アートと会計の不思議な関係:経営と数字のパズルとは?

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いいパフォーマンスができたら、いいモノが作れたらOKの時代ではありません。

クリエイターやアーティスト、フリーランスの方々は、いいモノが作れたら、いいパフォーマンスができたらOKと思いがちです。

しかし、それは間違いだったのです。

ギャラをいくらにする?」(堀内雅生 著)秀和システム

アートはビジネスである

著者は、瀬戸内の島々にアートを鑑賞する旅に出て、最後に倉敷の大原美術館を訪ねます。大原美術館は、日本初の私立西洋美術館として、倉敷紡績株式会社の社長・大原孫三郎氏が私財を提供し、1930年に開館しました。そして、次のように言います。

「モネの『睡蓮』など世界の名画などが集められた90年以上の伝統を誇る美術館ですが、地域や企業との連携を積極的に図って、さまざまな鑑賞会を企画し、SNSで毎日発信するなど来場者を増やす取り組みをされています。この大原美術館は、公益財団法人という営利を目的としない団体ですが、どうして営業活動を熱心にやっているのでしょうか?」(著者)

「あるいは『公益を名乗るのに、営業活動をしていいの?』と思う方もいるかも知れません。実は、この『営利を目的としない(非営利)』というのは、事業をしてはいけないという意味ではなく、普通の会社のように事業をおこなって得た利益を、団体の構成員(会社なら株主、財団法人では評議員)に分配せず、その団体の活動に使わなければいけないという意味です」(同)

公益財団法人も、設立目的の範囲内で事業活動をおこなっていいことがわかります。「公益」とか「非営利」という言葉から、無償のボランティア活動と思う方も多いようですが、それは違うのだと、著者は言います。

「存続していくためには活動資金が必要です。お金がなければ活動に必要な資材なども買えません。そこで働いている方もいますが、趣味や娯楽ではなく、お仕事ですのでお給料を払わないといけません。ということは、運営にかかるお金以上に稼げないと続けられないことになります。自立して運営していくためには、お金を稼ぐ商いの感覚を持つことが大切になります」(著者)

会計はパズルである

著者は、会計は数字のパズルだと言います。事業の原因と結果は数字によって表されます。会計を知ることで、事業を継続・拡大させる方法やリスクを回避する方法がわかります。会計は、自分の活動を他人に見せる表現方法でもあるのです。

会計は、芸術や技術や医療など、あらゆる分野に関係し、ビジネスはもちろん、自分の未来を切り拓くための重要なツールであることがわかるでしょう。本書は、会計に近づきにくいと感じる方に、会計のやり方だけでなく、その背景やストーリーも伝えています。

本書は、著者が日芸(日大芸術学部)で会計を教えるというミッションから生まれました。芸術と会計は、意外にもつながっているのです。この本を読んで、会計の本質を理解し、会計のパズルに挑戦してみてください。

本書のテーマであるギャラ(出演料、作品料、サービス料など)には定価はあってないようなものです。定価がない「ギャラ」は、損益分岐点を探り当て、それから逆算すると把握しやすいのです。フリーランスに必要な会計の知識が、この1冊で簡単に理解できます。

尾藤 克之(コラムニスト・著述家)

2年振りに22冊目の本を出版しました。

読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)