診断ミスをなくすために:人工知能をうまく使え

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1月25日のScience誌Expert Voices(専門家の声)欄に「Toward the eradication of medical diagnostic errors」という論文が報告されている。タイトルを訳すると、「医療現場での診断ミスをなくすために」となる。著者は、私が和訳した「Deep Medicine」を著したEric Topal教授だ。

このブログでも取り上げたことがあるが、米国では診断ミスによって、毎年80万人が、命を落とすか、治療不能な後遺症を残すと報告されている。「診断ミス」という言葉は医療現場では、「起こってはならないこと=論じてはならないこと」のように扱われている。40歳未満の心筋梗塞は見逃されやすいし、肺栓塞が肺炎と診断されることも少なくないようだ。

診断ミスの最大の要因は病名が思い浮かばず、それに伴って適切な検査の指示ができていないことだ。もちろん、思い込みという人間としての本質的な課題がある。

脳の思考過程にはシステム1思考とシステム2思考のあることが知られている。システム1思考は、速く、自動的に、頻繁に、感情的に、固定観念的に、無意識に行われるもので、ヒューリスティック思考と呼ばれる経験や先入観に基づく直感的な思考法(思い込み)に近い。1月2日に起きた日航機と海上自衛隊機の事故も、機長たちと管制官の思い込みがその原因として大きい。

2015 年のNational Academies of Sciences, Engineering and Medicine(米国)による報告書では、毎年、米国成人の5%が診断ミスを経験しており、大半の人が生涯に少なくとも1度は診断ミスを経験すると推測されている。 情報量・知識量が人間の記憶量をはるかに上回る上に、忙しさに追われた医療現場では、直感的な判断を強いられることが多くなるので、ミスが多くなるのは当然だ。

時間的ゆとりが生まれれば、ゆっくり、いろいろなことを考慮しつつ、論理的で、計算的で、意識的な思考であるシステム2思考が可能となり、それに、人工知能などを活用すれば、診断ミスは激減するはずだ。稀にしか遭遇しない病気は頭に浮かばないし、典型的なでない症状の場合、その判断は難しい。しかし、 日本では診断ミス=悪のような固定観念で、現実を見つめることさえタブー視されている。

質のいい医療を目指すためには、医療の現実の課題に目を向けて、それを改善していくことが不可欠だ。科学には、客観的な事実に目を向けることが絶対的に必要だ。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2024年2月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。