武器禁輸に過剰な期待を持つものではない

aapsky/iStock

日経でロシアが日本製を含む外国製コンポーネントや生産手段を入手している記事が、一日の朝刊で3本でました。これは結構珍しいのではないでしょうか。

ロシアのウクライナ侵攻が始まって、経済制裁によりロシアの兵器産業は大打撃を受けるといっていた「専門家」の人たちが一定数おりましたが、ぼくは何度もご案内のように否定的でした。

それは、そもそも武器禁輸の効果に完全は期待できないからです。ぼくはアパルトヘイト末期の南アフリカを何度も取材しました。南アは冷戦時代を通じて、兵器の国産化、しかも高性能な兵器を国産開発、生産してきました。

当時はほぼ全世界から経済、軍事のエンバーゴを受けていました。ですがそれでも開発や調達を行ってきました。

それは水面下で、反共という立場で欧米が密かに支援していたこと。各国の兵器メーカーの人間が会社をやめて個人の資格で南アに移住して開発に関わってきました。元ATEのフランス人の社長などその好例です。これに欧米の政府や企業の関与が無かったことはないでしょう。

そして同盟国の存在です。同じくエンバーゴにあっていたイスラエル、それに台湾との強固な関係があり、互いに支援し合ってきました。特にイスラエルから技術支援だけでなく米国製のコンポーネントも同国からはいっていたでしょう。この関係の裏には、南アにはユダヤ系が多いという背景があります。ヨハネスブルグはニューヨークについでユダヤ人が多い都市でした。その存在が南アとイスラエルの関係の基盤にありました。

また、あまり知られていませんが、冷戦時代南アはイスラエルの弾薬の最大の顧客でした。両国は秘密裏に核兵器の開発にも成功しました。

また日本のメーカーも撤退したことになっていますが、関係は維持してきたようです。南アの大手自動車メーカーの幹部は月一でトヨタの人間が訪れていると証言していました。そして94年の民主化選挙が終わるとすぐにトヨタや日産など日本企業はビジネスを再開しました。

90年初頭に取材した、事実上の国営兵器工廠であるLIW社の製造ラインで使用されていたのは、日本製の工作機械で検査用機器も日本製が多かった。これらは本来輸出されてはいけないはずですが、おそらくイスラエルや台湾経由で行われたのでしょう。

ぶっちゃけ、国家が存亡を掛けて戦っているときには何でもありです。収賄や脅迫、暗殺もやるでしょう。

今回の場合は南アやイスラエルほど多くの国が参加しておらず、特に中国やインドといった国の経由が可能ですからガバガバです。

更に申せば、冷戦時代に比べて、兵器に民生品あるいは汎用品が使われることは拡大に増大しています。そして軍事向けよりも高性能である場合も多い。

ですからエンバーゴは無駄だとは言いませんが、それに過大に期待することできない、ということです。

ロシア、戦車関連部品を日本から迂回調達 中国経由で

ロシア、戦車関連部品を日本から迂回調達 中国経由で - 日本経済新聞
ウクライナに侵攻するロシアの軍需企業が、戦車生産に必要な日本製や台湾製の精密機械の部品を調達し続けていることがわかった。日本経済新聞が入手した取引記録の内部資料によると侵攻した2022年2月以降、ロシアの同盟国ベラルーシの政権関係者が中国に設けた企業を通じて各種の部品を買い取り、ロシアに送っていた。ロシアの軍需産業を狙...

ロシアの軍需企業が、戦車生産に必要な日本製や台湾製の精密機械の部品を調達し続けていることがわかった。日本経済新聞が入手した取引記録の内部資料によると侵攻した2022年2月以降、ロシアの同盟国ベラルーシの政権関係者が中国に設けた企業を通じて各種の部品を買い取り、ロシアに送っていた。

ロシアとベラルーシ、中国などの企業間の契約書や取引記録、金融機関の支払い記録などが含まれている。

ベラルーシのルカシェンコ政権の関係者が中国広東省で22年に「深圳5Gハイテクイノベーション」社を設立。日本や中国、台湾で造られたモーターやセンサーといった戦車などの兵器生産に不可欠な精密機械部品の調達を進めた。

深圳5Gが調達した部品リストには、日本の工作機械の位置決めセンサーのメトロール(東京都立川市)や精密モーターのオリエンタルモーター(東京・台東)、愛知県の工作機械大手の製品型番が含まれている。

