を向く若者が多かったのにはびっくりしました。日本は2度とあのような時代に戻してはいけません。
さて、タイトルの「日本人は本当に海外に移住したいのか?」でありますが、若干ミスリードしている部分もあると思います。例えば半年ぐらい前にネット記事で話題になった「海外では月に〇十万円も稼げて貯金が沢山出来た」という話です。あれがあったからでしょうか、今、確かにワーホリの人が溢れています。就労ビザ付きの専門学校生も増えました。ですが、〇十万円稼げるのは仕事が見つかったら、の話であり、今は仕事は見つかりません。理由は「Youを雇う理由は?」です。何が秀でているのかが、セールスポイントがあるのかです。英語がちょっとできるぐらいではダメです。出来て当たり前だからです。
私も採用面接をコンスタントに行っていますが、最近は採用したくなる人材との遭遇が少なくなってきました。数はいるのですが、質が落ちているのです。それこそ民主党政権の頃は特上の若者が溢れていたのですが、今は並が並ぶ中で秀逸な人材を探し出すという感じになっています。つまり、海外移住したくても海外の方からお断りになるのです。
日経の「THINK!」のコメントに海外の方が給与がよい、というのがありましたが、これはイメージ先行で実態は違います。そんなに払いたくなる人材は極めて少ないのです。そもそも日本の資格試験が海外で流用できるケースはほぼありません。日本で資格を持った専門家でもゼロからなのです。海外生活をそんな甘いものにみてもらっては困ります。
もう1つは家族の問題です。国際結婚をされている場合は当該国に残るでしょう。が、離婚された方が非常に多いのもこれまた事実。日本人の国際結婚の離婚率は厚労省の2021年度の調査で51%。国内が36%なので離婚後に海外に残るハードルは高くなります。もちろん、おひとりで海外に残っている方もたくさんいらっしゃいます。が、最後に背中を押すのが医療と介護、それにマネー(収入)です。
カナダの医療は悪いと日本人は口をそろえて言うのですが、それならばカナダ人の平均寿命が世界トップクラスにあるわけないのです。つまり言葉と要領の問題なのです。だけどそううまくできる人は多くはいません。もう1つは介護。日本のように介護保険がないので1時間4-5000円の出費を覚悟し、かつ、施設に入れば政府系なら40万円、民間なら月100万円は覚悟です。収入は専業主婦をされていたり、別れた旦那に依存されていた方は厳しいですね。再婚する女性も多いのですが、日本人の相手を探す場合独身男性などほとんどいないのです。
事実、私の周りでも日本へ帰る決断をされる方はいます。ただ、帰国後も知り合いがおらず、非常に苦労しいているという話はよく耳にします。「残るも地獄、帰るも地獄」なのかもしれません。
海外で生計を立てていくのも一苦労です。ジャパレスで働けば日本語オンリーで行けるかもしれません。しかし、それでは何のために海外に来たのか、という疑問もあります。海外生活なんて相当心して立ち向かわないとできるものではありません。
そうはいっても20年も海外移住者が増え続けているというのは一部の日本人にとっては国内の住みにくさを感じているのかもしれません。人口減が続く中で海外移住による減少も加わると日本はボディブローのようになりかねない気もします。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年1月21日の記事より転載させていただきました。