ドイツで「首相交代」求める声高まる

ドイツで戦後初めて3政党のショルツ連立政権が2021年12月に発足した時、政治信条も政策も180度異なる政党の政権は寄せ集め集団に過ぎず、政権維持は難しいだろうと受け取られた。ショルツ政権は社会民主党(SPD)、環境保護政党「緑の党」、それにリベラル派政党「自由民主党」(FDP)の3党から成る。

岸田首相、ショルツ首相と会見(2023年05月19日、広島で、首相官邸公式サイトから)

岸田首相、ショルツ首相と会見(2023年05月19日、広島で、首相官邸公式サイトから)

政権発足当初は新型コロナウイルス対策が新政権の主要課題で、ワクチン接種のおかげでパンデミックは次第に収束していった。その束の間、ロシアのプーチン大統領が2022年2月、ウクライナの軍事侵攻を始めた。欧州大陸で戦後初のウクライナ戦争はこれまで経済発展に重点を置いてきた欧州諸国はその対策にアタフタとなった。ショルツ首相は危機に直面し、「時代の転換」(Zeitenwende)というキャッチフレーズを掲げ欧米の同盟国と連携をとって対応してきた。そして昨年10月7日はパレスチナ自治区ガザ区を実効支配していたイスラム過激派テロ組織ハマスがイスラエルを奇襲して1200人余りのユダヤ人を虐殺するという事態が生じ、ドイツを始め欧州諸国はその対応に乗り出し、中東戦争の拡散防止に腐心してきた。ショルツ連立政権は想定外の外交、安保情勢に直面し、対応に苦戦したが、なんとか試練を乗り越えた。

一方、国内ではウクライナ戦争の影響もあってエネルギー価格の急騰、物価の高騰などで国民の生活は厳しくなっていった。国民経済もマイナス成長が続き、リセッションに陥り、国民の間でも政権への不満が高まっていった。与党3党の間で政治信条、政策の違いなどが表面化して、政権内の対立、意見の相違などがメディアでも報じられてきた。メディアの世論調査によると、政権与党の3党に支持率は急減し、3党を合わせても支持率は30%をようやく超える状況となっていた(安保・外交では国民の支持率を上げることは難しいことが改めて実証された)。

それに反し、野党第一党の「キリスト教民主同盟」(CDU)は支持率31%でトップを走り、極右政党「ドイツのために選択肢」(AfD)は22%と支持率を上げていった。特に、AfDは旧東独では30%を超える支持率を得ている。ポツダムでの極右関係者の会合が開催され、強制移民政策が話し会われたことが明らかになると、AfDへの批判の声は高まったが、支持率には大きく響いていない。

そのような中、ショルツ首相のSPDの支持率は13%と急落し、14%の「緑の党」にも抜かれて与党第2党の地位に甘んじていることが明らかになったのだ。そしてベルリンから突然、「ショルツ首相は退陣、後継者にピストリウス国防相」といった情報が流れてきた。ドイツやオーストリアのメディアは一斉に大きく報じた。

オーストリアの日刊紙クリアは26日、4面国際面の1ページを使い、「ショルツ自身の変わる時」という見出しを付け、「ドイツの政権でショルツ首相ほど愛されない首相はいない」と報じ、SPD内でも首相の交代を求めるが流れている、「ドイツ国民の64%が首相の交代を願い、その後継者にピストリウス国防相の名前を挙げている」というのだ。ただし、国防相が首相になったとしても、SPDは3%しか支持率を伸ばせないだろうという。肝心の後継者と名指された国防相自身「首相になる考えはない」と噂を否定している。

ショルツ首相が先日、ベルリンで開催中のハンドボール欧州選手権を応援するために会場に入ると、ブーイングの声が上がり、罵声が飛んできたという。首相の行く先々で歓迎ではなく、批判の声が飛び交うのだ。クリア紙は「首相は侮辱されても行動せず、座って、良くなることを希望して待っている。典型的なショルツ氏の反応だ」と論じている。SPD関係者も「首相は語らなければならない時、沈黙し、動かなければならない時、固まって動かない」と受け取っている。

首相への批判はどの政権でもあった。メルケル政権時代、移民・難民が殺到した時(2015、16年)、「メルケル、出ていけ」という声が聞かれたし、シュレーダー氏も首相時代(1998年~2005年)にSPD系労働組合から罵声を受けた。しかし、ショルツ首相は政権を担当してまだ2年だ。16年間の首相の座にいたメルケル前首相や7年間のシュレーダー氏とは比較できない。

今年はドイツでは6月に欧州議会選を控え、秋には旧東独の3州(ザクセン州、チューリンゲン州、ブランデンブルク州)で州議会選が待っている。「首相を変えるのならば今しかない」といった危機感がSPD関係者内にあるのかもしれない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年1月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。