ウクライナ戦争:継戦と停戦それぞれの行く末

NiseriN/iStock

ウクライナ戦争開始から2年が経過した。戦況については、ロシアの黒海艦隊は実戦経験の少なさからか旗艦モスクワが撃沈されたのを始め弱さを露呈している一方、陸戦では東南部4州の大半を押さえたロシアの優勢は動かない状況となっている。

今後継戦するか停戦するかによって、当事両国および世界に何を残してどう影響するかを考えてみたい。以下は専門家を含め恐らくは賛同は少ないと思われるが、筆者なりに詰将棋風に考えるとこうなるという事でご容赦願いたい。

継戦の場合

ウクライナは更に疲弊するだろう。西側の更なる支援があっても兵員不足と練度の不足で戦況を逆転するのは難しい。スナクとマクロンは直接参戦もチラつかせつつプーチンを牽制するが、その場合プーチンは予告通り核を使うだろうから現実的なオプションとしては考え難い。

ロシア優勢のまま、だらだらと戦争は続き、米国のヌーランド国務次官が明言している通り、援助は主に米国の軍事産業に還流するため、米現政権にとって積極的な停戦のインセンティブにはならないだろう。

ロシアは西側の制裁により、虎の子のガスと石油を中国とインドにディスカウントして売っているが、サウジ筆頭にOPECの減産等でベースの価格は下がっていない為、結果ロシアのGDP成長率を押し上げている。加えてここに来てガザ紛争でフーシ派が西側船舶に対し紅海航路を塞いでいるため、ロシアに更なる追い風になっている。

中露は更なる疑似同盟化を強め、現下は不動産バブル崩壊で喘いでいるものの中国のベースの市場規模と、ロシアの資源・食料、加えて味方に引き込んだグローバルサウスの市場が融合し、巨大な経済圏を形成し西側を追い詰めるだろう。

停戦の場合

米バイデン政権は、少なくとも11月の大統領選までは、ウクライナ戦争から降りる訳には行かない上に前述の支援の米軍需産業への還流もあるため、具体的に停戦が見通せるのは大統領選でトランプが勝った場合となる。

トランプは宣言通りプーチンと話を付け、ウクライナへの軍事支援を打ち切り停戦に向かわせると見られる。ロシアへのウクライナ東南部4州とクリミアの帰属を既定事実とし、ウクライナの中立国化を図るだろう。

なお、以下は議会の状況が許せばという条件付きとなるが、トランプは中国が米国にとって最大の敵とも明言しているため、中露疑似同盟間に楔を打ち込んで事実上の「米露同盟」若しくは協商関係に入り、中国に再び貿易戦争を仕掛け、グローバルサウスを逆に巻き込んで「拡大中国包囲網」の形成を目論む。その際、日本は鎹(かすがい)としての機能を果たし得る。NATOは、事実上解消され拡大中国包囲網の一翼の機能に組み替えられるだろう。

加えて、トランプ、プーチン共通の「グローバリズムvs ナショナリズム、自国ファースト」の世界観の下に、LGBT、CO2地球温暖化説、パンデミック時のWTO権限強化・・・・等々に対する巻き返しが図られる。

以上は、あくまでもトランプ再選がなされた場合である。ウクライナから話が離れたので、元に戻すと、日本で著名なウクライナ人であり現地でボランティア活動を続けるボグダン・パルホメンコ氏は、ここに来て「ウクライナは永世中立国家として行くのがいいのではないか」と発言している。元々そうすればウクライナ戦争は起こらなかったと思われるが、ウクライナの国益を深く考える当事者からこうした声が出てきた事は大きい。開戦から2年を経たこの期にウクライナ停戦へ向け、国際世論が形成されるべきだろう。

なお、保守論壇の有力リーダーである櫻井よしこ氏は、「トランプ氏が大統領に復活すればウクライナ支援は終わります。ウクライナの運命は台湾有事の際の日本に似ています。私たちはウクライナを負けさせるわけにはいきません」と述べている。

ロシア・ウクライナ関係と中国・台湾関係のアナロジーに注目した見方だろう。だが中国敵対姿勢を控え、国内に深刻な民族対立を抱えてはいない台湾は、ウクライナの状況とは異なる。筆者は中露分断し拡大中国包囲網でロシアに中国を背後から牽制してもらう方が、台湾および日本の安全保障に現実的に資すると考える。なお仮に包囲網が出来た際には、北朝鮮も中国と心中する道は選ばないだろう。

筆者は、世界も日本も皮相な理想論やステレオタイプの冷戦思考から脱し、主体的に考え動く事抜きに、混迷深まる時代を乗り切る事は出来ぬと考える。