何年かにわたり、オンライン・ストーカーのような「歴史学者」から誹謗中傷を受け続けており、困っている。
それは熊本学園大学の嶋理人氏という方で、私より年長なのだが本名での単著がなく、むしろTwitter(X)で用いる「墨東公安委員会」の筆名で知られている。思想誌の『情況』に登場した際も、自ら著者名を「嶋 理人(HN:墨東公安委員会)」と記していた。寄稿時にそうした表記をする学者を、私はこの人しか知らない。
2021年11月に記事の形で本人にも抗議したとおり、この嶋氏は同年の3月、私に対して以下のような中傷を行った。
2011年に震災後の論客としてどちらも世に出て以来、親交があり現在は東京大学准教授を務める開沼博氏と私が論壇誌で対談したことが、なぜ「異世界へ転生」「令和の躁」と揶揄されるのか。説明できる人は(嶋氏以外)いないだろう。
さすがにまずいと思ったのか、嶋氏は2021年12月の記事で「素人が精神病の診断めいたことを勝手にいうのは重大な問題があります。この点についてはお詫びして、ご要望であればツイートも削除します」(原文ママ)と一応は謝罪した。私としては、他人の失言の揚げ足をとり続ける行為は趣味でないため、ひとまずそれでよしとしていた。
ところが嶋氏の方は、頭を下げたのはうわべだけで内心舌を出していたのか、ほとぼりが冷めるや再び「素人が精神病の診断めいたことを勝手にいう」形で、私への中傷を続けている(2023年4月と、24年1月の例)。
後者の「與那覇氏こそが「無敵の人」だった」とは、京都アニメーション放火殺人事件の判決を控えて『朝日新聞』に掲載された私のインタビューを、嶋氏が批判する文脈で発された表現である。
つまり、失うものがなく自暴自棄で大量殺人を犯す人(京アニ事件では、死刑判決を受けた青葉真司被告。判決は妄想性障害を認定した)を指す「無敵の人」の語を、嶋氏は私に用いることで「與那覇こそ誰からも相手をされない、犯罪者予備軍の一員だ」と中傷しているわけだ。
嶋氏には見境なく暴言を吐く癖があるようで、誹謗の対象は私のみに留まらない。2021年1月には、クリエイターの表現の自由を擁護するマンガ・アニメのファンに対して、こうした罵声を浴びせていた。
あまりにひどいので同年12月の記事で採り上げ、嶋氏に宛てて「豚の嘶きは学問ではなく、豚に歴史を書くことはできない」とも記した。直後に同氏は(上述のとおり、形だけ?)私に謝罪したのだが、この件に関しては弁明も反論もなかったので、以降友人とLINEする際には嶋氏のことを名前ではなく、豚の顔文字で表すことにしている。
率直に言って、嶋氏に対してはもう反省することを期待していない。なので、二度目の謝罪をしてほしいとも特に思わない。
私が問いたいのは、こうした人物が「歴史学者」を名乗り、公的な(=国が運営する)研究者のプラットフォームであるResearchmap を使って、他人(與那覇)の言論活動の全体を「典型的な「トンデモ」と化し」「もう帰還不能点を越えている」(原文ママ)のように誹謗することの、妥当性である。
嶋氏が自身のブログやTwitter ではなく、わざわざResearchmap に中傷文を発表したのは、「公の媒体でトンデモのレッテルを貼ることで、與那覇を研究者のコミュニティから追い出そう」とする意思の表れだろう。嶋氏の同業者である「歴史学者」の諸氏は、こうした行為をどう思っておられるのだろうか。
私自身、2011~14年にはTwitter を使っていたため、本名やハンドルネームで多くの研究者がアカウントを持っていることをよく知っている。中には当時、(少なくとも私の認識では)かなり親しく会話させていただいた人もいる。
しかしそうしたTwitter 上の歴史学者たちが、嶋氏のこれらの行為を諫めた例は、仄聞するかぎり今のところほとんど無いようだ。
人文学の稀な長所は、政治的な友敵の別や経済的な損得の計算とは異なる次元で、人間である以上はこだわるべき意味・尊重すべき価値が存在すると、気づかせてくれる点にある。
嶋氏が繰り返す差別と誹謗中傷のツイートにも、そうした学者の真贋を見分けるリトマス試験紙としての意義はあろう。もし読者が、いまも同氏の発言を肯定的に扱う人文系のアカウントを見かけたら、ぜひ本稿の存在をお伝えくださるとありがたい。
私としてはそれを機に、歴史学者たちが良識を目に見える形で発揮し、彼ら/彼女らの営む学会ないし学界が、健全な場所であることを社会に示してほしいと願っている。
もちろん、そうしない自由も彼ら/彼女らにはある。その場合は、歴史学者とは嶋氏のような誹謗中傷を容認する人々だという事実に基づき、同氏および(私の観点では)大差ない振る舞いを示す研究者を代表として採り上げ、その知性のなさと不要性をより一層批判してゆきたいと思う。
編集部より:この記事は與那覇潤氏のnote 2024年2月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は與那覇潤氏のnoteをご覧ください。