中国企業が保有していた在庫を深圳5Gが買い取ったとみられている。深圳5Gはこれらの部品をベラルーシの軍需関連企業「サレオ」や「LLC付加技術研究所」(LLC)に送っていた。いずれの組織も同国のルカシェンコ政権の管理下にある。

例えばメトロール製とみられるセンサー部品は23年5月、1ユニット1万6035元(約33万円)でサレオに輸出されていた。

ベラルーシの軍需企業と台湾企業との直接的な取引を示す資料もあった。それによるとLLCは22年、台湾の精密機器メーカーの「ATTOPTIC」社製のエンコーダーディスクの調達に着手した。

エンコーダーディスクは移動量や方向、角度をセンサーで検出するためのエンコーダーの内部に搭載する円板で、T72などの戦車のパノラマ照準器に使われる。調達された600ユニットはLLCから10万8864ユーロ(約1770万円)で米英の制裁対象に指定されているロシアの「Peleng」社に売却されていた。

狙われた日本品質、定価の20倍も 迂回取引の根絶困難

狙われた日本品質、定価の20倍も 迂回取引の根絶困難 - 日本経済新聞
日系メーカーの製品が中国やベラルーシを経由してロシアの兵器製造に利用されている。ロシアは高い性能の兵器を確保するため、部品の調達や生産設備の維持に躍起だ。世界各国に広がったサプライチェーン(供給網)の中から、非正規ルートを断つ難しさが浮き彫りになっている。日本経済新聞が入手したベラルーシ企業の取引資料には、メトロール(...

日系メーカーの製品が中国やベラルーシを経由してロシアの兵器製造に利用されている。ロシアは高い性能の兵器を確保するため、部品の調達や生産設備の維持に躍起だ。世界各国に広がったサプライチェーン(供給網)の中から、非正規ルートを断つ難しさが浮き彫りになっている。

メトロールは工具の摩耗具合を検知するセンサーで「世界トップクラスのシェア」(同社)だという。

オリエンタルモーター(東京・台東)の産業用モーターやモーターの力を引き出す機械部品とみられる型番も記載があった。ベルトコンベヤーなど生産ラインに使われるものだ。

取引資料にはほかにも日系メーカーの工作機械に組み込むためとみられる電機部品がみつかった。こうした部品のなかには、定価の20倍の価格で取引された形跡が残るものもあった。中国などで複数の業者を経るなか、価格がつり上げられたとみられる。

メトロールも、過去に出荷し間接的な取引先を経て流通する在庫について「当社が関与することは極めて困難な状況」と説明する。

ロシアの兵器製造の現状について、東京大先端科学技術研究センターの小泉悠准教授は「西側諸国が当初想定したほどには崩れなかった」と解説する。もともと機械産業の地力があることに加え、比較的弱いとされるセンサーや通信関連の部品については、欧米や日本が禁輸しても第三国をバイパスに調達網を再構築していると指摘する。

「兵器産業、想定ほど崩れず」小泉悠・東大先端科学技術研究センター准教授 戦時動員・迂回調達で持続

「兵器産業、想定ほど崩れず」 - 日本経済新聞
ウクライナへの侵攻を続けるロシアが兵器の製造能力を維持している。欧米が軍事転用可能な製品の輸出を禁じても、迂回取引などを通じて一部の部品を確保している。ロシアの軍事戦略に詳しい小泉悠・東大先端科学技術研究センター准教授に聞いた。――ロシアの兵器製造の現状をどう分析していますか。「西側諸国が当初想定したほどにはロシアの兵...

――制裁に効果はありませんか。

「侵攻から2年が経過し今後は、これまでに西側諸国が敷いてきた対ロシア制裁の効果が出てくるかもしれない。切削工具など工作機械の保守部品の調達のほか、生産設備向けのソフトウエア更新などが滞っているはずで、影響がどのように表出してくるか注目したい」

【本日の市ヶ谷噂】
安倍晋三政権で首相秘書官を務めた、島田和久元防衛次官は官邸の威光を「悪用」してイージスアショアを横紙破りで行ってお手つきでSPY7を防衛省に買わせて、無様に失敗したが、イージスシステム搭載艦をでっち上げることに成功するも財務省の抵抗もあり、取得した2基のSPY7を転用して2隻で打ち止めとなった。が、常に2隻を稼働させるためにはもう一隻必要だと3隻目の必要性をアピール、との噂。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2024年2月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。