速読は無意味?読書スピードと理解度の関係を科学的に検証する

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一般的に読書スピードが上がれば上がるほど、理解度は低下するといわれています。これは学術的にも実証されています。

今回は、読書スピードと理解度の関係を科学的検証してみます。

速読では定着率が低下する

ビクトリア大学のマイケル・マーソン教授は、通常スピード(1分間に約240語)、流し読み(1分間に600語)、速読(1分間に700語)の3つに分けて、理解度を測定する実験をしました。その結果、速読の結果が悪かったという結果を導き出します。

カリフォルニア大学サンディエゴ校のキース・レイナー教授は、大学生に通常ペースで文章を読んでもらい、次に読み返しができない方法で読んでもらい比較しました。最初の試験では、正答率は75%でしたが、読み返しができない方法では50%にとどまったのです。

これらの結果が示しているのは、速読は定着がしにくいこと、復習(読み返し)が定着に効果があるという点です。

なぜ人は本の内容を忘れていくのでしょうか。

私たちは何かを学んだとしても、時間の経過とともに忘れてしまうのです。なんで忘れてしまうのか嘆いても意味がありません。脳がそのような構造になっているからです。しかし、脳の構造を理解することで学びの質をアップすることができます。

エビングハウスの忘却曲線

エビングハウスの忘却曲線をご存じでしょうか。ドイツの心理学者、ヘルマン・エビングハウスの発表した「エビングハウスの忘却曲線」のことです。この研究では、無意味な音節を記憶したうえで、時間とともにどれだけ忘れるかを数値化しています。

20分後 には 42% 忘れる
1時間後 には 56% 忘れる
9時間後 には 64% 忘れる
1日後 には 67% 忘れる
2日後 には 72% 忘れる
6日後 には 75% 忘れる
31日後 には 79% 忘れる

ただし、この研究結果には注意点があります。それは、無意味な音節を覚えたときの研究結果だということです。これが意味のあるデータだったらどうなったでしょうか。

たとえば、銀行の暗証番号や自宅の電話番号はなかなか忘れないものです。意味のない4桁の暗証番号は忘れてしまいますが、意味のある暗証番号はなかなか忘れません。意味のない10桁の電話番号はすぐに忘れてしまいますが、自宅の電話番号はなかなか忘れません。

これらの研究結果からは何がわかるのでしょうか。

ポイントは3つあると考えられます。

  1. 何かを学ぶとき、それが意味のあるものなら暗記はたやすいこと
  2. 意味のないものは、すぐ忘れてしまうこと
  3. 復習を重ねるごとに、忘れにくくなり記憶に定着すること

記憶に定着させるには

カナダのウォータールー大学の研究結果では、何も知らないところから学習し知識を得た場合、記憶は100%のところに上がります。学習をしないと、時間の経過とともに記憶は失われていきます。しかし、24時間以内に10分間の復習をすると、記憶率は100%に戻ります。

さらに、1週間以内に5分の復習で記憶がよみがえり、1カ月以内に復習すれば、2〜4分で記憶がよみがえります。10分程度の復習で学んだことが定着しますから、その日の復習、1週間以内の復習、1カ月以内の復習がいかに大切か理解できると思います。

読書スピードと理解度の研究は事例が豊富です。速読は理解度を低下させるものの、意味のあるものは暗記しやすく、復習を繰り返すことで記憶が定着することが示されています。

尾藤 克之(コラムニスト、著述家)

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