宇宙の仕組みは人知の範囲では理解できない。宇宙の90%以上を占める暗黒物質の謎を挙げてもそうだ。これまで分かっている数パーセントの知識で宇宙を考えることは、小学生が大学院の試験に向かうようなもので無理がある。
ところで、地上でも宇宙のように人知では理解できない世界が多数ある。その一つは北朝鮮の金ファミリーの現状だろう。オープンソースで分かる情報を基に、金ファミリーの内情を理解することはフェイクニュースもあって難しい。
知人の北朝鮮国連外交官が昔、「君、わが国に関する欧米諸国の情報の90%以上は偽情報だよ。時たま、スクープ情報として日韓メディアを飾るわが国に関する情報は記者が金で買った情報が主で、その真偽は記者も確認できないのだ」と笑いながら語ったことを思い出す。
そこで当方は、北朝鮮とは金銭関係などの癒着がなく、純粋に情報の世界から推測するChatGPTの生成AI(人口知能)に北朝鮮情報について質問してみた。結果はサプライズはなかったが、日韓メディアや欧米諸国で流れてくる北朝鮮情報を整理するうえで役立つ。ここでは、なぜ金正恩総書記は娘金主愛(キム・ジュエ)を重要な党や軍部のイベントに随伴させるのかを中心に質問した。紙面上、AIの回答を縮小せざるを得なかった。
1)金正恩総書記が娘の金主愛さんを公の場や重要な行事に連れて行く理由について。
AIは4点に整理している。
①後継者の確立
②国内外への発信
③女性指導者のシンボルとしての利用
④家族の結束と支持の表明
AI:「金正恩氏は、自身の後継者を準備することが重要だと考えている可能性がある。金主愛さんが公の場に登場することで、将来的に北朝鮮の指導者としての役割を引き継ぐことを示唆することができる。国内外に対して北朝鮮の指導部の結束や連続性をアピールするために、家族の一員を公の場に登場させることで、政権の安定性を強調しようとしている可能性がある。また、金主愛さんが登場することで、北朝鮮が女性の権利や役割について進歩的な姿勢を持っていることをアピール、北朝鮮のイメージ改善の効果が期待できる。そして金正恩氏が娘を公の場に連れていくことで、家族の結束や支持を象徴し、政権内での信頼や忠誠心を高める効果がある」
2)金正恩氏は李雪主夫人との間に3人の子供がいるが、金正恩総書記は金主愛さんを長男よりも優先して公の場に連れていく理由。
AIは4点を挙げて整理している。
①長男の若さや経験の不足
②金主愛さんの能力や魅力
③政治的戦略や内部政治
④ジェンダーに対する政治的メッセージ
AI:「長男は若く、指導者としての役割を果たすにには経験と教育不足。一方、金主愛さんは成熟しているか、または政治的な教育を受けている可能性がある。金主愛さんが優れた指導能力や魅力を持っており、長男よりも金主愛さんの方が、北朝鮮政府や金家のイメージを向上させるのに適していると判断されたのだろう。長男と金主愛さんの間には、内部政治や派閥争いなどの複雑な要素が存在するかもしれない」
3)金正恩氏はまだ30代だ。後継者問題を現時点で考える必要性はあるのか。
AIは4点に整理している。
①家族の政治的影響
②政権の安定性と継続性
③外交的影響
④歴史的前例
「北朝鮮の政治体制は個人指導者に大きく依存しており、後継者問題が解決されない場合、政権の安定性や継続性に影響を与える可能性がある。金正恩氏が後継者を早期に決定することで、政権の安定性を確保しようとする動きが考えられる。金正恩氏自身が父親の金正日氏から指導権を継承した経緯がある。このような歴史的な前例から、金正恩氏も後継者問題を早い段階で考慮せざるを得ないと感じている」
4)金正恩氏が政権の安定性、継続性を重視しているということは、北朝鮮の現政権が不安定か、危機にあることを示唆していないか。
AI:「その通りだ。金正恩氏が後継者問題を早い段階で考えている理由の一つは、現政権の安定性が不安定である可能性がある。北朝鮮は内外のさまざまな要因により政治的、経済的な不安定要素を抱えており、そのような状況下では政権の継続性に対する不安が高まる。政権が安定している時に後継者問題を考えることは一般的には必要ないが、北朝鮮のような政治体制では、指導者の病気や死亡などによる予期せぬ事態が発生する可能性があるため、常に後継者問題に対する備えが求められるわけだ。後継者が明確に決まっていることで、政権内の混乱や権力闘争が最小限に抑えられる効果が期待できる」
5)金正恩総書記と実妹の金与正労働党副部長との間で権力争いや軋轢が生じている可能性について。
AI:「確定的な情報はないが、北朝鮮の政治体制では、権力闘争や派閥間の対立が常に存在する。金与正氏は金正恩氏の妹であり、兄である金正恩氏の支持を受けながら、労働党の副部長として一定の権限を持っている。一部の報道では、金与正氏が金正恩氏の信頼を受けて、政権の中核的なポジションを担っているとされている。北朝鮮の政治情勢は非常に閉鎖的であり、情報が限られているため、内部の権力関係や対立については推測するのが難しい」
朝鮮中央通信(KCNA)によると、金与正朝鮮労働党副部長は15日、「個人的見解」として、日本が政治的決断を下せば「岸田文雄首相が平壌を訪問する日が来る可能性もある」と述べた。ただ、拉致問題は「解決済み」という北朝鮮の従来の立場に変化はない。金与正さんの談話は、岸田首相が9日の衆院予算委員会で金正恩総書記との首脳会談実現に対して意欲を示したことに対する答弁だ。
最後に、金正恩総書記の李雪主夫人について。李夫人はファーストレデイ―の立場にあるが、公の場に登場する機会がここにきて減っている。金正恩氏は後継者問題を考えるうえで、「白頭血統」を重視するため、金王朝の直系ではない李夫人は後継者レースで選択外にいるからだろう。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年2月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。