行政の「人的資本」②:45都道府県「採用予定数割れ」本当の理由

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45都道府県「採用予定数割れ」が話題になっている。毎日新聞によれば「全ての都道府県が直近5年で「採用予定数割れとなった区分があった」とのこと。企業と同様、公務員にも「人手不足」の波が押し寄せているのだ。

行政関係の仕事をしている筆者にとって人事担当から話をそれとなく聞いていたため、納得の内容であり、この現象は当面続くとみている。

他方、そもそも都道府県庁にそんなに職員数いるのか? とも思ってしまう人もいるだろう。必要な事務事業を見直し、業務を「DX」を活用して効率化し、役所でできない専門性があるものは「委託」に任せ、必要なら専門性の高い「任期付き職員」で、と思っている人も多いだろう。

地方分権が進まない中、何とも言えないというのが筆者の意見だ。ただ今回は「採用予定数割れ」 について考察していきたい。その理由は第一に、若い人たちにとっての「魅力」が薄くなっているということ。第二に、都道府県の役割・存在意義が変容。第三に、組織風土である。

(前回:行政の「人的資本」①:国家公務員のプライドと仕事の魅力を再定義しよう

本当の理由1:魅力が薄くなっている

特に都道府県おいて、就職すると周りからも「よかったね」「安心だね」と言われるのは昔の事。長らく「安定した仕事」「解雇されない職業」というイメージで、それなりに地域のエリート扱いをされ、周りからの評価が高い就職先であった。

しかし、安定面でのメリットが、現代においてはそれなりに魅力的でなくなっている。現在、どこも人不足であり少子高齢化ゆえに今後もその傾向は続いていく。さらに、民間企業も雇用が流動化しつつある中、「安定」に魅力はなくなってしまった。

実際、社会に貢献できるし、誰かを助けられるし、地域社会や住民のための仕事ばかりであり、大変魅力的な仕事ではある。しかし、自分の成長ややりがいと言う意味でも若者から見ると魅力的に映りにくいのかもしれない。

本当の理由2:都道府県の役割・存在意義が変容

都道府県の役割・存在意義の変容が第二の理由だ。

都道府県はどうしても、区市町村と国の間に介在する役割を担っている。悪い言い方をすれば「つなぎ」の役割だ。地方分権が進まないため、国から権限が与えられていない場合も多い。そのため、都道府県が「独自性」を十分に発揮できる余地が少ない。

さらに都道府県の中に、政令指定都市があった場合、政令指定都市が独自にできることが多いため、権限の及ぼせる範囲も少なくなってしまう。

仕事のやりがいにも関係してくるが、警察や教育以外は、住民と直接向き合える「現場」があまりないという構造的な面もある。

本当の理由3:組織風土

住民や政治家からのプレッシャーなどが存在し、法的制約が多く、行政法に従って仕事をやるため自由度が民間と比較して少ないため、組織風土にもなかなか問題も多い。

トップは官僚出身か元国会議員やある程度知名度のあるタレント出身の知事が多く、マネジメントの専門家であることはあまりない。知事を支える官僚組織はそれなりに優秀で人間的にも素晴らしい人が多い印象もあるが、いわゆる「変わった」人は少ない。

彼ら・彼女らは組織で出世するため、上司の言うことをしっかり聞き、組織のルールや空気を守ることにたけていて、年功序列の日本的組織の特徴と官僚組織ゆえの特徴が顕著だ。組織風土はどういったものかというと・・・

  • トップの権限が強く、色々な意味で振り回されることもある
  • 政策・施策・事務事業についての評価が組織にとって都合のよい形で「評価」されてしまい、見直しがされないことが多い、本来やるべき改革・改善が進まないことがある
  • 組織において少し時代に遅れたルール、不分律がまだまだ存在し、力を持っている
  • 行政法、国などの行政機関との関係性など様々な制約が多い
  • 様々な場面で儀式や前例主義にこだわってしまいがち
  • 有力者やお偉方へ配慮が優先し、効果的な事業ができにくい面もある
  • 業務に手続きやルール通りにやる必要性が多く、創造性や自由なアイデアが発揮しにくい
  • 本音の議論よりも建前の議論が横行しがち

こういった特徴があることも確かである。

別に批判しているわけではないが、ある意味、体感的なもの・筆者の研究結果と考えて欲しい。

だからこそ何をすべきか?!

筆者は、都道府県庁やそこで働く職員に対してめちゃめちゃリスペクトがある。社会的な仕事にかかわれる仕事、公共性が高い仕事と考えているし、しっかり円滑に安定的に業務執行をしているし、そこで成果は出ている。もっと都道府県民から感謝されるべきだとも思っている。

しかし、若者にとっては違うのかもしれない。都道府県庁でもし仕事や組織に自分が合わなかったら、向いていなかったら、退職することになる。若者はその転職のタイミングが遅ければ遅いほど、転職市場でかなり不利になることを理解しているのだろう。それなりの権力機関でもある行政の仕事内容を知れば知るほど、なかなか転職の際に「使えない」となるのも必要だろう。

文書や資料を完璧なレベルで作りあげること、誰もから批判されないよう空気を読み調整をすること、失敗に厳しいこと、挑戦を真の意味で奨励しないこと、過去や組織文化に疑問を持たせないこと、DXなど新しいイノベーションがやりにくいことなどを見ればそれはそうだろうと思ってしまう。

こうした厳しい状況だが、都道府県庁は組織や行政評価の徹底、仕事のやり方の見直し、エンゲージメントの向上など真の意味での「働き方改革」を地道にしていくべきだろう。ある意味「ピンチ」を「チャンス」に、都道府県庁の皆さんに期待したい。