日本の政界は筋書きがないドラマに:このゲームは岸田氏の勝ちとなるか

京アニ放火事件の青葉被告に対し京都地裁が死刑判決を言い渡しました。それは想定内で、むしろどういう判決理由にするのか注目していました。ポイントは「妄想」。これを心神喪失とか心身衰弱といった刑事能力に結び付けなかった点だと思います。「妄想」はほぼ誰でも大なり小なり持っているものです。「俺は嫌われている」とか「あの人は私に好意がある」といった話に根拠がなければ妄想であり、その想像力が膨らみすぎると勝手なストーリーが出来上がるのでしょう。これはコミュニケーションの欠如の典型と思われ、私は京アニ放火事件が現代社会に大いになる警鐘を与えていると思います。

では今週のつぶやきをお送りします。

日本株は中国次第

先週、この項で「あぁ、中国株」と題し、中国の経済回復遅れと株価の低迷について指摘しました。この一週間、わずかではありますが、中国側は低迷する株価に本気で「ヤバい」と思い始めたようで株価対策が出てきそうな気配が見えてきました。一方、日本株の1月初旬の爆上げは海外からの指数買いが大きかったとみていますが、ここにきて調整に入っています。ただ、見方によっては上げ過ぎた調整というより中国事業に力を入れる日本企業に陰りがあることが嫌気されているようにも見えます。

世界は政治的に分裂しているところも多数ありますが、経済的には強くリンクしています。日本も中国、韓国は貿易相手国として重要なのです。もちろん、長期的には一部企業が脱中国を進めていますが、そう簡単ではないのもご承知の通りです。今回の決算発表でボディーブローのように効いたのはニデック(旧日本電産)で中国のEV向けモーターが不振で永守氏にかつてのパワーが見られませんでした。「永守ウォッチ」をしている私からすれば危機感すら感じられ、体制強化が求められるところです。

ただ、日本株全般については私は全く別の気配を見ています。それは日経の225銘柄から物色対象が広がっていること、グロースやスタンダード銘柄の方に元気が良い銘柄が出てきており、ようやく活況になりそうな状況になってきている点です。騰落レシオが日経平均の動きと違う様相になっており、たぶん、225採用銘柄はしばし足踏みになっても他の銘柄の底上げが進み、そのうち、225銘柄も調整完了で上げに転じるという動きを見ています。あとは近いうちに中国が経済対策を打ち出すはずですのでそれで弾みがつくという流れになればよいですね。

日本の政界は筋書きがないドラマに

ほぼ想定通りの展開になってきました。国会が始まりましたが、野党から鋭い指摘が上がってきません。というより立憲の泉代表の「新政策研究会」が解散を検討かと報じられてます。(本人は否定。)立憲は派閥に近い政策団体/グループがいくつかあり国会での論戦になりにくいのです。同じ穴の狢ということでしょうか?個人的には今回の自民党安倍派の裏金疑惑に始まった一連の問題は日本の政界の脆弱性そのものだと考えています。つまり、政治家は一人では活動できず、皆で声を揃えて「ワンツースリー!」なのです。

では自民党の派閥はどうなるのでしょうか?個人的にはこれも予想通り、茂木派が崩れかけています。30日に派閥の集まりを行うとされていますが、さて、派閥維持ができるのか注目です。なぜ、茂木派から脱退者が続き、崩れたかですが、単に茂木幹事長の人徳のなさ以外何でもないとみています。つまりもともと人付き合いが悪く、エリート意識の塊で人的魅力に欠けていた茂木氏に求心力があったというより派閥の歴史に田中角栄と竹下登のごたごたの関係があり、その後、小渕さんの父が小渕派時代も形成するなど「名門???」とされたからでしょう。でもご承知の通り田中角栄の目白御殿は火事で焼失したのですから派閥も消滅でいいんじゃないでしょうか?

あまりニュースにはなっていないのですが、麻生氏は党が決めたルールに従うと述べており、党は派閥の存在を否定していないものの、世論が派閥解散の流れならそれに従う可能性はあります。とすればこのゲーム、岸田氏の勝ちなんです。岸田氏の薄笑いは計算ずくだったとみています。もちろん、敵も作りましたが、しばらく時間が経てば自民党の議員の中で優勝劣敗が見えてくるはずです。その上で強い指導者が必然的に何人か生まれてきて、そこにごそごそ再結集する流れを見ています。いいんじゃないですか、古い体質の集団だったので過去の慣習にとらわれないことを模索することは。

岸田首相 maroke/iStock

時代の寵児だったイーロンマスク氏

お前はイーロンマスク氏を過去形扱いにするのか、と怒られそうですが、バッサリ「過去形」と申し上げます。彼の才能は素晴らしかったと思います。PayPal、テスラにスペースXを含め、アメリカのみならず世界を巻き込んだ賛否両論の中、「世論、我関せず」を貫き、自分の信念に基づいたライフと言動を展開してきました。旧ツィッター買収の際には「勧めないけどやるなら彼は解体的出直しをする」と申し上げましたが、その通りになりました。マスク氏の性格は読めるのです。自分の色に染めないと気が済まないのです。

マスク氏がテスラの経営にどれぐらい興味を持っているのか、私は懐疑的になってきています。彼はEVで圧倒的立ち位置に立つこと目指していただけでテスラ車を儲かる会社にしたかったとは思えないのです。故に会社としての組織が大きくなった今、マスク氏の自由が利かなくなってきた、なので引き続き経営指導はするけれど実務は任せて本人は違うことに執心し始めているとみています。日経ビジネスが先週、「データ解析 テスラ 異次元イノベーション」という特集を組んでいますが、テスラ社がマスク氏と離れてもそのコンセプトを引き継いでいればそれでよいのではないでしょうか?

彼は天才肌であり、想像力と着眼点は圧倒しています。ですが、このところの彼はパッションが落ちた気がするのです。一番すごかったのはテスラの工場の立ち上げの頃で工場に泊まり込み、寝る間を惜しんで仕事をしていました。やらされ感というより爆発的な情熱だったと思います。が、今、世界でトップの富豪となり、ハングリーさを維持せよ、と言っても難しいはずです。言い換えると人はマネーと社会的地位を得ると実務能力が落ちることを証明しつつあると言えましょう。ここから先はテスラとマスク氏は別物として考えた方がよいと思います。

後記
バンクーバーの風物詩、Dine Out というイベントが開催中です。350のレストランが開催期間中の2週間、特別価格でコース料理を提供するというものですが、このコース料理、昔は35㌦ぐらいで3品コースでしたが今では55㌦とか65㌦なので飲み物とチップ、税金を入れると軽く一人100㌦(1万円)を超えます。正直、1万円払うならモチベーションは上がりません。日本で1万円ならすごい料理が食べられるのですがねぇ。そもそもグルメ度が日本とは雲泥の差のカナダではあきらめの境地です。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年1月27日の記事より転載させていただきました。