速読の迷宮:有効性と批判を探る

stagnatilis/iStock

もし、速読に効果があるなら、すでに学校教育の場で取り入れられているはずです。しかし、その動きは見られません。また、受験勉強に効果があるなら、大手学習塾が導入しているはずです。

導入されていないということは、科学的に実証されてはいないということではないでしょうか。

速読の有効性に関する疑問

速読は、いつの時代にも一定のニーズがあり、さまざまな流派が誕生しているスキルです。私は、いくつかの速読術を試してみましたが、マスターできたものはありませんでした。

セミナーに参加するとサンプル本(場合によってはレポート)が配布されます。誰もが知っているような著名経営者のビジネス書です。大ヒット作ですから読まなくても中身は容易に推測ができます。実際に読めなくても読めた気分になるのでしょう。

もっとわかりやすく説明するなら、日本人に馴染みのあるエピソードの本(必殺仕事人や大岡越前や水戸黄門など)を渡されても内容は推測できます。ビジネス書も同じパターンのものが多く、内容がある程度はパターン化されています。

そのため、ページをパラパラするだけで読めた気分になるわけです。視界にはいった文字が数万文字あったとして、それを1分間に何万文字読めたと誇張して宣伝しているようにも見えます。

読書家として有名な著名人として、三木谷浩史(楽天)、熊谷正寿(GMO)などが挙げられます。インタビューなどでは、1冊を数分で読み、読書を通じて常に学び続けることの大切さを説いています。ブログやインタビューでも度々、読書の効能を語っています。

読書家に共通しているのは、あらゆるジャンルの数え切れない単位の本を読破しているという点です。読書量によってつくられた知のデータベースの存在によって、時間をかけることなく読書が可能になったものと思われます。

私も読書量は多いほうだと思います。ビジネス書であれば、タイトルや手に取っただけで本の内容が推測できますが、これは大量の本を読んでいれば誰にでも培われるスキルだと思います。

速読術の限界を理解する

キングス・カレッジ・ロンドンで神経学を研究しているアン・ロール・ルクンフ氏は、「速読術はまやかし」だと論じています。

マサチューセッツ工科大学の認知科学者であるメアリー・ポッター氏らが、視神経の構造や文字を理解する脳の仕組みから速読術を検証し、速さと精度はトレードオフであることを示しています。ほかにも、速読に関する批判的な論述を展開している研究は多いのです。

速読の指導法には、さまざまなものがありますが、その多くは、視線の動きを制御したり、文字をすばやく認識したりする訓練を伴います。しかし、これらの訓練によって、読解速度が実際に向上するかについては、科学的な根拠は乏しいのです。

速読によって読解速度が向上しても、読み取った情報の理解度が低下する可能性があることが、研究によって示されています。これは、速読によって、読者の注意力が分散され、重要な情報を見逃しやすくなるためと考えられています。

速読には流派があり、その理論や方法論は統一されていません。また、速読の効果を検証した研究も内容にばらつきがあります。速読の効果を検証するにはさらなる研究が必要になると思われます。一方で、速読の有効性を疑問視する多くの研究は数多く存在します。

尾藤 克之(コラムニスト、著述家)

2年振りに22冊目の本を出版しました。

読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)