米大統領選は11月の投票まで10カ月、トランプを中心とする共和党候補の選びは、事前の世論調査通りアイオワ州・ニューハンプシャー(NH)州と続けてトランプが勝利した。早々と降板したペンスに続いて、この間にクリスティー、ラマスワミ、スコット、デサンティスらのライバル候補が相次いで撤退し、その多くはトランプへの支持を表明している。
トランプがサウスカロライナ(SC)州知事から国連大使に抜擢したニキ・ヘイリーだけが、「バイデンとの戦いに集中するため早く降板せよ」とのトランプの要請に応じず、次のSC党員集会に駒を進める。が、同州上院議員のティム・スコットがNHのマイクにトランプの名を連呼する様子を見ると、SCでも目下ほぼWスコアの世論調査通りの結果になるだろう。
世論調査で他候補に大差をつけ続けるトランプは候補者討論会を全てスルーした。ここ3年間、バイデン政権と検察が共謀した訴訟(司法の武器化)が惹起される毎にトランプの支持率が上がるのは、バイデンとその一家の醜聞や民主党によるトランプを再選させまいとする様々な謀略や嘘が露見しつつあるからだ。背景には一昨年11月の中間選挙で共和党が下院過半数を制し、各種委員会議長を独占したことがある。
それらを例示すれば、BLMやアンティファによる大暴動が不問に付されている一方、「J6」事件で数百人の「釣られ犯」が入獄の憂き目に遭っていることや、左派によるLGBTやDEIやポリコレの過度な推進、気候変動原理主義や環境保護活動に起因するエネルギー価格高騰とそれに伴う物価高、1千万に近い不法移民を生んだ野放図な国境政策など、枚挙に暇がない。
これらに強烈に抗って屈しないトランプに支持者は熱狂する訳だが、その根底には彼が任期中に公約を全て実行したことへの信頼がある。偶さか今朝(28日)のTVで「サンモ二」コメンテーターらが、「米国1stでなく個人1st」「白人至上主義」とトランプを腐していた。が、彼に7400万票を与え、その後の世論調査で55%(バイデン45%)の支持を与え続ける米国民を虚仮にするもので失礼千万だ。
トランプはアイオワでもNHでも、露ウ戦争や中東の紛争を1日で終わらせると表明し、米国のエネルギーコストを半分に下げると豪語し、不法移民を強制送還すると吠えた。前任期中の彼の実績に鑑みれば、全て実現するような気になるし、事実そうするに違いない。
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残りの紙幅は米国のエネルギー政策を例に挙げる。バイデンは就任直後の大統領令でキーストーンXLのパイプライン工事を止め、シェールオイル・ガス開発業者への新規国有地賃借を禁じた。が、プーチンにその対露弱腰を見透かされ、22年2月24日のウクライナ侵略を許した。米国やEUなど西側諸国は足並みを揃えてロシアを経済制裁し、その一環でロシアからの天然ガス輸入を止めた。
それはシェールオイル・ガスのフラクチャリング採掘法で有数の産油国に伸し上がった米国には痛痒を与えないが、ロシアに依存するEUはたちまち窮地に陥った。西側諸国は、米国が新規のガス田開発を再開し、シェールガスを大増産することに期待した。が、増産はしたバイデン政権だが、22年4月に賃借を解禁した国有地は適地の2割に過ぎず、LNG輸出基地の増設許可も停止し続けている。
トランプがエネルギーコストを半減させるための政策とは、シェエールオイル・ガスの開発規制を緩和し、輸出基地を増やして大増産することに他なるまい。彼は16年11月に大統領に就任するや、公約である石油輸出国を目指してシェールオイル・ガスの開発を推進した。その結果、17年初めに日量890万バレル程だった産油量は20年2月には日量1,300万バレルに拡大した。
20年の天然ガスの純輸出量を国や地域別にみると、ロシア2,272億m3(39.7%)、中東1,243億m3(21.8%)、アフリカ805億m3、米国680億m3、その他718億m3とロシアが圧倒的なシェアを占め、その経済を支えていた。よって、ウクライナ侵攻時に西側がロシアに課した原油や天然ガスの禁輸は、ロシア経済に影響を与えるはずだった。
ところが、対ロシア制裁(=ウクライナ侵略)が始まって2年が経とうとしている現在も、ロシア経済には西側が期待したほどの打撃を与えていない様に見える。巷間では中国とインドがロシアからの原油や天然ガスの輸入を増やしているからだ、との言説が流れるもののその確証が掴めないでいた。
というのも、ロシア当局は22年2月のウクライナ侵攻以降、貿易データを一切発表しなくなったのだ。が、そのロシア貿易統計集の22年年報と23年1Q報を、北海道大学スラブ・ユーラシアセンターが入手していた。ロシア税関はウェブサイトでの貿易データ開示を停止したが、紙の統計集は発行されていて、代理店経由で例年通り入手したと同センター服部教授が述べている。
その統計に拠れば、22年の原油輸出先別の数量と構成比は、中国78,562千t(33%)、インド26,627千t(11%)、その他136,296千t(56%)、合計241,485千t(Q平均60.371千t)だった。また23年1Qの構成比は、インドの急増(600千t⇒17,328千t 16,726t増)により中国40%、インド34%、その他26%まで変化した。但し、総量は51,592千tと前年1Q平均から15%減少した。
西側各国(非友好国)への輸出量は22年1Qに35,535千tだったものが、23年1Qには8.939千tへと4分の1に激減した。主な内訳は、蘭10,470千t⇒1,470千t、独5.810千t⇒0、英633千t⇒0などEU合計30,054千t⇒8,073千t(21,981千t減)、米586千t⇒0、日676千t⇒92千tとなっている。
このロシア原油の輸出国別データを見れば、西側諸国が22年1Qから23年1Qに制裁のために減らした分の76%ほどをインド1国でカバーした計算になる。この分のかなりの部分がインドからEU各国に回っていると推察され、その量は23年1Q以降更に増加していると考えて良い(非同盟の民主主義大国「インド」のことは別の機会に論じたい)。
なぜなら23年12月11日の「ロイター」が次のように報じているからだ。11月の収入が1月の約2.3倍になっている訳だから、23年通年の数量は400百万tを優に越えている可能性がある。
ロシアは石油の輸出先を中国やインドなどに切り替え、いわゆる「影の船団」を駆使して西側の設定した石油輸出価格の上限制度の網の目をくぐり抜けてきた。11月のロシアのエネルギー収入は9,617億ルーブル(約104億ドル)で、1月の4,244億ルーブルよりもずっと多い。
そこでトランプがエネルギー価格を半分にすると演説した件に戻れば、単に消費者に半額で売った日には、シェールオイ・ガスの採掘・精製・販売などの業者はたまったものではない。よって量を増やさねばならず、そしてその増販先は自ずと海外が主ということになり、そのためにはシェール採掘の新規鉱区解禁と輸出基地の増設が必須になるということだ。
バイデンは明らかにこれの逆を行っている。数字で裏付けるとこうして縷々述べねばならないが、多くの者が気付いている様に、バイデンのエネルギー政策はロシアや中国(とインド)を利すだけで、米国(と西側)にとっては害悪なのだ。米国民の過半がトランプ再登場を待望する理由のひとつである。