米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は20日、衛星写真を基に中国が同国西部新疆ウイグル自治区にある核実験地を再改修、拡大していると報じた。中国の習近平国家主席が2013年に就任して以来、人民解放軍が核兵器の強化と増加に乗り出していることは久しく知られてきたが、今回、衛星写真で追認されたわけだ。
ウイグル自治区のロブノール(Lop Nor)は旧ソ連カザフスタンのセミバラチンスク核実験所と共に核実験所として知られてきた。ウィーンに本部を置く包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)によると、中国は過去、ロブノールで地上、地下計45回の核実験を行った。同国の最初の核実験は1964年10月16日、これまで最後の核実験(地下実験)は1996年7月29日だ。
新疆ウイグル自治区では核実験の放射能の影響で多くの奇形、障害児が生まれている。国際社会は同自治区の現地調査を中国側に要求すべきだ。
ロプノールは広大な地域で、そこにある乾燥した塩湖が核兵器の実験場だ。1964年10月の最初の実験から60年が経て、中国は実験場を再建している。ニューヨーク・タイムズ紙によると、米国の諜報機関はロプノールの再建を何年にもわたって監視してきたという。
現在、世界9カ国が核兵器保有国と受け取られている。米ロ英仏中の国連安保常任理事国の5カ国、それにインド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮だ。次期核保有国候補国としてイランが挙げられている。
1996年9月、包括核実験禁止条約(CTBT)が作成され、核物質の爆発を禁止する国際条約の署名、批准が始められたが、条約発効に必要な要件(条約第14条=核開発能力所有国の44カ国の署名・批准)を満たしていないため、条約は依然発効していない。ただし、米英仏ロ中の5カ国は核実験のモラトリアム(一時停止)をこれまで遵守してきた。
中国は1996年にCTBTに署名したが、批准していない。中国と同様、署名したが、未批准の米国の出方を伺っている、と受け取られている。また、ロシアはCTBTを署名・批准済みだったが、昨年11月に批准を撤回している(「ロシアは近い将来『核実験』再開か」2023年8月18日参考)。
ところで、中国は核兵器開発では米国やロシアに後れを取っている、という認識を有している。中国は1964年~96年の間、ロプノールで45回の核兵器実験を行ったが、モスクワは冷戦時代、700回以上、米国は1000回以上の核兵器実験を実施してきた。核実験回数では中国は米ロ両国と比較して圧倒的に少ない。核兵器の性能向上を実現する目的にとっては、それは大きなマイナスだ。
それだけではない。中国共産党政権派の環球時報の編集長・胡錫進氏は2020年7月28日、「中国は比較的短期間に核弾頭の数を1000基水準に増やすことが必要だ」と話し、「米国との戦争に勝利するためには1000個の核弾頭が必要だ」という趣旨の論評を掲載し、大きな反響を呼んだ。すなわち、中国は核弾頭の数も米ロに比較して少ないという認識があるはずだ。それが中国の核実験の再開情報の根拠となっているわけだ。
もちろん、核実験の再開への誘惑は中国だけではない。米国を含む核保有国は「1980年代、90年代の核兵器が依然機能するかを知りたがっている」(軍事専門家)からだ。実験を繰り返し、問題がないと確認されない限り、その兵器は実戦では使用できない。米国やロシアは過去、臨界前核実験を実施したが、核兵器の安全性などをチェックするためには核実験以上の手段はないからだ。
北朝鮮を除く8カ国の核保有国はどの国も「核実験のモラトリアムを最初に破った国」という汚名を避けたいと思っている。逆にいえば、核保有国の一国でも核実験を再開すれば、他の核兵器保有国も次々と雪崩を打って核実験を再開することが予想されるのだ(「CTBTOは存続できるか」2023年11月13日参考)。
北京だけでなく、ワシントンやモスクワも近年、核実験場を大規模に拡張している。アメリカのネバダ州の実験場、北極にあるロシアの極地ノヴァヤ・ゼムリャ上空で撮影された衛星画像によってそれは証明されている(ノヴァヤ・ゼムリャでの核実験は、1955年9月21日から90年10月24日までの間に130回行われた)。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年1月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。