エルサルバドルのナジブ・ブケレ大統領が85%の驚異の高支持率で再選

人口の1割が犯罪者

ラテンアメリカで犯罪が多く記録されて来た中米のエルサルバドルで現職の大統領が85%という驚異の高い支持率を得て再選された。彼の犯罪撲滅の手法を学べという旋風がラテンアメリカで今起きている。エルサルバドルは人口750万人。そこに3つの犯罪組織が活動している。その部員の数はおよそ8万から10万人とされている。それに協力する人たちがまた100万人いると推測されている。

犯罪組織の部員の多さを反映して、2015年に殺害された人の数は10万人当たり106人。それが次第に増えて2020年には1341人、2021年は僅かに減って1147人。

ところが、ブケレ大統領は2023年に10万人あたり3人に満たない僅か2.4人まで減少させたのである。これは奇跡的な減少である。そのKnow Howをラテンアメリカの各国が見習おうとしている。

犯罪が急増した理由

最初に、エルサルバドルでなぜ犯罪が多いのかというと以下のような理由からである。

エルサルバドルは1980年から1992年まで内戦を経験。この時代は内戦に苦しむ人たちを救済するという米国の人道的支援から家族が一緒に米国に移民することができた。ところが、当時の子供が米国で若者に成長して行く過程で米国社会から差別された。そこで差別への復讐として彼らは子供の時に目撃した内戦の残虐行為を米国で真似るようになった。

それに音を上げた米国政府は彼らを本国に送還させる行動に出た。国に戻された彼らは、そこでも犯罪行為を繰り返すようになっていた。誘拐やゆすりなど容易にできる犯罪の基盤を拡げて行った。被害者が彼らの暴力に抵抗すると容易に殺害もした。

それがエルサルバドルから隣接した中米諸国に広がって行った。青年になっても職場はなく、容易に金が稼げる犯罪行為を繰り返して行くようになった。その犯罪年齢層が次第に低くなり、少年の頃から犯罪に走るようになって彼らが若者に成長して行くにつれて次第に組織は拡大して行った。

3つの犯罪組織

エルサルバドルにある3つの犯罪組織とは、M13マラ・サルバトゥルチャ、B18バリオ・スレーニョス、B18バリオ・レボルシオナリオスである。

一番規模の大きいのがM13。それに対抗して誕生したのがB18。これがさらに二分して二つのB18が誕生。彼ら部員の数は上述したようにおよそ8万から10万人いると推測されている。部員の誰もが顔や身体に入れ墨をしているのが特徴だ。即ち、人口のおよそ1割が犯罪組織に属しているということになる。

市民は外出するだけでも注意せねばならない。例えば、彼らが標的にした家の玄関の前で待ち伏せすることなど平気で行う。また企業をゆすって金銭を稼ぐことも容易に実行していた。運送業者の一人は営業の安全と引き換えに、毎月4500ドルを彼らに払っていたそうだ。

2016年の国全体で運送業者が彼らに払った金額は3700万ドルだという。2020年はコロナ禍で彼らからの脅迫は減少したが、それでも1200万ドルが彼らに払われたそうだ。2017年の統計だと、国全体で彼らのゆすりの前に支払われた総額は7億5600万ドル。これはGDPの3%に相当する金額だという。(2023年12月4日付「エルパイス」から引用)。

このような社会事情から、産業の発展は望めず、危険を伴う外国からの投資は全く期待できない。逆に多くの市民は子供たちを連れて国を脱出して米国へ移民しようとするのである。

米国の国境まで長い道のりを、危険を覚悟で挑戦するのである。何しろ、国に残っても職場はない、犯罪組織からの恐怖に常に怯えて生活せねばならない。それなら、危険を冒してでも発展の可能性のある国に向かう方が良いと多くの市民は考えるのである。その結果、国の歳入の20%は移民した人たちが国の家族へ仕送りする金額の総額という現象になっている。

ブケレ氏が大統領になった背景

その撲滅に挑戦したのがパレスチナ移民の二世ナジブ・ブケレ氏(Nayib Bukele)で、広告関係の仕事を経営していた。その後、同国で政権を担って来た2つの政党、右派のAREA(国民共和同盟)と左派ファラブンド・マルティ民族解放戦線FMLN(ファラブンド・マルティ民族解放戦線)の後者の政党に属して2つの自治体で市長を歴任した。

最初はヌエボ・クスカトゥラン(2012-2015)、そのあと首都サン・サルバドル(2015-2018)という2都市。そして2019年に国政に参加すべく中道右派の政党GANA(国民統合の為の大連合)から大統領選挙に出馬し当選。広告に関係した仕事をしていたということで自分のイメージを有権者に伝えることが上手いのが功を奏した。彼が勝利したことによって汚職政治による30年続いた2大政党による交互の政権に終止符が打たれた。

ブケレ大統領が築き上げて行ったのは、大統領に権力を集中させることであった。そして側近も彼の身内で固めた。更に、司法も彼の統制下に収めた。

ブケレ大統領の目的はただ一つ、犯罪組織を撲滅させること

だから2020年2月には治安対策として1億900万ドルの借款を議会で承認させるために議事室に軍隊を送り込んで議員に心理的に圧力を掛けるという違法的なことも実行した。強引な手段でもって承認させるという民主国家では容認できないことまで彼は実行した。何しろ司法を彼の配下に置いているので、それができたのである。

彼の目標は上述した3つの犯罪組織を撲滅させるということである。そのためには市民に対して、治安の安全は保障するが人権は保障できないという考えで犯罪組織の撲滅に動いている。また刑務所に既に収監されている仲間からの協力も必要だとして、収監させられている部員の幹部には携帯電話で外で活動している部員に容易に指示ができるようにさせた。

また、グループごとに独房を分けることもしている。ライバルの部員を一つの独房に雑居させると喧嘩が増え、また情報がライバルの組織に漏れたりするということを避けるためだ。収監されている囚人についてはある程度の要求は受け入れている。

このような手段でもって新しく建設した4万人の囚人を収容できる刑務所も加えて現在まで7万5000人が収監されているという。(1月30日付「BBC MUNDO」から引用)。

その為に警察と軍隊を総動員して市街で片っ端からこの3つの犯罪組織の部員を逮捕して行ったのである。逮捕の罪状についても警察と軍隊が適時に決め行っている。だから、無実の若者でも不審者だと疑えば逮捕している。また、彼らが逆に住民を脅して部員の隠れ場所などの情報を提供させる場合もある。また親が逮捕されて子供が残され、その祖父母が子供の世話をせねばならなくなるというケースも発生しているという。

ブケレ大統領の目的はただひとつ、街から犯罪組織の部員を一掃するというそれ以外に何もない。8万から10万人いると推測されている故に、まだ街で犯罪活動を続けている部員がいる。彼ら全員を逮捕して行くのが目的だ。

その一方で、今も犯罪活動を続けている部員や何れまた刑務所から保釈される可能性もあるかもしれない部員のことを恐れてお金を払っている企業家らもいる。しかし、ブケレ大統領は彼らを終身刑と見做して刑務所から一生出ることはないと断言している。

囚人になっても無料ではない。刑務所での食事代など170ドルは囚人の家族が負担することになっている。