再び聞こえてきたアメリカ商業不動産問題

あおぞら銀行、かつて日本債券信用銀行として君臨していましたが、1998年に破綻、その後、投資ファンドの支援の下、再建し、現体制となり、今では日経平均算出の採用銘柄にもなっています。ところが同行が24年3月期の決算を黒字見込みから一転、想定外の通期見込み280億円の赤字とし株価は21%の下落となりました。理由はアメリカの商業不動産向け融資に損失が生じるリスクをみる引当金を更に引き当てる為です。現状、アメリカオフィス市場への融資残高は2600億円程度で引当率は9.3%まで引き上げたのが理由です。

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同じ日、ニューヨークコミュニティバンクという地銀が同様に商業不動産向け損失引当金を計上したことから株価が38%も下落する事態に見舞われました。商業不動産向け融資は地銀が担っている部分が大きく、オフィス市況が構造的変化を見せる中、アメリカの地銀だけではなく、世界中に展開されているシンジケートローンなどの融資網、あるいは小口債権化によりリスクの拡散具合がつかみずらく、リーマンショックと全く同じ展開を図るシナリオさえ描けるわけで嫌なムードを感じます。

商業不動産問題は昨年春に大きく問題となりました。その際にはアメリカの金利上昇と働き方の変化によるオフィス需要の低迷がその理由とされました。その後、多くの物件はリファイナンスに成功し、持ちこたえているように見えたのですが、「臭いものに蓋をした」状態だった可能性は未だに残ります。

アメリカの商業不動産の最新市況レポートを見てみましょう。2023年のオフィス事業の売り上げは34ビリオンドルで2022年より60%減少しています。建築コストが上昇しているにもかかわらず、オフィスのリース料は前年比マイナス1.4%となっており、空室率の全米総平均は18.3%となっています。更にざっくり約1000万㎡の新規オフィスが建築中です。先日オープンした麻布タワーのオフィス部分が21万5千㎡ですのであれがざっと45棟分全米で新規に生まれる計算になります。

オフィスビルは機関投資家やREITなどが所有していることが多く、主に中長期のローンを組んでいますが、満期には当然借り換えをしなくてはいけません。その借り換え需要は2025年までに5600億㌦もあります。上述したように商業不動産ローンの引き受け手は地銀の割合が大きく、地銀が積極的に借り換えを受け入れなければオフィスローンが行き詰まることになります。大手銀行もある程度は引き受けますし、アメリカ最大の銀行、JPモルガンが救済的に地銀のローンを一部引き受けたこともあります。が、全体のスキームは「オフィスと地銀のコンビ」という括りは重要なキーポイントであります。

昨年、アメリカの地銀が相次いで破綻しましたが、それぞれに理由があったにせよ、商業不動産問題はどう見て見ないふりも感じます。

例えば私はカナダのオフィスREITに投資をしていますが、散々で同REITは昨年、3つの事務所ビルを売却し、REITにもかかわらず配当をゼロにして、経営陣も入れ替えて経営再建中になっています。幸い、手持ち案件の占有率は9割ぐらいあるので経営回復途上にありますが、オフィス全般を見れば空室率平均が18%ですから5割、6割ぐらいしか入居していない事務所ビルもごろごろあるわけです。

では専門家はどう見るのか、ですが、2024年は23年より更に下押しするが、底打ち後、緩やかな回復を見込んでいます。なぜ緩やかなのか、といえば24年半ばから利下げが本格化し、経済が活性化するとみられ、企業の投資拡大機運⇒雇用増大⇒事務所の需要というシナリオがあるもののオフィス需要は景気に対して遅行性があり、すぐに活況にはならないのです。

一方で働き方の構造的変化は時代の趨勢であり、昔のように事務所でぎゅう詰めになって働くというシーンはみられなくなりそうです。

最大の理由はITとAIの普及でCo-Workerを必要としなくなったことはあるでしょう。変な話ですが、事務所に来るのは管理職だけ。スタッフレベルは家で仕事をして、それを事務所で取りまとめるのが管理職という奇妙な構図すら見られるのです。もちろん、業務の種類により現場に来ないと仕事にならない人もいるでしょう。ですが、マンハッタンのような摩天楼という発想が20世紀の前近代的産物にならないとも限らないのです。

例えば私は1-2年のうちに事務所を海の上に浮かぶ「船」に新設予定ですが、働く場所の環境をより重視するスタイルは今後増えていくと思うのです。高層ビルより郊外の緑豊かな敷地にゆとりあるスペースの事務所を設けるスタイルは西海岸では既にだいぶ前から進んでいます。例えばマイクロソフトの本社はシアトル郊外のレドモンドというところにあり水と緑に囲まれた美しいエリアにあります。

日本でもパソナグループが一部門を淡路島に移し、話題になりましたが、本社部門だけは東京の青山に残しています。つまり上述の管理部門は出社し、スタッフは在宅勤務とスタイルは似ているとも言えます。

働き方の変化は景気動向とはまるで違う話です。極端な例えではスマホの台頭によるデジカメの衰退ぐらいの衝撃がある話だともいえます。日本は在宅勤務できる環境が十分ではない(子供がいる、狭い、プライバシーが保てない、集中できない、WIFIがない、など)があるので喫茶店でノートパソコンとにらめっこしているサラリーマンの方もいらっしゃるようです。よってオフィス需要は北米とはだいぶ違いますが、北米のこのトレンドチェンジは長い目ではアジアにも転移する可能性はあり、要注意だと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年2月2日の記事より転載させていただきました。