安全保障という観点で世界を見た時、戦後の和平バランスが取れた時代から明白に変化しつつあります。ウクライナ問題とイスラエル/ハマス問題はその典型ですが、一部の国家指導者は和平の我慢をしなくてもよいと思うようになり、力による誇示を示すことに価値観を見出そうとしているように感じます。
朝鮮半島の和平バランスも同様かと思います。北朝鮮は長年貧しく、西側諸国からの制裁も厳しく、国民は耐え忍び、軍部は不満を抱える中、若かった金正恩氏は国家指導者として試練の日々でありました。が、金氏が変わり始めたのが何故なのか、明白なるきっかけはわかりにくいのですが、自身の性格がそれまでの守りの姿勢から攻めの姿勢に変わったことは事実です。
その一つに中国の北朝鮮に対するグリップが甘くなったことがあるとみています。かつては北朝鮮は中国の傘下ぐらいであり、北朝鮮のヤンチャも中国という親の前では静かにせざる得ず、中国も飴とムチ的な政策で北朝鮮を手なずけていました。が、習近平氏が金正恩氏に手を焼き、興味が失せたのは昨日今日ではなく、感覚的にはトランプ氏が金氏と何度か会談をした時代から徐々に進んでいったとみています。また、金氏も中国を目の上のたんこぶ扱いで「触らぬ神に祟りなし」的な距離を置く政策を取ってきました。
そこにウクライナ戦争のよる特需が生まれ、北朝鮮が「好景気」になったことで金氏をより強気にさせたことは間違いないとみています。日経によるとロシアがウクライナ戦争に使用する武器、弾薬は北朝鮮から相当量を調達しているとしています。また、金氏にとって自国で作るそれらの兵器がどれだけの威力を発揮するのか試験することが出来、将来的に権威主義国家向けの兵器の大供給網を確立することすらできるのです。
この自信は23年末の党中央委員会総会での韓国との関係を平和的解決手段を探る努力から転換し、敵対国とみなすと発言することに繋がります。更に奇妙なのは能登半島地震の際に岸田首相あてにお見舞いのメッセージを送ったことが話題になりました。かつてそんなことはあり得なかったのです。まだあります。妹の金与正氏が個人的見解と断った上で日本が拉致問題を出さないならば岸田首相の訪朝はあり得ると述べたのです。この談話が2月15日です。これは驚きで一体北朝鮮に何が起きているのか、更なる疑念が生じない訳には行かないのです。
一番単純な見方としては日韓の「良好な」関係を切る為ではないかとされます。つまり、北朝鮮が日本に対して「囁き」をすれば日本としてはすぐに反応しなくても岸田首相は自らの外交能力に自信を示し、「ぜひともそのチャンスはつかみたい」と食いつくだろうとみているわけです。仮にその餌に釣られて北朝鮮にでも行けば厚遇される一方、尹錫悦大統領との「蜜月」とも言える関係にすきま風が吹くことはありえましょう。
一方、アメリカ大統領選でトランプ氏が当選した場合、面識がある金正恩氏は確実にトランプ氏に祝電を打ち、再度面会の機会を探るものと思われます。その間、プーチン氏は3月の大統領選後に訪朝する公算は極めて高く、北朝鮮が大国の外交の拠点として一気に注目されることもあり得るのです。とすれば中国も黙っているわけにはいかず、習近平氏の訪朝を検討せざるを得なくなる、そうすれば金氏にとっては極めて都合の良い外交展開となるわけです。
東アジアの貧しい権威主義の小国が世界の大国の首脳がやって来る国家となり金正恩氏の北朝鮮内での評価は天に届くほどの高さとなり、国民と軍部の信頼を一気に勝ち取れるわけです。これが金氏の勝利の方程式であります。
当然ながら日本が恐れなくていけないのは北朝鮮向けの戦後補償の問題であります。これは今まで何もしていません。仮にその話が出てくるとすればその額たるや天文学的金額になりえるのですが、「時効」という発想が出来たとしても日本が拉致問題で押すレベルとはまるで違う次元の交渉となるはずです。この点からすれば実務的にも現実的にも日本は内心近寄りたくないはずです。但し、政治的にポイントゲットしたい岸田首相はその手中にはまるかもしれません。
そもそも外交関係がない訳で、そのルートは長年北京経由でした。が、北京経由の外交がうまくいかないならば本来ロシアルートを探らねばなりませんが、ロシアは既に日本向け制裁リストなるものを作っているわけでそんな外交ルートはないに等しいわけです。
強気になった北朝鮮は今後、日本にとって頭痛の種になるはずです。この手の問題は一部の報道に留まっていますが、個人的には日本に直接影響がでる最重要な外交イシューになるとみています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年2月16日の記事より転載させていただきました。