1月末にヨルダンのシリア国境近くでアメリカの駐留基地を無人機が遅い、米兵3名が死亡、25人が負傷する事件が起きました。犯行はイスラム過激派組織でバイデン大統領はこの事件後、「作戦を立てた。報復する」と極めて明白、かつ短い言葉で断言しました。
2月2日、そのアメリカの報復作戦が始まり、85か所を爆撃し、アメリカ本土から無給油で飛行できるB1Bも参戦、「これは始まりに過ぎず、次の攻撃もある」とカービー報道官は示唆しています。
この報復攻撃の是非の判断は難しいところでありますが、個人的には泥沼化する可能性がないとは言えないと思っています。
私が年初に提示した10大予想の一つにこんなものがあります。「世界は戦争がお好き?」と題し、「…イスラエルとハマスの戦争はもっと早い時期に一旦終結となるが、極めて敏感な問題だけにかじ取りを誤れば中東は戦禍に見舞われる。…他にも戦争が危ぶまれている地域は多く、人々が抑制できるか、その忍耐力が試されようとしている」とあります。
残念ではありますが、イスラエルとハマスの戦いがフーシ派と英米などの連合チームの動きとなり、更に今回、別のイスラム過激派がアメリカの基地を襲い、アメリカが反撃するという流れになり、とどめがなくなってきています。私が懸念しているのはきっかけが何であれ、双方それぞれの言い分には譲れない事情があり、入ってはいけない世界に踏み込んだということです。
これは世界の歴史を紐解けば必ず何度も出てくる宗教を背景にした戦いの一つであり、双方の理解が出来ず、棲み分けもうまく出来なくなった時、長い不毛の戦いとなるわけです。そして宗教は信仰をベースにしたものだけに表層の勝ち負けとは別に必ず遺恨を残すのです。
バイデン氏が今回、思い切った作戦に出た理由は明白です。「自国民に被害が出たから」でありこれはアメリカが第二次大戦中、ルーズベルトが日本に報復攻撃を開始したのと全く同じ構図であります。ルーズベルトは大統領選の公約で「戦争はしません」と述べていたため、欧州が戦禍にまみれていても第三者的立場を貫いていたのにハワイがやられたということで公約の前提が崩れたという理由付けをし、世論の賛同も得たのです。それは911のあとの報復も同じでした。
戦争をする引き金は世の中に2つあります。選挙と不況です。戦争が始まる時、このどちらかが背景にあることは多いわけです。11月に大統領選を控えるバイデン氏としては思想が真逆のトランプ氏との対峙において強いアメリカ、強いバイデンを示す必要がありました。
ただ、私はそれだけではないとみています。アメリカのこの早い報復劇は中国と北朝鮮への無言の圧力も含まれているとみています。特に今、東アジアで一番気をつけるべきは台湾問題よりも、息を吹き返した北朝鮮の暴挙であります。
北朝鮮問題については日本ではせいぜいミサイルが飛んだ、EEZの外に落ちた、首相が遺憾と述べたで終わっています。が、実態はそんなレベルではなく、私は実際には危険度5段階なら3から4番目ぐらいにあるとみています。金正恩氏はプーチン氏との取引に非常に気をよくしており、武器弾薬をロシアに売る、ロシアは北朝鮮の後ろ盾をするというウィンウィンの関係を構築しつつあり、プーチン氏の遠からぬ訪朝も大いにあり得る状況になっています。
これに対して一番神経をとがらせているのが中国であります。なぜなら中国から見て北朝鮮は歴史的冊封関係の影響がまだ残り、支配下にあると信じていたのに中国に断りもなくロシアと話を進めているからです。このため、これもあまり報道されなかったのですが、中国の高官がアメリカに飛び、アメリカと北朝鮮問題について深い協議をしており、その後、中国は北朝鮮事情に明るい高官を平壌に行かせています。多分、自制を促したのだと思います。
つまり北朝鮮に対して中国は直接的に、アメリカは間接的に圧力をかけることでやんちゃをさせないようにしているとみています。ただ、アメリカは中国外交にも高い緊張感をもって接しており、台湾問題に何か起きれば中東と同様のことが起きると見せつけていることもあります。B1Bを参戦させたのは太平洋も渡れるという誇示でしょう。
中東の話ですが、バイデン氏が賭けに出たということは失敗する可能性もあるということです。私が見るその最悪シナリオはイラン本体が報復に出て、アメリカとイランの直接対峙する場合です。これは極めてまずいのです。なぜなら原油価格が暴騰し、物流が崩壊し、ソフトランディングを目指す世界経済がパニックに陥るからです。経済だけではなく、宗教的背景とアンチアメリカ派の寝た子を起こすことになり、テロや想定しえない事態が起こるきっかけになってしまいます。その場合、日本は安泰ではありません。理由はアメリカの親友だからです。テロリストの理論は仲間は人質にとる、ですから日本を人質に取ってアメリカを動かそうとすることは当然、あり得るのです。
この辺りの感覚は日本人にはなかなか想像できないし、メディアも書かないし、書けないと思います。中東問題などを読み込む場合、欧米の記事を読まないと本当の事情はつかめないと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年2月5日の記事より転載させていただきました。