2023年になってわが国のがん死亡は増えたのか?

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2023年は、例年になく、がんで亡くなった知人の訃報を受け取る機会が多い。SNS上では、コロナワクチンの影響だと騒がしいが、実際のところはどうだろうか。

国立感染症研究所(感染研)は、全ての原因を含む超過死亡のほか、死因別の超過死亡も発表している。図1は、コロナの流行が始まった2020年1月から2023年6月までの、がんによる超過死亡を示す。2022年12月までは、超過死亡を示す週が多かったのが、2023年に入ると、途端に過小死亡を示す週が多くなっている。本当に、日本のがん死亡は減ったのだろうか。

図1 日本におけるがんによる超過死亡の推移
国立感染症研究所

人口動態統計には、2023年の7月までのがんによる死亡者数が報告されている。2023年7月までのすべてがんによる死亡数は、ほぼ、前年と同様に推移しており、過小死亡を示すほどの減少はみられていない(図2)。

図2 2017年から2023年における月別のがんによる死亡数の推移
人口動態統計

感染研の発表では、全ての死因についても、2023年に入ると一転して超過死亡はみられなくなったが、そのカラクリは、予測死亡数の嵩上げにある。

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がんによる超過死亡についても、同様なことが見られるかを検討したところ、全死亡と同様に、2023年の予測死亡数は2022年と比較して多く見積もられていた(図3)。

図3 2022年と2023年の予測死亡数の比較
国立感染症研究所

人口動態統計には、総数のほか、個々のがんの死亡数も記載されている。図4は、2020年、2021年、2022年のがんによる死亡数と、2016年から2019年のがん死亡の平均との差を算出して、平均に対する割合を示したものである。

図4 新型コロナウイルスの流行前後におけるがんによる死亡数の変化
人口動態統計から筆者作成

わが国でコロナの流行が始まったのは、2020年以降であり、コロナワクチンの接種は2021年からである。ワクチン接種ががん死亡に与える影響は、2020年と2021年、2022年を比較することで推測できるが、ワクチン接種からの期間を考慮すると、2022年との比較が重要である。

全てのがんを対象とした場合には目立った変化はないが、個々のがんでは、2020年と比較して、2022年に増加したがんと減少したがんが見られた。とりわけ、卵巣がん、乳がん、白血病、膵がんにおいて増加が、胃がんと肝がんについて減少が目立つ。

図5には、全がんに加えて、ワクチン接種後に死亡数が増加した5種のがんについて、過去10年間の死亡数の推移を示す。膵がん、卵巣がんについては、一貫して死亡数は増加しているが、乳がん、子宮がん、白血病では、2022年には、それまでの傾向とは逸脱して急峻な増加が見られた。

図5 過去10年間におけるがんによる死亡数の推移
人口動態統計から筆者作成

次に、増加が顕著であった5種のがんについて、2017年から2023年7月までの死亡数の推移を月別に示した。図6には、白血病と膵がん、図7には乳がんと卵巣がん、図8には子宮がんの推移を示す。5種のがんとも、2023年は2022年とほぼ同様に推移し、2020年と比較して各月ともに増加を示した。

図6 白血病と膵がんによる死亡数の月別推移
人口動態統計

図7 乳がんと卵巣がんによる死亡数の月別推移
人口動態統計

図8 子宮がんによる死亡数の月別推移
人口動態統計

2023年のがんによる死亡数は、筆者が先に示した2022年とほぼ同じ傾向を示した(引用2)。

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