筆頭株主が日銀という奇形な市場
株価が3万9000円台をつけ、34年ぶりに最高値を更新しました。4万円超えの強気論も浮上しています。全国紙はどこも1面トップの扱いで、日経新聞の1面は紙面のほぼ全部を占める「全段ぶち抜き」、関連記事に何ページも割く力の入れようです。
日経は「ついに天井を突き抜けた。もはや『バブル後』ではない。株価は上がらないものというマインドセット(思考様式)に変化を迫るに違いない」(1面解説)と、相当盛り上っています。
34年ぶりの高値更新ですから、大きな節目ではあります。肯定的に評価する一方で、「34年もかかったのはなぜ」、「この間、米国株は10倍以上、EU株(ユーロストック指数)は4倍以上も値上がりしている。日本は1倍に過ぎない」と、「最高値」といっても実感が沸いてこない人も多い。
株価だけをみて「史上最高値」とはやすには、日本の経済指標がなんとも、ちぐはぐな姿を描きだしています。日本のGDP(国内総生産)はドイツに抜かれた4位に転落、日銀が株式市場の筆頭株主であるという奇形な姿(株価下支え機関)、日銀が500兆円以上の国債を保有(大量の資金注入機関)などをみるにつけ、何が日本経済の本当の姿なのかと考え込む。
円安で株価が割安になり、外人投資家の分散買いの対象に選択されているのが株高の原動力なのか。中国経済の極度の停滞からくる資金シフトの結果なのか。長期にわたる大規模金融緩和・財政拡大政策(アベノミクス)のつけは大きく、その出口の模索は始まったばかりというのに、株価低迷は「天井を突き抜けた」と判断するのは甘すぎる。
植田日銀総裁は22日、「デフレではなく、インフレの状態である」と発言しました。「インフレだから株価も上がる」といいたかったのか。「インフレだから金融政策を正常化していく」と言いたかったのか。両様に解釈できるように語ったのか。
ではどうするのか。黒田・前総裁の「消費者物価2%が目標」に始まり、「今はコストプッシュ型の物価上昇」→「基調的な物価動向をみる」→「デフレでない状態になった」→「賃金と物価の好循環を待つ」→「インフレの状態になった」と、総裁は言葉の綱渡りを続けています。政策判断のための時間稼ぎをしています。
恐らく、日銀総裁にとっては、動こうにも動きにくい状態こそ、居心地がいいに違いありません。株価は23年初は2万5千円、24年初からは5800円高の3万9千円と急ピッチの高騰です。その結果、日銀が保有するETF(上場投資信託)の時価は67兆円(簿価は37兆円)で、含み益は30兆円です。就任当時は、こんな株高を想定していなかったでしょう。
植田総裁は「今後、金利が1%上昇すると、日銀が保有する国債の評価損は40兆円になる」とも、国会で発言しています。「国債の評価損が40兆円、株式の含み益が30兆円」で差し引き10兆円のマイナスです。「株高歓迎、あと1歩か2歩」と思っているのかもしれません。
「株価が続騰すれば、日銀の財務危機はなんとかしのげるかもしれない」と、期待し始めた違いない。もっとも保有株の含み益があっても、大量に売れば、相場が崩れ含み益が減る。含み益を実現するためには、売却のタイミング、相場状況の見極めという難しい判断が必要です。
日銀は上場株の7%を保有し、配当所得は年8千万円と推定されています。大量の保有株(時価67兆円)、大量の国債保有(500兆円)をどうするのか。「史上最高値」を言い切るためには、日銀保有株を手離し、国債購入を減らし、日銀が過度の市場介入を止め、マヒしている市場機能を正常化しなければなりません。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2024年2月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。